生殖器崇拝(性器崇拝)とは?
2015/03/31
日本の文化を探究すると、全国の様々な場所で「性にまつわる風習」や「性器を模った伝統的なオブジェ」などが見つかります。これらは古来より継承されてきた「生殖器崇拝」の痕跡だとされていますが、それは一体何なのでしょうか?
そんな疑問に基づいて、このページでは「生殖器崇拝」について解説したいと思います。
【目 次】
生殖器崇拝の概要
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生殖器崇拝とは、人の男女の生殖器をトーテム(象徴)として、多産、豊穣などをもたらす呪術的な力を認め、それに対する信仰および崇拝を指します(性器崇拝とも)。
日本における生殖器崇拝はかなり古い時代から見られ、男女の生殖器を模った石造物を祀る「陰陽石信仰」をはじめ、神道および仏教においても、全国各地で多様な形式で祀られていることが明らかになっています。
なお、石棒(せきぼう)を扱った縄文時代の生殖器崇拝は、今から6000年前(紀元前4000年ごろ)には既に存在していたとされています。
また、世界各地の文化や宗教、神話の中にも生殖器崇拝および、性にまつわる信仰や教義が残されており、男性器のトーテムとして「ファルス (phallus)」 という概念が存在しています。
日本における生殖器崇拝
日本の性神
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日本における生殖器崇拝は47都道府県全てで確認されており、地域民俗の垣根なく、性と文化が密接に結びついてきたということが言えます。
なお、トーテムとしての生殖器は女陰よりも男根の方が多いとされ、材質についても木、土、石、瓦、金など多様なものとなっているそうです。
また、祀られるトーテム(性神)の呼称についても様々なものがあります(下記参照)。
日本の性神一覧
・陰陽石(いんようせき)
→ 男女の陰部に似た形の石。男茎を陽石、女陰を陰石とする
・鈿女様(おしめさま)
→ 天鈿女命(アメノウズメ)の別名とされる(広島県など)
・瘡神(かさかみ)
→ 梅毒平癒の神。瘡山神社、笠森稲荷などで祀られる
・金魔羅様(かなまらさま)
→ 神奈川県川崎市の若宮八幡宮にある金山神社の祭神。
⇒ 「性と鍛冶屋の神」とされる。
・金丸様(かなまらさま)
→ 岡山県笠岡市にある金丸神社で祀られている
・歓喜天(かんぎてん)
→ 象の頭を持つ神が抱き合う姿で描かれる(ガネーシャ、聖天とも)
・牛頭天王(ごずてんのう)
→ 関東地方の一部では生殖器崇拝のトーテムとされるケースもあるらしい
・金精様(こんせいさま)
→ 全国各地で祀られる男茎形の御神体を持つ神の一柱(金勢様とも)
・塞の神(さいのかみ)
→ いわゆる道祖神。男根のトーテムとして祀られるものもある(猿田彦)
・大黒天(だいこくてん)
→ 大黒天を福の神、子宝の神として生殖器崇拝のトーテムとする民間信仰もある
・とんび岩
→ 兵庫県相生市の天下台山にある巨石など
・麻羅観音(まらかんのん)
→ 山口県長門市の麻羅観音で祀られる
⇒ 煩悩の化身「マーラ」と関係も示唆される
・御石神様(みしゃぐじさま)
→ 大和民族に対する先住民の信仰対象とされた(石神、塞の神とも)
・弓削道鏡(ゆげのどうきょう)
→ 奈良時代の僧。皇室に取り入り天皇と姦通していたとする説がある。
⇒ 巨根伝説もあり、その説に基づいて性神として祀る神社もある。
・お祠様(おほこらさま)
→ 不明(現在調査中)
・穴場様
→ 不明(現在調査中)
・穴婆様
→ 愛媛県今治市にある阿奈婆神社で祀られる男根形の御神体(イワナガヒメを指すとも)
・おしわぶき様
→ 東京都板橋区にある西台天祖神社で祀られている男根形の御神体
生殖器崇拝を行っている神社仏閣
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日本にある神社仏閣の中には「生殖器の像」を御神体として祀っている所がいくつかあります。
下記に、その代表的なものをまとめて紹介します。
日本の代表的な生殖器崇拝の神社仏閣一覧
・もりおかかいうん神社(淡島明神社)【岩手県】
→ 毎年7月の第3土曜日に智和伎神社と併せて奇祭「淡島・金勢祭り」が行われる
・智和伎神社(金精神社)【岩手県】
→ 毎年7月の第3土曜日に淡島明神社と併せて奇祭「淡島・金勢祭り」が行われる
・大沢金勢神社【岩手県】
