人文研究見聞録:豊川閣妙厳寺(豊川稲荷) [愛知県]

愛知県豊川市にある妙厳寺(みょうごんじ)です。

室町時代中期に創建された曹洞宗の寺院であり、本尊として千手観音菩薩、鎮守として吒枳尼天を祀っています。

この鎮守の吒枳尼天が稲荷神として有名であるため、通称 豊川稲荷(とよかわいなり)と呼ばれています。

また、仏教系の稲荷信仰の中心的な役割を担っているため、日本三大稲荷の1つとしても有名です。

※画像はウィキメディア・コモンズよりパブリックドメインの画像を拝借させていただいています。


寺院概要

縁起

嘉吉元年(1441年)、曹洞宗法王派(寒巌派)の禅僧・東海義易(とうかいぎえき)が、寒巌禅師 伝来の千手観世音菩薩像を本尊とし、また、寒巌禅師作の吒枳尼真天像を山門の鎮守として妙厳寺を開創したとされています。

創建当初より霊験あらたかとして知られ、今川義元、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康など 著名な戦国武将をはじめとする、多くの人々から篤い崇敬を集めたそうです。なお、伽藍は室町末期に今川義元が整備したとされています。

また、当時は豊川(河川名)の近くに広がる円福ヶ丘という高台に伽藍があったとされますが、江戸中期の元禄年間(1688年)までに現在地に移転したとされます。

明治期になると、神仏分離令によって境内の鳥居などが撤去されて呼称も変わったとされますが、同時期に起こった廃仏毀釈の破壊活動からは 幸い難を逃れることができたようです。

そして、伏見稲荷本願所であった愛染寺が廃寺になったことにより、明治以降は豊川稲荷が寺院への吒枳尼天勧請の中心的な役割を担うようになったとされています(伏見稲荷を本社とする神道系の稲荷信仰は宇迦之御魂神を祭神とする)。

吒枳尼天(だきにてん)とは?

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吒枳尼天(だきにてん)

豊川稲荷における「稲荷」とは、鎮守として祀られる吒枳尼天(だきにてん)を指します。

この吒枳尼天とは、仏教の女神(天部)であり、インドのヒンドゥー教のヤクシニー(夜叉)に由来するとされています。インドにおけるダーキニーは心臓を食らう鬼女とされますが、インド密教に取り入れられたことで護法神や性神として信仰されるようになったそうです。

また、日本では平安時代に密教と共に伝わり、真言宗の開祖・空海が稲荷神を東寺の守護神とした後、東寺では真言密教における荼枳尼天を稲荷神を習合させたことから、仏教における稲荷信仰に荼枳尼天の概念が含まれるようになったとされます。なお、荼枳尼天の性格が狐と類似することから、日本では荼枳尼天を白狐に乗る天女の姿で表すようになったそうです。

一方、豊川稲荷では、東海義易の属する曹洞宗法王派の派祖・寒巌義尹(かんがんぎいん)が、二度目の入宋よりの帰朝する途中、空中より霊神が現れて「われはこれ吒枳尼真天なり、今より将に師の法を護するにこの神咒を以てし、また師の教化に帰服する者を守りて、常に安穏快楽ならしめん、必ず疑うこと勿れ」と言われたため、これを機に吒枳尼天像を自ら刻んで、護法の善神として祀ったことに由来するとされています。

そのため、妙厳寺(豊川稲荷)では上記の逸話に基づいて「吒枳尼真天(だきにしんてん)」と呼称されています。

神道の稲荷神との違いについてはこちらの記事を参照:【稲荷神とは?】

平八郎稲荷の伝説

豊川稲荷には「平八郎稲荷」という別称があります。それは妙厳寺の創建時に東海義易を助けた「平八郎」という一匹の狐の説話に由来するとされています。その内容は以下の通りです。

東海義易(とうかいぎえき)が妙厳寺を創建した際、「平八郎」という狐が翁の姿で現れ「お手伝いいたします」と義易の下でよく働きました。

平八郎は小さな釜を一つ持っており、その釜であらゆる炊事をこなし、しかも、幾十人幾百人への奉仕をその釜一つで間に合わせましたので、その神通に驚かない者はありませんでした。

そこである人が「一体どのような術を使っているのか?」と尋ねると、平八郎はニッコリと笑って「私には三百一の眷属(配下)がありますので、どんな事でも出来ないことはありません。どんな願いも叶うのです。」と申しました。

平八郎は、義易が死去してからは忽然と姿を消してしまいましたが、平八郎が使っていた釜だけが残されていました。

寺院の見どころ

総門

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豊川稲荷の総門です。

山門

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豊川稲荷の山門です。

天文5年(1536年)に今川義元から寄進されたものとされています。

法堂

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豊川稲荷の法堂(はっとう)です。

本尊である千手観音菩薩像を安置しています。

本殿

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豊川稲荷の本殿です。

豊川稲荷の信仰の中心である吒枳尼天を祀っています。

最祥殿(書院)

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豊川稲荷の最祥殿(さいしょうでん)です。

立願所の前にあるポストは、日本最古の現役ポストとして知られています。

霊狐塚

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豊川稲荷の霊狐塚(れいこづか)です。

独特の雰囲気のある場所で、四方八方に1000体以上の狐の石像が安置されています。

千本旗

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豊川稲荷の千本旗(せんぼんのぼり)です。

奉納すると千日の功徳行願に当たると言い伝えられているそうです。

奥の院

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豊川稲荷の奥の院です。

かつての本殿であったとされています。

料金: 参拝無料
住所: 愛知県豊川市豊川町1(マップ
営業: 5:00~19:00(年末年始は21:00まで)
交通: 豊川駅(徒歩5分)、豊川稲荷駅(徒歩5分)、稲荷口駅(徒歩10分)

公式サイト: http://toyokawainari.jp/
matapon
著者: matapon Twitter
「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。