磐座信仰とは?(まとめ)
2015/09/18
現代では、神社といえば「社殿の構えられた祭祀施設」を思い浮かべると思われますが、社殿が建てられる以前の古代の神社は「巨石などの自然物を祀る祭祀施設」であったと言われています。
この古代の神社形式における信仰対象は「磐座(いわくら)」、これに対する信仰は「磐座信仰(いわくらしんこう)」と呼ばれており、古神道に基づく信仰形態であるとされています。
よって、現代でも全国には「古代の神社形式で祀られている自然物」が多数あり、場所によっては「あえて本殿に社殿を建てていない」という神社も存在しています。
このページでは、このような「磐座信仰」について解説していきたいと思います。
【目 次】
- 磐座信仰の概要
- 文献における磐座(イワクラ)の観念
- 磐座信仰に関する用語解説
- 磐座信仰の分類
磐座信仰の概要
概要
磐座信仰(いわくらしんこう)とは、古神道における岩に対する信仰を指し、単に磐座(いわくら)とも呼ばれる場合もあります。
古神道とは、外来宗教の影響を受ける前の日本固有の神道であり、自然・精霊崇拝を基調とした信仰(アニミズム)であったとされています。そのため、自然界のあらゆるものに神が宿ると考えられており、神が宿るところを「依り代(よりしろ)」または「神体(しんたい)」と呼んでいます。
また、磐座信仰は岩以外にも及び、森・山(火山)・滝・風雨・雷など様々な自然物(自然現象)を信仰対象にすることもあるようです。なお、このような形式は磐座形式(いわくらけいしき)と呼ばれているようです。
古神道についてはこちらを参照:【古神道とは?】
神社神道との違い
『日本書紀』によれば、第10代崇神天皇の時代に「宮中で祀っていた御神体(剣・鏡)を外に出し、社殿を建てて祀った」とあることから、神社が現代のような「社殿の構えられた祭祀施設」に替わっていったのは この頃からであると考えられます(出雲大社・大神神社の例を除く)。
よって、これ以前は古神道と呼ばれる「自然物を崇める精霊崇拝(アニミズム)」が主体であり、いわゆる神社の形も自然物を祀るために磐座形式であったと思われます。なお、磐座信仰に代表される巨石信仰は、日本だけではなく海外でも多く見られます。
あくまで私見ですが、磐座信仰と神社神道※の具体的な違いは「御神体が自然物が人工物か」であると思われます。また、経験則に基づく意見になりますが、磐座信仰とされる神社では「御神体がむき出しで配置されている」という例が多いです。一方、神社における御神体は本殿内にあるため見ることができず、見ることができる場合は「神鏡・神像」などの人工物である例が多いといえます。
なお、神社の形態も仏教伝来以降は神仏習合(神仏混淆)という形で神と仏の区別が曖昧になり、現代においても神道とも仏教とも言える形で神仏を祀っている神社が多数あります。また、『記紀』には偶像崇拝という観念が見られませんが、主に東日本(東北や中部地方)の縄文遺跡からは多くの土偶が発見されていることから、古代の信仰形態については地域差があったとも考えられます。
※神社神道の定義:神社神道の定義はいくつかありますが、ここでは「社殿のある神社における神道」と定義します。
文献における磐座(イワクラ)の観念
『記紀』におけるイワクラの観念
独自研究に基づく見解になりますが、「日本神話」においては「イワクラ」というワードは ほとんど登場せず、『記紀神話』においては「天孫降臨神話」における一度しか登場していません。その内容は以下の通りです。
『記紀』におけるイワクラ(※内容は要約しています)
・『古事記』:アマテラスから地上に降りるよう勅命を受けたニニギは、アメノイワクラ(天石位)を離れて高千穂に降臨した
・『日本書紀』:タカミムスビによって地上に降ろされたニニギは、アマノイワクラ(天盤座)を離れて日向に降臨した
ニニギ(邇邇芸命・瓊々杵尊)とは、アマテラス(天照大御神)の孫に当たり、天孫として地上に降臨した後に天皇家の祖となった神であるとされています(よって天皇家の先祖である皇祖神とされている)。
このことから、『記紀』における「イワクラ」は「高天原(天界)において天孫が座す玉座のようなもの」であると捉えることができ、こうした観念が「磐座(イワクラ)と呼ばれる自然物を信仰対象とした」と考えることもできます。
しかし、情報が少なすぎるため、あくまで「文献の記述に基づく こじつけの範疇」であると捉えておくことが妥当であると思われます。
『ホツマツタヱ』におけるイワクラの観念
「日本神話」の記された文献は国内に多数存在しますが、その中でも神代文字で記された『ホツマツタヱ』という文献は、研究者の間では『記紀』の原典であると言われるほど詳しい内容になっています。ただし、現在でも学術的には偽書と定義されているようです。
この『ホツマツタヱ』には、『記紀』よりも「イワクラ」ついて詳しく記されていますが、その意味合いは異なるようです。
『ホツマツタヱ』におけるイワクラ
・原文:さるたして たけのいわくら おしはなち いつのちわきの よろいさき(24文)
→ 訳文:サルタ(猿田彦)によってタケノイワクラが押し開かれ(開拓され)、イツノチワキ(土木事業)の最盛を迎えた
・原文:わけいかつちの あまきみと あめのいわくら おしひらき(29文)
→ 訳文:ワケイカツチノアマキミ(瓊々杵尊)はアメノイワクラを押し開き(開拓し)、イツノチワキ(土木事業)を成して治めた