→ 奇祭「大沢金勢まつり」で用いられる御神体を奉納している
・枋ノ木神社【岩手県】
→ 金勢様を祀る神社であり「黄金の男根」が御神体として祀られている
・秋葉神社【宮城県】
→ 毎年1月24日に奇祭「おめつき火伏せ祭り」が行われる
・荒脛神社【宮城県】
→ 「道祖神」とされる木造の男根形の御神体が多数祀られている
・中里塞之神堂【秋田県】
→ 注連縄で縛った木製の男根を投げて木に引っかける「カンデッコあげ」という行事が行われる
・礼林寺(牛頭天王堂)【千葉県】
→ 牛頭天王堂では「牛頭天王」とされる巨大な男根形の木像などを祀っている
・鹿島神社【茨城県】
→ 毎年旧暦11月15日・16日(12月中旬)にかけて奇祭「福田の馬鹿祭り」が行われる
・牛渡鹿島神社【茨城県】
→ 毎年5月5日に奇祭「へいさんぼう」が行われる
・観音寺【新潟県】
→ 弁財天宮と併せて毎年6月に奇祭「しねり弁天たたき地蔵」が行われる
→ 「金精様」は500kgもある巨大な男根形の御神体である
・ほだれ大神【新潟県】
→ 男根形の木像を祀る小さな祠(巨大な注連縄の巻かれた御神木の横に祀られる)
→ 毎年3月第2日曜日に奇祭「ほだれ祭」が行われる
・若宮八幡宮(金山神社)【神奈川県】
→ 毎年4月の第一日曜日に奇祭「かなまら祭」が行われる
→ 境内社である金山神社には、多数の男根形の像が安置されている
・田縣神社【愛知県】
→ 毎年3月15日に大縣神社と併せて奇祭「豊年祭」が行われる
→ 境内のあらゆる所に男根形のオブジェを配している
・大縣神社【愛知県】
→ 毎年3月15日に田縣神社と併せて奇祭「豊年祭」が行われる
→ 女陰を模った「姫石」という石が祀られている
・松尾神社【滋賀県】
→ 毎年7月31日に奇祭「ぼんのこへんのこ祭」が行われる
・飛鳥坐神社【奈良県】
→ 毎年2月第1日曜日に奇祭「おんだ祭」が行われる
→ 境内には多様な陰陽石が祀られている
・粟島神社【福岡県】
→ 男根形の道祖神像が奉納されている
・鏡山神社【佐賀県】
→ 鏡山同祖神と呼ばれる男女一体になった巨大な性器の御神体がある
・男女神社【佐賀県】
→ 境内に「鞘の神」という男根形の奇石が祀られている
・弓削神社【熊本県】
→ 巨大な男根形の木像が祀られており、浮気封じとして釘を打ち込んだ男女の性器像が奉納される
・上弓削神社【熊本県】
→ 多種多様の男根形の像が奉納されている
上記は知名度の高さから抜粋したリストです。全国版のリストは下記のリンクを参照してください。
全国の生殖器崇拝の神社仏閣についてはこちらを参照:【生殖器崇拝が見られる日本のスポット一覧】
生殖器崇拝の祭礼
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日本には神社の神事や民間習俗として、各地で生殖器崇拝の祭礼が行われています。
下記に、その代表的なものをまとめて紹介します。
日本の代表的な生殖器崇拝の祭礼一覧
・おめつき 火伏せ祭(名振のおめつき) 【宮城県】
→ 毎年1月下旬?に秋葉神社(宮城県石巻市)で行われる
⇒ 即興劇という猥談と寸劇の後に男根形のオブジェに乗って神事を行うとされる
・嫁つつき 【秋田県】
→ 毎年1月15日に秋田県で行われるという奇習(民間習俗)
⇒ 新婚夫婦の子宝を願い、集落の子供達が新妻を囲んで男根形の棒で突く
・塞の神まつり 【富山県】
→ 毎年1月15日に近い日曜日に行われる富山県の上野邑町地区の小正月の火祭り(左義長)
⇒ 男女一対の木偶人形を持ち「塞の神じゃ、大神じゃ、じいじもばあばも、ほこほこじゃ…」と唄う
・おんだ祭り 【奈良県】
→ 毎年2月第1日曜日に飛鳥坐神社(奈良県明日香村)で行われる
⇒ 天狗とお多福が性行為を模した寸劇を行う五穀豊穣と子孫繁栄の神事(ただし、中の人は男性)
・ほだれ祭り 【新潟県】
→ 毎年3月第2日曜日に下来伝ほだれ神社(新潟県長岡市)で行われる
⇒ 日本一の大きさを誇るとされる男根形の御神体(ほだれ様)にまたがり、五穀豊穣と子宝・安産を願う神事
・豊年祭(へのこ祭) 【愛知県】
→ 毎年3月15日に田縣神社(愛知県小牧市)で行われる
⇒ 御神体である大男茎形を乗せた神輿を担いで付近を練り歩く、五穀豊穣と子宝・安産を願う神事
・豊年祭(おそそ祭) 【愛知県】
→ 毎年3月15日頃に大縣神社(愛知県犬山市)で行われる
⇒ 女陰を模したお多福や衣装を着て付近を練り歩く、五穀豊穣と子宝・安産を願う神事
