人文研究見聞録:玉作湯神社(玉造湯神社) [島根県]

島根県松江市の玉造温泉にある玉作湯神社(たまつくりゆじんじゃ)です。

玉作の祖神と温泉の守護神を祀る神社であり、主祭神に櫛明玉命・大名持命・少彦名命を祀っています。

玉造温泉の人気スポットであり、特に「願い石」「叶い石」を使った祈願が人気を集めています。

また、境内社の湯姫大明神社は美肌・安産・助産・育児の神として、女性の人気が高いそうです。


神社概要

由緒

由緒書によれば、創祀年代は不詳なものの、奈良時代の『出雲国風土記』に「玉作湯社」、平安時代の『延喜式神名帳』に「玉作湯神社」と名を載せる古社であり、主祭神に 玉作りの神・櫛明玉命(クシアカルダマ)、国造りと温泉療法の神・大名持命(オオナモチ)、温泉守護の神・少彦名命(スクナヒコナ)の3神を祀っています。

当地は弥生末期から勾玉の制作が行われていたとされ、社伝においては、祭神の櫛明玉命が三種神器の一つである八坂瓊之勾玉(ヤサカニノマガタマ)を作ったと伝えられているそうです。なお、『古語拾遺』によれば、櫛明玉命は出雲国玉作の祖(出雲で玉作りを担った一族の祖)とされています。

また、江戸時代には「湯姫大明神」「湯松大明神」とも呼ばれ、松江藩主からの崇敬が厚く、境内に隣接して玉造御茶屋が設けられ、品々の寄進や参詣・代参も行われたとされ、明治以降の天皇即位の式典の際には、当地で作られた瑪瑙(メノウ)・碧玉(ヘキギョク)製品を献上していたとされています。

なお、由緒書による解説は以下の通りです。

【玉作湯神社】

玉作湯神社は、奈良時代の『出雲国風土記(天平5年・733年)』に記された古い神社であり、式内社でもあります。

玉作りの神 櫛明玉命(クシアカルダマ)、国造りと温泉療法の神 大名持命(オオナモチ・大国主命)、温泉守護の神 少彦名命(スクナヒコナ)の3神を祀っています。

神社境内は、国指定史跡出雲玉作跡(宮ノ上地区)の一画に当たり、花仙山周辺は最古の玉作り遺跡で、弥生時代末から玉作りが行われていました。

江戸時代には、「湯姫大明神」「湯松大明神」とも呼ばれ、藩主の崇敬が厚く、隣接する玉造御茶屋(松江藩の静養施設)に松江藩主が訪れる際には、必ず玉作湯神社に参詣しています。藩主からも神社へ品々の寄進もあり、それらは現在でも玉作湯神社に大切に保管されています。

明治以降、天皇即位の式典に際しては、ここで作られた瑪瑙(メノウ)・碧玉(ヘキギョク)製品が献上されていました。

【玉作湯神社と玉造温泉】

玉作湯神社は、玉造温泉・玉造川東岸の小高い林の中に鎮座まします式内の古社であります。「貞観13年(871年)11月神階従四位下を授く」と『三代実録』に見え、此の地の氏神で旧県社であります。

櫛明玉命は天明玉・豊玉・羽明玉・玉祖神などの御異称をお持ちになって居て、天岩戸の前で神々のお計らいて神楽を奏せられた時、真榊の枝に懸けられた八坂瓊之五百箇御統玉は此神の御製作であった事は、『古語拾遺(807年)』にも明記せられ、玉作部の遠祖と仰がれ、此の地の原石を採って宝玉の製作をお司どりになったと伝えられています。

また、『日本書記(720年)』に「素盞鳴尊が天に昇りまさんとする時、羽明玉神(古語拾遺には櫛明玉命とあり)は道に出迎え給いて、瑞八坂瓊の勾玉を献じ、素盞鳴尊は之を御姉天照大御神にお進め給いしこと等記され、当社々伝には三種神器の八坂瓊之勾玉は命が御製作になり給う由し申し伝えています。

天孫降臨の際には、櫛明玉命は随従の五部の神の御一神で製玉を司られ、また、『古語拾遺』に「櫛明玉命は出雲国玉作の祖也」と記され、更に同書に「櫛明玉命之孫、御祈玉を作る。其の裔、今出雲国に在り、毎年調物として、其の玉を進む」と見えています。当神社の御祭神の命が此の地に於て、此地の原石を以て、宝玉を製作せられた上代の盛業を偲び誠に尊敬にたえません。

