人文研究見聞録:梅宮大社 [京都府]

京都府京都市右京区にある梅宮大社(うめのみやたいしゃ)です。

奈良時代に創建された橘氏の氏社であり、酒造と安産の神として古くから信仰を集めているとされています。

また、境内に多くの奇岩が祀られていることが珍しく、庭園は杜若や花菖蒲の名所として知られているそうです。


神社概要

由緒

由緒書によれば、奈良時代(8世紀頃)に橘氏の祖である橘三千代(たちばなのみちよ)が橘氏の氏神として現在地より南(現在の綴喜郡井出町付近)に創建したことに始まるとされています。

その後、平安初期に第52代嵯峨天皇の皇后・橘嘉智子(壇林皇后)によって現在地に遷されたと伝えられており、この壇林皇后が皇子に恵まれなかった際、本殿横に鎮座する「またげ石」をまたいで子供を授かったことから、現在でも石をまたげば子宝に恵まれると云われており、石の下にある白砂は安産の御守とされているそうです。

また、当社祭神の酒解神(大山祇神)、大若子神(瓊々杵尊)、小若子神(彦火火出見尊)、酒解子神(木花咲耶姫命)は、日本神話において酒造と縁があるとされることから、当社は古くから安産と酒造の神として有名であるとされています。

なお、由緒書による説明は以下の通りです。

奈良時代の政治家であった橘諸兄(たちばなのもろえ)の母・縣犬養橘三千代(あがたのいぬかいのたちばなのみちよ)が、橘氏の氏神として現在の綴喜郡井出町付近に創建したのが始まりといわれる。平安時代の初め、嵯峨天皇の皇后・橘嘉智子(たちばなのかちこ、壇林皇后)によって現在の地に移された。

酒解神(大山祇神)、大若子神(瓊々杵尊)、小若子神(彦火火出見尊)、酒解子神(木花咲耶姫命)の四座を祭神とする。酒解神の御子・酒解子神は大若子神との一夜の契りで小若子神が生まれたことから、歓喜して、狭名田(さなた)の稲をとって天甜酒(あめのうまさけ)を造り、これを飲んだという神話から、古くから安産と造酒の神として有名である。

また、皇子に恵まれなかった壇林皇后が、本殿の横に鎮座する「またげ石」をまたいで子供を授かったことから、この石をまたげば子宝に恵まれると伝えられ、その下の白砂は安産のお守りとされている。

現在、本殿・拝殿・弊殿・廻廊・中門などがあるが、これらは元禄13年(1700年)の再建によるものである。庭園は杜若(かきつばた)や花菖蒲(はなしょうぶ)の名所として知られるほか、梅、八重桜、椿、つつじ、あじさいが美しい。

祭神

梅宮大社の祭神は以下の通りです。

【主祭神】

・酒解神(さかとけのかみ):大山祇神(オオヤマヅミ)とされる
 → 主に山の神として祀られることが多い
 → 「日本神話」より、当社では酒造の守護神とされる
・大若子神(おおわくこのかみ):瓊々杵尊(ニニギ)とされる
 → 「天孫降臨神話」において高千穂に天降った皇祖神とされる
・小若子神(こわくこのかみ):彦火火出見尊(ヒコホホデミ)とされる
 → ニニギとコノハナサクヤヒメの皇子であり、兄弟神の中で皇位を継いだとされる
 → 「海幸山幸神話」における山幸彦に当たる(神武天皇の祖父)
・酒解子神(さかとけこのかみ):木花咲耶姫命(コノハナノサクヤヒメ)とされる
 → ニニギの后であり、ヒコホホデミの母に当たる(オオヤマヅミの娘)
 → 「日本神話」において、炎の中で出産したとされることから安産の神として信仰される

【相殿神】

・嵯峨天皇(さがてんのう):第52代天皇
・橘嘉智子(たちなばのかちこ):嵯峨天皇の皇后で檀林皇后(だんりんこうごう)とも呼ばれる
 → 社伝によれば、当社に祈願し、「またげ石」を跨いだことで仁明天皇を授かったという
・仁明天皇(にんみょうてんのう):第54代天皇で、嵯峨天皇の皇子
・橘清友(たちばなのきよとも):橘嘉智子の父

境内社

人文研究見聞録:梅宮大社 [京都府]
若宮社
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護王社
人文研究見聞録:梅宮大社 [京都府]
稲荷社
人文研究見聞録:梅宮大社 [京都府]
西梅津神名社

梅宮大社の境内社は以下の通りです。

【摂社】

・若宮社:橘諸兄(たちばなのもろえ)を祀る
・護王社:橘氏公(たちばなのうじきみ)、橘逸勢(たちばなのはやなり)を祀る

【末社】

・稲荷社:稲荷神(宇迦之御魂神?)を祀る
・西梅津神明社:天照大神(アマテラス)、豊受大神(トヨウケノオオカミ)を祀る

関連知識

当社祭神にまつわる日本神話

人文研究見聞録:梅宮大社 [京都府]