・かなまら祭り 【神奈川県】
→ 毎年4月の第一日曜日に金山神社(神奈川県川崎市)で行われる
⇒ 数種類の男根形の御神体を乗せた神輿を担いで周辺を練り歩く、性病除や商売繁盛を願う神事
・大沢温泉金勢まつり 【岩手県】
→ 毎年4月29日に大沢温泉(岩手県花巻市)で行われる
⇒ 男根形の御神体(金勢様)を神輿のように担いで縁結び、子宝・安産を願う
・県祭り(あがたまつり) 【京都府】
→ 毎年6月5日から翌6日にかけて行われる京都府宇治市で行われる
⇒ 暗闇で行なわれる「暗闇祭」であり、古くは相知らぬ男女が祭りの中で性交渉を行ったと云われる(現在は明るい)
・どんつく祭り 【静岡県】
→ 毎年6月第1火~水曜日にどんつく神社(静岡県賀茂郡東伊豆町)で行われる
⇒ 男根形の御神体を乗せた神輿を担いで周囲を練り歩く、夫婦和合と子孫繁栄を願う神事
・姫神祭 【徳島県】
→ 毎年夏(7月下旬~8月上旬)に八幡神社(姫神神社、徳島県海部郡牟岐町)で行われる
⇒ 御神体とされる巨大な男根形のハリボテを大島の姫神という女陰形の自然石まで運び、合わせる
・美ヶ原温泉 道祖神祭り 【長野県】
→ 毎年9月第4土曜日に美ヶ原温泉(長野県松本市)で行われる
⇒ 木製の巨大な男根を担ぎ、温泉街を練り歩く
上記は知名度の高さから抜粋したリストです。全国版のリストは下記のリンクを参照してください。
全国の生殖器崇拝の神社仏閣についてはこちらを参照:【日本の生殖器崇拝(性器崇拝)の奇祭一覧】
世界における生殖器崇拝
世界各地のファルスとファリシズム
世界各地においても、古代より神話や伝承、宗教などに生殖器を崇拝する背景が多様に見られます。
世界共通の概念として、勃起した男性器を模った象徴を「ファルス (phallus)」と呼び、男根崇拝を「ファリシズム(phallicism)」 と呼んでいます。
なお、世界各地に残るファルスについては以下の通りです。
インド
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・タントラ教のシャイヴィズムでは、ヒンドゥーの神シヴァ崇拝に「リンガ(男性器象徴)」が使われた
→ リンガはシヴァのシンボルであり、豊穣多産のシンボルとして崇拝されていた
・リンガは男女の創造的エネルギーの均衡を示す意味で、「ヨーニ(女性器象徴)」の中に据えられていた
→ ヨーニはシヴァの妻であるパールヴァティーの象徴ともされた
→ シヴァとヨーニを白いミルクで清め、シヴァの精液とパールヴァティーの愛液として崇める習慣があるとされる
・インドにおいては男根崇拝を発展させて性魔術であるタントラ思想に至ったとされている
→ ガジュラーホーにはタントラ思想が反映された彫刻が見られる
古代エジプト
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・古代エジプト人はファルス崇拝をオシリスと関連付けた
→ オシリスがセトに体をバラされた際、イシスが唯一陰茎だけ回収できなかったという神話に因む
・ファルスは豊饒さのシンボルとされ、ミンは「ithyphallic(勃起した陰茎)」として描かれることが多い
古代ギリシア
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・ヘルメースはファルスを摸したヘルメーと呼ばれる柱との関係から、ファルス的な神と見なされている
・ヘルメースの息子とも言われるパーンは、勃起した陰茎を誇張して描かれることがしばしばある
・プリアーポスはギリシアの豊饒の神で、そのシンボルは誇張されたファルスである
古代スカンディナビア
フレイ |
・北欧神話の神フレイは、男性の生殖力と愛を表現するファルス的神であるとされる
古代ローマ
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・ローマ神話の神プリアーポスは、牛飼・庭園・果樹園の守護神であり、男性の生殖力の神ともされる
→ 生殖と豊穣を司る神として、果物と巨大な陰茎を持つ姿で描かれている
・古代ローマの人々は、邪視(イビルアイ)に対するお守りとしてファルス的な宝石を着けていた
→ ファリックチャーム(陽根の魔除け)やマノ・フィコ(フィグ・サイン)は魔除けとしての役割もある
→ アイヌにも金精様を魔除けとする同様の風習があったとされる
ネイティヴ・アメリカ
ココペリ |