大名持命・少彦名命の二神は共に国土経営、医療、医薬及び秘呪の術を創始になり遍く世人に施しその病苦を治癒せらる等、温泉療法・秘呪又は草根木皮を医薬として人命養護の道を拓かれた御祖神としても崇められています。

五十猛命は植林・殖産・産業繁栄の御鎮座ましますところであります。

祭神

玉作湯神社の祭神は以下の通りです。

【主祭神】

・櫛明玉命(クシアカルダマ):「日本神話」で勾玉を作る役割を担っていた神
 → 天明玉命・天羽明玉命・天豊玉命・玉祖命・羽明玉などの別名があり、玉作連・玉祖連の遠祖とされる
 → イザナギの子とされ、スサノオやアマテラスに勾玉を進上し、天孫降臨の際にニニギに随従したとされる
  ⇒ 『古語拾遺』では、フトダマ(忌部氏の祖)の率いる五神の一柱で、出雲玉作の祖とされる
 → 当社では、八坂瓊勾玉(ヤサカニノマガタマ)などの宝玉製作の祖神とされる
・大名持命(オオナモチ):大国主命の別名
 → 大国主命(オオクニヌシ)「日本神話」で国造りを成したとされる神で、出雲大社の主祭神として有名
 → 当社では、当地温泉御発見・温泉守護・温泉療法・薬・秘呪の祖神とされる
  ⇒ 当地では湯山(現・玉造要害山)の主とされ、湯山主命(ユヤマヌシ)という別名もある
・少彦名命(スクナヒコナ):オオナムチ(オオクニヌシ)と共に国造りを成した神とされる
 → 当社では、当地温泉御発見・温泉守護・温泉療法・薬・秘呪の祖神とされる

【合祀神】

・五十猛神(イタケル):スサノオの御子神であり、全国に樹木を種を撒いて廻った木の神とされる
 → 同社座・韓国伊太氏社の祭神

関連社

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御納社
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湯山遥拝殿

玉作湯神社の関連社は以下の通りです。

【境内社】

・湯姫大明神社:湯姫大明神を祀る
・湯山主之大神:大己貴命を祀る
・素鵞・記加羅志神社:素盞鳴尊を祀る
・福徳神社:大國主命を祀る
・澤玉神社:猿田彦命を祀る
・稲荷神社:稲倉魂命(ウガノミタマ)を祀る
・金刀比羅神社:大物主命を祀る

【境外社】

・布吾弥神社:大名持命を祀る
・玉宮神社:玉祖命を祀る
・御納社
・湯山遥拝殿:湯山主命(大己貴神・大名持神)を祀る

関連知識

勾玉について

人文研究見聞録:玉作湯神社(玉造湯神社) [島根県]

勾玉(まがたま)とは、先史・古代の日本で使用されたC字形の道具であり、文献などから装身具や祭祀に用いられたとされていますが、詳細は未だに分かっていないようです。

勾玉の歴史は古く、新潟県の糸魚川では縄文中期(BC.5000年頃)には既に勾玉の生産が行われていたとも言われています。また、素材については、翡翠・瑪瑙・水晶・滑石・琥珀・鼈甲などの宝石や、土器製、青銅などの金属製のものもあるそうです。

また、古代の大和政権下では、玉作部(たまつくりべ)と呼ばれる人々が勾玉などの玉類生産に従事したとされており、文献によれば 櫛明玉命(クシアカルダマ・当社主祭神)が出雲玉作の祖であり、玉作連(玉造部を統率する者)の遠祖とされています。

由緒書によれば、当地における製玉は櫛明玉命の子孫が担っており、当地に居住して製玉事業を世襲してきたとされ、神武天皇の即位の際には御祈玉を献上し、以後も朝廷に玉を献上していたとされます。

なお、当地の花仙山(かせんざん)は玉の材料となる瑪瑙(メノウ)がよく産出され、青・赤・白のメノウのほか水晶などを産出し、青メノウは玉造の特産で天下一品と言われていたそうです。

製玉の方法については、原石を石槌で打ち砕き、その破片から良好な部分を玉磨砥(砥石)で勾玉の形に磨き上げ、さらに硬質の玉砥で磨いて光沢を出したとされています。また、当地では勾玉の他にガラス玉の製造も行われていたそうです。

