人文研究見聞録:天下の奇祭・田縣神社の豊年祭2015

天下の奇祭・田縣神社の豊年祭2015に参加してきたので、その様子をレポートしたいと思います。


田縣神社とは?

人文研究見聞録:田縣神社

田縣神社とは、五穀豊穣の神「御歳神(ミトシノカミ)」と子宝・安産の守護神「玉姫神(タマヒメノミコト)」を祀る神社であり、創始は古く、社殿によれば弥生時代にまでさかのぼるとされています。また、古来より男茎形をお供えする風習があったとされており、その風習は今なお続いています。

性器崇拝についてはこちらの記事を参照:【生殖器崇拝とは?】

そのため、神社の境内には多様な男根(男性器)の奇石やオブジェなどが奉納されており、本殿および奥宮に「大男茎形(おおおわせがた)」と呼ばれる木彫りの巨大な男根を御神体として祀っています。

人文研究見聞録:田縣神社の大男茎形(おおおわせがた)
大男茎形(おおおわせがた)

詳しくはこちらの記事を参照 :【田縣神社】

豊年祭とは?

豊年祭とは、「ほうねんさい」または「ほうねんまつり」とも読み、五穀豊穣・万物育成・子孫繁栄を祈願するお祭りであるとされています。特に愛知県小牧市で行われる田縣神社の豊年祭は天下の奇祭として世界的に有名であり、大縣神社の豊年祭と同時期に開催されます(なお、田縣神社から大縣神社までは徒歩40分程度の距離であり、電車も路線で繋がっています)。

また、同名の祭りが沖縄県でも行われているそうです。(豊作を祈願する祭りとして、石垣島周辺で行われる)

なお、田縣神社の豊年祭は別名「扁之古祭(へのこ祭)」などと呼ばれており、男性は巨大な男根形の御神体「大男茎形」を乗せた神輿を担いで練り歩き、巫女たちは小ぶりな木彫りの男根を抱えて練り歩くという形式で行われます。そのため、俗称「ちんこ祭り」と呼ばれているのが一般的なようです。

また、田縣神社の豊年祭の趣旨は、男根を「」、女陰を「」と見立てて、「天からの恵みにより大地が潤い、五穀豊穣と子宝に恵まれる」という事を祈願する祭りであり、「新しい生命の誕生」という意味が込められているため、春に行われるとされています。

田縣神社の豊年祭の主なタイムスケジュールは以下の様になっています。

田縣神社の豊年祭のタイムスケジュール

  • 10:00~ 大男茎形および神宝類等をお旅所に安置、御輿を担ぐ厄男の献餅行列出発
  • 11:00~ 厄男による献餅行列、田縣神社に到着
  • 13:00~ お旅所にて「御前祭(御輿行列出発神事)」を斎行、厄男・行列奉仕者等参列
  • 14:00~ 御輿行列、お旅所を出発
  • 15:00~ 「例大祭」を田縣神社本殿にて斎行
  • 15:30~ 御輿行列、田縣神社に到着
  • 16:00~ 奉祝餅投げ

※2015年のお旅所は「熊野社」でした(田縣神社の東側に位置しています)。


豊年祭の見どころ(参加レポート)

今回は大縣神社の豊年祭と同日開催ということもあり、午後から参加させていただきました。

人文研究見聞録:豊年祭の看板
天下の奇祭の看板
人文研究見聞録:田縣神社の豊年祭、混み合う本殿前
混み合う本殿前

13:30ごろに神社到着。大縣神社とは打って変って物凄い混みようでした。門前には「天下の奇祭」と銘打った看板が掲げられており、田縣神社の豊年祭に対する意気込みが感じられます。また、それに呼応するように境内は多様な人種かつ老若男女で溢れかえっています。やはり、世界に注目されている奇祭なのでしょうか?