・先コロンブス期のアメリカの精霊ココペリの像はファルス的内容を含むことが多い
パプアニューギニア
ヤムイモ |
・主食であるヤムイモを人間の男と女に見立て、擬似的に性行為を表現する風習が存在している
イギリス
サーンアバスの巨人 |
・イギリスにある石灰岩の丘陵地帯に描かれた「サーンアバスの巨人」にはファルスが見られる
→ これについては生殖器崇拝に該当するか微妙
東アジア
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・中国・朝鮮にも性器崇拝を伺わせるオブジェが多数存在する
→ 中国の「薩満歓楽園」には、古代の性器崇拝に因む高さ9mの男根像がある
→ 韓国の「海神堂公園」には男性器崇拝に因むオブジェが多数存在する
インドネシア
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・インドネシアのバリ島には男根の偶像崇拝があるとされ、男根形の玩具などが販売されている
→ これは、熱帯地域で子孫繁栄が困難だった時代の信仰だったとされる
生殖器崇拝の考察
生殖器崇拝は何を指すのか?
上記の通り、古代から日本をはじめ世界各国においても生殖器崇拝が存在してきたようです。
また、生殖器を崇拝する意図として、「多産」「豊穣」「創造」「魔除」など様々な意味合いが込められているとも言えます。
現代では、性器と言えば表向き「卑猥なもの」として敬遠されがちですが、古代では「神聖なもの」と考えられていたのではないでしょうか?また、「性」にまつわる常識も現代とは異なっていたとも考えられます。
ここでいう「神聖なもの」の定義は、貞操観念云々というものではなく、一種の「力の源」のような定義であったと思われます。
例えば、インドで発祥したとされるタントラは、「性力」を「創造のエネルギー(創造力)」として捉えており、それをコントロールすることによって悟りの境地に至るという思想であるとされています。
タントラ |
この思想はインドの宗教をはじめ、仏教から密教に派生し、後に中国の道教に影響を与えるなど、多様に形を変えてアジア全体に広まったとされています。今では一般的に「ヨーガ」として知られていますね。
こうした思想は、西洋の神秘学や哲学などでも取り上げられており、一部では実践的に活用するための方法論が提唱されているそうです。
そのため、古くから「性」は「創造」と密接に関連する要素として考えられてきたのではないでしょうか?
なお、日本では「30歳まで童貞を貫くと魔法使いになれる」という都市伝説が存在しますが、サグラダ・ファミリアの建築で有名なアントニ・ガウディは生涯童貞を貫いたとも言われています。
「性」と「創造」が密接な要素であると仮定すれば、ガウディは性欲のフラストレーションを創造力に注いでいたからこそ、あのような偉大な建築が成されたとも考えられますね。
また、最近ではネット上の俗説で「性欲のフラストレーションを活力に還元する」という方法論が提唱されています。
個人的にそれを実験してみたところ、いわれる通りの効果が表れたため、個人としては「性」が「力の源」と結びついているという理論に疑いの余地はありません。
また、人間は人間自身の「創造力」によって生まれます。そのため、「創造力」とは生命の根源たる「生命力」と言い換えることができると思います。
ここで思うのですが、古代人は当時から「性」より生みだされる「創造」の原理と、その「創造力(生命力)」たるエネルギーの活用法も理解していたのではないでしょうか?
そのように仮定すると、性器を「生命の象徴」として捉え、「生殖器崇拝」という形で信仰していたという風に考えても差し支えなさそうですね。
現代では、「性器」と言えば目を逸らすべき対象、または嘲笑の対象とされる風潮が多く見られますが、実際はそんな軽々しいものではなく、「生命」というテーマにおいて、もっと重要な意味が含まれているものだと思います。
そうした本来の意味を紐解く上で、「生殖器崇拝」という信仰には重要なカギが隠されているのではないか?と個人的には考えています。
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「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。
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