なお、由緒書による解説は以下の通りです。

【製玉の由来】

当地、花仙山(かせんざん)は、製玉の原石たる瑪瑙(メノウ)に富み、この玉造郷は櫛明玉命の起業地として、その御子孫代々この地に居住し、製玉事業を世襲し給いて、神武天皇御即位の時には命の御子孫、御祈玉を献上して践祚を賀し奉り、爾後 毎歳玉を調物に添えて貢献し給うたことが記され、延喜式神祇(905年)臨時祭の条に「出雲国 進むる所の御富み 岐玉六十連、毎年十月以前。意宇郡(現在八束郡)神戸の玉作氏をして造り備えしめ、使を差して進上」云々と見えており、当地は青・赤・白の瑪瑙、水晶等を産し、殊に青瑪瑙は玉造の特産で天下一品と称せられています。

玉の琢磨法は原石を石槌で打砕き、その良好の部分を選んで玉磨砥にて玉の形に磨き上げ、さらに硬質の玉砥にて光沢を出したものとされています。

また、鉱石を砕いて粉末とし、これをルツボに入れ鞴(ふいご)にて溶解し、ガラスとして練って吹き出して造った硝子玉も玉造部で製作されたものと云われ「工芸志料玉の部」にも「出雲国造の献ずる所の玉は真玉(瑪瑙玉)、国司の奉る玉は吹玉(硝子玉)なり、」と記され、社宝として現存する上代ガラスの附着せるルツボ片、上代ガラス塊及びその原料の半ば溶解せるもの等からして、上代玉造においてもガラス製作が行われたことが明らかです。

願い石・叶い石について

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願い石
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叶い石

玉作湯神社には、触って祈れば願いが叶うとされる「願い石」があります。

この石は元よりきれいな球形の自然石で、これを御神体と考えた村人によって神社に奉納された伝えられており、以来、良い原石が採掘された時や、良い勾玉ができたときに参拝され、この石に触れながら祈願する習わしもできたそうです。

そのため、現在でも祈願成就のパワースポットとして人気を集めており、特に神社で授与される「叶い石」を使った独自の参拝方法が人気を集めています。その方法は以下の通りです。

【願い石・叶い石の参拝方法】

1.神社に参拝する(鳥居の前で一礼 → 手水舎で清める → 拝殿に参拝する)
2.社務所で「叶い石」と「願い札」を授かる(600円)
3.「叶い石」を袋から出して、「願い石」の前の御神水を掛けて清める
4.「願い石」に「叶い石」を直接当てて、心の中で願い事を唱える(3回祈念するとも)
5.「願い札(2枚複写)」に「願い事・住所・氏名」を書いて、1枚を拝殿の箱に投函する
6.「叶い石」と「願い札(余り)」をお守り袋に入れて持ち帰る
7.願いが叶ったら「叶い石」を神社に返納する(返納すると神社でお祓いされる)

境内の見どころ

鳥居

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玉作湯神社の鳥居です。

鳥居と石段

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玉作湯神社の鳥居と石段です。

出雲玉造跡出土品収蔵庫

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玉作湯神社にある出雲玉造跡出土品収蔵庫です。

当社の社宝や古代玉作りに関する資料約700点が収蔵されているそうです。

狛犬

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玉作湯神社の狛犬です。

阿行は子持ち狛犬となっています。

拝殿

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玉作湯神社の拝殿です。

本殿

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玉作湯神社の本殿です。

御神水 真玉の泉

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玉作湯神社の境内にある真玉の泉です。

神水が湧き出ており、叶い石を洗い清める場所にもなっています。

願い石

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玉作湯神社の境内にある願い石です。

きれいな球形の自然石で、昔 御神体として奉納されたものと云われています。

触れながら祈願すると願いが叶うとされており、叶い石に祈願成就の力を吹き込む場所にもなっています。

御守石

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玉作湯神社の境内にある御守石(みまもりいし)です。

当地特産の勾玉の材料である青メノウの原石で出来ています。

御假殿建立之御座

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玉作湯神社の御假殿建立之御座です。

土俵

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玉作湯神社の土俵です。

湯山主大己貴命神蹟の碑

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玉作湯神社にある湯山主大己貴命神蹟の碑です。

神紋

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玉作湯神社の神紋は「二重亀甲に丸玉管玉勾玉」となっています。

料金: 無料
住所: 島根県松江市玉湯町玉造522(マップ
営業: 終日開放(社務所:平日 9:00~18:00、土日祝 8:00~19:00)
交通: 玉造温泉駅(徒歩30分、車6分)

公式サイト: http://www.tama-onsen.jp/negaiishikanaiishi
matapon
著者: matapon Twitter
「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。