本殿に参拝しようにも長蛇の列が出来ており、なかなかスムーズにはいきませんでした。なお、境内奥の奥宮も同様の混み具合です。スムーズに参拝したい方は早めに訪れた方が良いのかもしれません(ちなみに、この参拝行列は祭りの終盤まで続きます)。

参拝を終えた後、やはり注目したいのは境内に出店している多様なお祭り屋台の数々ですね。

人文研究見聞録:田縣神社の豊年祭、境内の屋台の様子
境内の屋台の様子

たこ焼き、イカ焼き、お好み焼きなどのメジャーな屋台はもちろんありますが、中でも注目したいのは世にも珍しい「珍宝系」の屋台の数々です(「珍宝系」とは僕が勝手に作った造語ですが、要するに「チンコ」ですね。以下「珍宝」とします)。

まず「ばななちょこ」です。「ばなちん」とも呼ばれていますが、いわゆるチョコバナナを珍宝形に成形して販売しています(普通の「チョコバナナ」も売っています)。

人文研究見聞録:田縣神社の豊年祭、ばななちょこの屋台
ばななちょこの屋台
人文研究見聞録:田縣神社の豊年祭、ばななちょこ
珍宝形のばななちょこ

次に「授かり飴」です。珍宝を模った棒付きの飴となっており、屋台や付近のスーパーなどで販売されています。子宝に御利益があるのかは断定できませんが、そのような気にさせてくれる一品ですね。

人文研究見聞録:田縣神社の豊年祭、授かり飴
授かり飴

次に「珍呆参」です。おそらく「ちんぽうさん」と読むのでしょう。珍呆参とは、珍宝の焼き型に生地を流し込み、フランクフルトを入れて焼き上げた焼き菓子となっています。なお、わりとリアルなデザインになっています(人気があるため、並んで買うしかありません)。

人文研究見聞録:田縣神社の豊年祭、珍宝焼の屋台
珍宝焼の屋台

そして「珍宝焼」です。珍宝焼とは、フランクフルトを珍宝の形に成形して、生地で巻いて焼き上げた一品であり、お好みソースとマヨネーズをかけていただくようです。なお、2015年の豊年祭で最も人気のあった商品であり、屋台の前には物凄い人数が長蛇の列をなしていました。

人文研究見聞録:田縣神社の豊年祭、珍呆参の屋台
珍呆参の屋台

そのほか、本殿付近および境内裏手には、陶器や木彫りの珍宝グッズを販売する屋台もありました。海外の方に人気があるようですね。

人文研究見聞録:田縣神社の豊年祭、珍宝グッズの屋台
珍宝グッズの屋台

ちなみに、神社横のスーパーの駐車場には休憩スペースが設置されており、椅子(ビールケース)やゴミ箱をはじめ、灰皿まで用意されています。見物客の多くは、このスペースを使って飲食しているようですね(しかし、多様な老若男女が珍宝形グルメをほおばる光景というのは、なんとも異様な感じがするものです…)。

14:00になると、神社から御神輿出発の放送が入ります。この時点で御輿行列のルートに多くの人が並び始めます。良い位置で見物したい方は、早めに動いて場所を取っておく必要がありますね(「お旅所」から見物したい方は、14:00前には出発地点で待機しておく必要があります。)

なお、御輿行列の際は道路が交通規制されます。その際、御輿行列は車道の左側(田縣神社側)を通って境内を目指しますので、間近で見たい方は田縣神社側で待機しましょう。


僕の場合、御輿行列の途中(田縣神社の車道付近)からの見物となりました。以下、そこからの様子をレポートします。

まず、先頭に天狗の面を被った猿田彦(サルタヒコ)が立ち、行列を先導します。

人文研究見聞録:田縣神社の豊年祭の猿田彦(サルタヒコ)
猿田彦(サルタヒコ)
人文研究見聞録:田縣神社の豊年祭の猿田彦(サルタヒコ)
サルタヒコの先導

この光景は全国の神幸祭で見られ、日本神話の天孫降臨の際に、サルタヒコがニニギを道案内したことにちなんでいます。なお、サルタヒコそのものも天狗の様な容姿であったとされ、天狗の原型であるともされています。ちなみに、サルタヒコの恰好はそれぞれの祭りによって若干デザインが異なるようです。

その後を神輿を担いだ行列が続きます。行列の中のリアルな男根が描かれた幟(のぼり)が見物ですね(春画を彷彿とさせます)。

人文研究見聞録:田縣神社の豊年祭の男根の幟(のぼり)
男根の幟(のぼり)