日本神話」によれば、出雲の国譲りの後、天孫(天照大神の孫)の瓊々杵尊(ニニギ)が葦原中国(地上世界)を治めることとなり、高天原から日向の高千穂に天降ったとされます。

その後、瓊々杵尊は浜辺で出会った大山祇神の娘の木花開耶姫(コノハナサクヤヒメ)と結婚し、一夜の契りを交わしたところ、一晩で妊娠したとされ、この報告を受けた瓊々杵尊は その子が自分の皇子であることを疑ったことから、木花開耶姫は"炎の中で無事に出産できれば、妊娠した子は瓊々杵尊の皇子である"と誓約をして小屋に火を放って出産したとされています。

すると、誓約の通りに無事に出産を果たしたとされ、そこで産まれた皇子の一柱である彦火火出見尊(ヒコホホデミ)が皇位を継ぐことになるのですが、いくつかの種類のある神話の内、以下の神話が当社の社伝に関係していると思われるため、ここで紹介したいと思います。

日本書紀 第九段一書(三)※内容を分かりやすくするため、加筆修正しています。

ある書によれば、木花開耶姫(コノハナサクヤヒメ)が火を掛けて小屋を焼き、最初に火燄(ホノオ)が明るくなったときに生まれたのが火明命(ホアカリ)、次に火炎が盛んになったときに生まれたのが火酢芹命(ホノスセリ)、次に火炎を避けたときに生まれたのが彦火火出見尊(ヒコホホデミ)である。

この火は子らを焼き殺すことは出来ず、母体を少しも傷つけることはなかった。そこで、竹の刀で子らの臍(ヘソノオ)を切り、その竹の刀を捨てたところは後に竹林となった。そのため、その土地を竹屋(タカヤ)と言う。

木花開耶姫は、卜定田(ウラヘタ、占いによって場所を定めた、神に供える稲を作るための田)を狹名田(サナダ)と名付け、そこで採れた稲で天甜酒(アメノタムサケ)を醸し、渟浪田(ヌナタ)の稲を炊いて新嘗祭のときに奉納した。

社伝における神話

人文研究見聞録:梅宮大社 [京都府]

梅宮大社の公式サイトによれば、以下のような神話があるとされています。

木花咲耶姫命(コノハナサクヤヒメ)彦火火出見尊(ヒコホホデミ)を出産したことを喜んだ大山祗神(オオヤマヅミ)が、狭名田(サナダ)の茂穂で天甜酒(アメノタムサケ)を醸造し、天神地祇(天と地の神)に供えた。

梅宮大社は、この日本酒醸造の神話によって酒解の神号を以って祭神を祀っているとされ、この神号で祭神を祀っている神社は全国でも梅宮大社のみであるとされています。

そのため、古来より醸造の守護神として全国の酒造家から尊崇を集めているのだそうです。

参考サイト:梅宮大社 公式サイト

境内の見どころ

一の鳥居

人文研究見聞録:梅宮大社 [京都府]

梅宮大社の一の鳥居です。

大鳥居

人文研究見聞録:梅宮大社 [京都府]

梅宮大社の大鳥居です。

隋神門

人文研究見聞録:梅宮大社 [京都府]

梅宮大社の隋神門(ずいしんもん)です。

京都府の登録文化財に指定されています。

拝殿

人文研究見聞録:梅宮大社 [京都府]

梅宮大社の拝殿です。

京都府の登録文化財に指定されています。

本殿

人文研究見聞録:梅宮大社 [京都府]

梅宮大社の本殿です。

京都府の登録文化財に指定されています。

またげ石

人文研究見聞録:梅宮大社 [京都府]

梅宮大社のまたげ石です。本殿の横に安置されています。

檀林皇后が皇子に恵まれなかったとき、この石を跨いで子宝を授かったという逸話があるそうです。

そのため、この石を跨げば子宝に恵まれると伝えられており、石の下の白砂は安産のお守りとされています。

影向石

人文研究見聞録:梅宮大社 [京都府]

梅宮大社の影向石(ようごうせき)です。本殿の横に安置されています。

この3つ石は、熊野から飛来してきた3羽のカラスが石化したものと伝えているそうです。

磐座(猿田彦大神・宇壽女命)

人文研究見聞録:梅宮大社 [京都府]

梅宮大社に祀られている磐座(いわくら)です(正しい名称はわかりません)。

この2石は、伊勢の猿田彦大神(サルタヒコ)宇壽女命(アメノウズメ)の夫婦神として祀られています。

見切石

人文研究見聞録:梅宮大社 [京都府]

梅宮大社の見切石です。

お百度参り用の石とされています。

料金: 無料
住所: 京都府京都市右京区梅津フケノ川町30(マップ
営業: 9:00~17:00
交通: 松尾大社駅(徒歩11分)

公式サイト: http://www.umenomiya.or.jp/
matapon
著者: matapon Twitter
「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。