このことから、『ホツマツタヱ』における「イワクラ」は「開拓にとって邪魔な障害物」を指すと捉えることができます。
しかし、その一方で「神々は最期を迎えるときに洞を掘って その中に隠れた」という記述もあり、このことから『ホツマツタヱ』にまつわる磐座については「神の墓所」であるとされている例もあります(六甲山の六甲比命大善神など)。
磐座信仰に関する用語解説
磐座(いわくら)
磐座(いわくら)とは、古神道において神が鎮座する岩や山を指します。
主に巨石に注連縄が張られて祀られていることが多く、奈良県の三輪地方や和歌山県の熊野地方が有名です。また、海、山、滝などの大規模な自然物や、雷などの自然現象も磐座と呼ばれることがあります。
よって、現在では神霊が宿るとされる神体の総称として用いられているようです。
ちなみに こうした磐座は、自分が調べた限りでは、北海道から沖縄まで日本全国に存在します。また、注連縄は張られないものの、世界各地にも巨石や山を崇拝する信仰が数多く存在しています。
そのため、こうした自然物を崇拝する信仰は、古代においては万国共通だったのかもしれません。
神籬(ひもろぎ)
神籬(ひもろぎ)とは、神道において「神を迎えるための依り代となるもの」を指し、語源から示される意味は「神霊が天下る木」「神の依り代となる木」であるとされています。
また、「神籬」の本来の読み方は「かみがき」「みづがき」であったことから、この表記に関して広義には「常世と現世との境を示す垣」という解釈もあるようです。
そうしたことから意味の解釈には様々あるとされますが、現在の神社神道では「儀式で神の依り代となる枝葉のことを神籬と呼ぶ」ことから、一般的には「神の依り代」という意味合いで使用されることが多いと思われます。
ちなみに、神籬の定義にはいくつかあり、巨石の多いことで知られる兵庫県の六甲山周辺における「ヒロモギ」は「木材を使って神社を建築しなかった時代に、巨石を使って築かれた古代祭場」であると定義されています(外国でいう「メンヒル」に当たる)。
神社神道についてはこちらを参照:【神社神道とは?】
磐境(いわさか)
磐境(いわさか)とは、古神道において神域と現世を分ける境である岩や山を指します。
主に磐座の前に垣根のように張られた注連縄(しめなわ)を磐境と定義するようです。なお、この形態は場所や地域によって異なり、中には大小無数の岩で形成されたものもあります。
兵庫県の六甲山周辺にある「天穂日命の磐座」が岩で形成された磐境である顕著な例であり、ストーンサークルのように人工的に配置された列石が特徴的です。
神奈備(かんなび)
神奈備(かんなび)とは、古神道において神が鎮座する山や神が隠れ住まう森などを指します。なお、神名備・神南備・神名火・甘南備とも表記し、かむなび・かみなびとも呼ばれています。
代表的な神奈備として、奈良県の三輪山や熊本県の阿蘇山、静岡県と山梨県にまたがる富士山などが有名です。
磐座信仰の分類
※以下は個人研究に基づく分類であり、古神道の定義に則っていませんのでご注意ください。神霊が宿る御神体とされるケース
神霊が宿る御神体とされるケースには、自然物と人工物の2種類に大別されます。
自然物を対象とするケース
一般的に磐座と言えば、巨石、神木、大海、山岳などを指す場合が多く、神霊が宿る御神体と考えられています。
ほとんどの場合は小規模のもの(岩・樹)を指し、大規模なもの(山・川・海・滝)は比較的少数です。
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人工物を対象とするケース
稀に、神が作ったとされる人工物を神体として祀っているケースがあります。
その代表として、兵庫県高砂市にある「石宝殿(いしのほうでん)」が有名です。
石宝殿についてはこちらの記事を参照:【生石神社の石宝殿】
神の物理的な乗物とされるケース
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「日本神話」では、神の乗物として「天鳥船(アメノトリフネ)」や「天磐船(アメノイワフネ)」が登場します。
そのほかの古史古伝にも同様の乗物が登場しており、一般的にはいわゆる「UFO」として解釈されることも多いです。
なお、上記の「天磐船」は、大阪府生駒市にある磐船神社に実在する巨石として祀られています。
また、それ以外にも、全国に「磐船伝説」として、天磐船のような伝承のある巨石が多数残されています。
奈良県にある「益田岩船(ますだのいわふね)」は、その名称および存在理由については未だに謎のままです。
そのため、こうした巨石を「神の実在する乗り物」であると捉える説も存在しています。
ちなみに、UFO目撃談において「隕石型のUFO」の存在が報告されていることから、神話との関連性も指摘できます。
それについては、石上神宮HPの神話紹介にて、暗に示唆する内容が公開されています(石上神宮HP)。
また、隕石型のUFOについては、そうした研究をされている はやし浩司氏が、Youtubeにて詳しく解説しています。
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「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。
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