次に小ぶりな男根を抱えた巫女さんが登場します。この際、小ぶりな男根に触れると「子どもを授かる」と言われています。そのため、男根に触れようとする見物客が一斉に手を出すため、やや危険を伴います(なお、巫女さんは素早く動きますが、呼びとめると止まってくれます)。

人文研究見聞録:田縣神社の豊年祭で男根を抱える巫女
男根を抱える巫女さん
人文研究見聞録:田縣神社の豊年祭で男根を抱える巫女
写真撮影にも応じてくれます
人文研究見聞録:田縣神社の豊年祭で男根を抱える巫女
男根に触れると子供を授かるらしい

次に、神社の祭神である「御歳神(ミトシノカミ)」を乗せた神輿 ⇒ 「玉姫命(タマヒメノミコト)」を乗せた神輿が通過します。

人文研究見聞録:田縣神社の豊年祭の御歳神(ミトシノカミ)を乗せた神輿
御歳神(ミトシノカミ)を乗せた神輿
人文研究見聞録:田縣神社の豊年祭の玉姫命(タマヒメノミコト)を乗せた神輿
玉姫命(タマヒメノミコト)を乗せた神輿

この際、同時に「お神酒(日本酒)」と「おつまみ(昆布・スルメなど)」が振る舞われます(お神酒は希望者が殺到しない限りおかわりが可能です)。

ちなみに神道の祭りにおける「神酒(みき)」とは、神と同じものを飲食するという意味であり、酒に酔うことで意識を変化させて、神との交流を深めるという意味があります。また、おつまみは「神饌(しんせん)」と呼ばれる神への供え物を指し、神酒と同様に同じものを飲食するという意味が込められています。

そして最後に御神体である「大男茎形(おおおわせがた)」を乗せた神輿が登場します。物凄い迫力です。神輿の担い手にも相当な気合が入っています。なお、ここでは神輿を回転させたり、高く担ぎ上げたりするパフォーマンスが行われます。

僕はただ「すごいですねぇ~」と、トゥナイト2の山本晋也監督のようなコメントを残すに留まりました…。

人文研究見聞録:田縣神社の豊年祭の大男茎型(おおおわせがた)を乗せた神輿
大男茎形(おおおわせがた)正面
人文研究見聞録:田縣神社の豊年祭の大男茎型(おおおわせがた)を乗せた神輿
大男茎形側面

以下、車道付近の御輿行列の様子です。ぜひご覧ください。



車道を過ぎると、行列は一直線に本殿を目指します。以下、本殿付近の様子をレポートします。

15:30ごろ、御輿行列は本殿付近に到着します。この際、本殿の前には大多数の見物客による人垣ができており、豊年祭も正念場を迎えます。なお、大変な人数ですので、それなりに危険を伴う瞬間でもあります。

まず、「御歳神(ミトシノカミ)」を乗せた神輿が到着します。この神輿は本殿脇に安置され、「御歳神(ミトシノカミ)」の御顔を伺うことができます。

人文研究見聞録:田縣神社の豊年祭の御歳神(ミトシノカミ)を乗せた神輿
境内に到着する御歳神
人文研究見聞録:田縣神社の豊年祭の御歳神(ミトシノカミ)
御歳神の御顔

次に、「玉姫命(タマヒメノミコト)」を乗せた神輿が到着します。

人文研究見聞録:田縣神社の豊年祭の玉姫命(タマヒメノミコト)を乗せた神輿
境内に到着する玉姫命

そして、最後に「大男茎形(おおおわせがた)」を乗せた神輿が登場します。ここでも神輿の回転や担ぎ上げのパフォーマンスが行われ、会場を大いに賑わせます。そして「大男茎形」の本殿への挿入(収納)が行われ、会場全体が最高潮の盛り上がりを見せます。アメージング!とても素晴らしい神事です。

人文研究見聞録:田縣神社の豊年祭の大男茎型(おおおわせがた)を乗せた神輿
境内に到着する大男茎形
人文研究見聞録:田縣神社の豊年祭の大男茎型(おおおわせがた)を乗せた神輿
担ぎ上げられる大男茎形

以下、本殿到着時の御輿行列の様子です。ぜひご覧ください。



なお、御輿行列が終わると残るイベントは餅撒神事(餅まき)となります。せっかくなので参加してみました。

人文研究見聞録:田縣神社の豊年祭の餅まきの様子
餅まきの様子

餅まきは、田縣神社の豊年祭でもっとも危険が伴うイベントとされており、開始前に神主さんから再三の注意が促されます(危険回避のため、老人および子供の参加、メガネなど外れやすいアクセサリー着用は原則禁止としています)。

餅まきが開始されると、本年の厄男らによって餅が投げられます。一種の厄払いの儀式とされているようですね。なお、餅は直径15cm程度の丸餅であり、裸の状態で投げられます。よって、参加される方は持ち帰るための袋などを用意しておいた方が良さそうです。

餅まきが終わると屋台も撤収をし始め、豊年祭は一気に終息を迎えます。しかし、奥宮への参拝は人気がある様で、祭り終了後も参拝客は長蛇の列をなしていましたね(この辺りには田縣神社の珍スポットが集まっているため、人気があるんだと思います)。

また、祭り終了後も本殿付近では田縣神社のお土産(田縣神社ゴーフレット)の販売が行われており、付近のスーパーでは、授かり飴を始め、チョコや饅頭といった珍宝形の珍しいお土産も販売しています。記念にこれらを買って帰るのも良いかもしれませんね。

僕の場合、餅まきが終わった時点で田縣神社を後にしました。よって、天下の奇祭・田縣神社の豊年祭2015のレポートはここまでです。ご閲読に感謝します。

なお、午後からのギャラリーは非常に多く、祭り終了までの車での移動は困難を極めると思われます。そのため、公共の共通機関での見物をおすすめします。

また、大縣神社の豊年祭にも併せて参加したい方は、大縣神社の飾り車・神幸行列パレードの見物を終えてから田縣神社へ移動するのがベストでしょう(14:00までに田縣神社に到着すれば充分間に合います。)

こちらの記事もどうぞ: 【奇祭・大縣神社の豊年祭2015】


雑記

田縣神社の「豊年祭」および「大男茎形(おおおわせがた)」について、神社の説明書きによると、

人文研究見聞録:田縣神社の豊年祭の説明書

豊年祭

稲の尊さ・万物の尊さ・生命の尊さを訴え、今年1年が豊かな年である事を祈る万物育成・世界平和を祈願する祭り

お供え物の大男茎形(おおおわせがた)

用材:木曽檜
長さ:約2.5メートル
重さ:約280キロ

毎年新しい大男茎形をつくります。この男茎形と「豊年祭」に、御神前に万物育成・世界平和の願いをこめてお供えします。

とされています。

また、大男茎形が神社に祀られる事になった由縁として、

あるとき土地の者が田植えの前に百姓に牛肉を食べさせました。

それを知った御歳神(ミトシノカミ)は大変怒り、田に蝗(いなご)を放して稲を枯らしてしまいます。

困った土地の者達は、御歳神に白猪・白鶏・白馬を捧げて謝罪します。御歳神はこれを許し、糸巻き・麻の葉・鳥扇等と共に男茎を用いた蝗除けのまじないを教えました。

こうして稲はもとの緑色を取り戻し、田は豊作となったと言います(田縣神社 公式HP参照)。

という神話が残されているそうです。なお、田縣神社の創始は弥生時代にまでさかのぼり、古来より男茎形をお供えする風習があったとされています。

このことから、豊年祭というのは民俗神道もしくは古神道などの、古代より存在する自然崇拝・精霊崇拝(アニミズム)に基づいた祭礼なのかもしれませんね。

となると、奇祭と呼ばれるお祭りは、そうした独自の信仰様式を守り続けるために行われるているのかもしれません。奇祭のルーツを探ると何か新しい発見があるのかもしれませんね。

関連記事:田縣神社奇祭


料金: 参拝無料
住所: 愛知県小牧市田県町152
営業: 9:00~16:30、無休
交通: 田県神社前駅(徒歩5分)

公式サイト: http://www.tagatajinja.com/index.html
matapon
著者: matapon Twitter
「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。