『旧事紀』による日本神話(天神本紀)
このページでは、『旧事紀』の「天神本紀」の現代語訳を紹介しています。
史書の概要などについては「『旧事紀』による日本神話」のページを参照してください
目次
史書の構成(別ページ)
関連項目(別ページ)
史書の構成(別ページ)
関連項目(別ページ)
前書
目的・留意点
はじめに、この記事に関する目的と留意点をまとめておきます。
・この記事は、『旧事紀』に記される「日本神話」の内容の理解を目的としています
・原文を現代語で理解できるようにするために、原文を現代語に訳して箇条書きで表記しています
・他書との比較のため、神名はカタカナで表記しており、また「~のみこと」「~のかみ」などの尊称を省略しています
・非常に長い神名の場合、読みやすくするために半角スペースを開けている場合があります
・原文に沿った翻訳を心がけていますが、他の訳文と異なる場合があります(現代語訳の一つと思ってください)
・()で囲んだ神名は、その神の別名とされるものです(複数ある場合は「、」で区切っています)
・()で囲んだ文章は原文には無いものですが、内容を理解しやすいように敢えて書き加えています
・サブタイトルについては独自に名付けたものであり、原文にはありません
・旧事紀はテーマ別に記されており、他書と違って時系列順になっていない部分があります
・当サイトで扱う現代語訳は「日本神話」の部分のみであり、天皇の御代は扱っておりません
・原文を現代語で理解できるようにするために、原文を現代語に訳して箇条書きで表記しています
・他書との比較のため、神名はカタカナで表記しており、また「~のみこと」「~のかみ」などの尊称を省略しています
・非常に長い神名の場合、読みやすくするために半角スペースを開けている場合があります
・原文に沿った翻訳を心がけていますが、他の訳文と異なる場合があります(現代語訳の一つと思ってください)
・()で囲んだ神名は、その神の別名とされるものです(複数ある場合は「、」で区切っています)
・()で囲んだ文章は原文には無いものですが、内容を理解しやすいように敢えて書き加えています
・サブタイトルについては独自に名付けたものであり、原文にはありません
・旧事紀はテーマ別に記されており、他書と違って時系列順になっていない部分があります
・当サイトで扱う現代語訳は「日本神話」の部分のみであり、天皇の御代は扱っておりません
天神本紀
オシホミミとニギハヤヒ
・アマテラスの御子には、マサカアカツ カチハヤヒ アマノオシホミミ(オシホミミ)が居た
・アマテラスはオシホミミに このように命じた
・「豊葦原のチアキナガイホアキナガの瑞穂国は、我が御子のオシホミミが治めるべき国である」
・そして、オシホミミを天降ることに決まった
・ある時、オシホミミはヨロズハタ トヨアキツシヒメ タクハタチヂヒメ(チヂヒメ)を后とした
・このチヂヒメはタカミムスヒの娘であり、オモイカネの妹である
・そして、后との間に御子のアマテル クニテル ヒコ アマノホアカリ クシタマ ニギハヤヒ(ニギハヤヒ)を儲けた
・そのため、オシホミミはアマテラスに このように申し上げた
・「私が天降る準備をしている間に生まれた子が居ます」
・「この御子を天降らせるべきでしょう」
・すると、アマテラスは これを許した
・そして、アマツカミミオヤ(天神の御祖神)は詔して、天孫の璽(しるし)である十種の瑞宝を授けた
・この十種の瑞宝は このようなものである
・オキツカガミ(沖津鏡)
・ヘツカガミ(辺津鏡)
・ヤツカノツルギ(八握剣)
・イクタマ(生玉)
・マカルカエシノタマ(死返玉)
・タルタマ(足玉)
・チカエシノタマ(道返玉)
・ヘビノヒレ(蛇比礼)
・ハチノヒレ(蜂比礼)
・クサグサノモノノヒレ(品物之比礼)
・これらは各種一つずつある
・また、アマツカミミオヤは この十種の瑞宝の使い方を教えた
・「もし、痛む所が有れば、この十種の宝を 一、二、三、四、五、六、七、八、九、十 と唱えて振るわせなさい」
・「このように唱えてゆらゆらと振るわせれば、死んだ人も生き返るであろう」
・(「ひと ふた み よ いつ む なな や ここの たり、ふるべ ゆらゆらと ふるべ」とある)
・これが"布留の言(ふるのこと)"の起源である
・(この後、ニギハヤヒが降臨する際の御伴が決められることになった)
・また、タカミムスヒが諸神に このように命じた
・「もし、葦原中国に降臨を妨げようとする者が待ち受けているならば、計略を以って平定せよ」
・そして、これらの三十二人の神々にニギハヤヒを守護するよう命じ、天降らせて仕えさせた
・アマノカゴヤマ(尾張連らの祖)
・アマノウズメ(猿女君らの祖)
・アマノフトダマ(忌部首らの祖)
・アマノコヤネ(中臣連らの祖)
・アマノミチネ(鴨県主らの祖)
・アマノクシタマ(川瀬造らの祖)
・アマノカムタマ(三嶋県主らの祖)
・アマノクヌノ(中跡直らの祖)
・アマノヌカト(鏡作連らの祖)
・アマノアカルタマ(玉作連らの祖)
・アマノムラクモ(度会神主らの祖)
・アマノセオ(山背久我直らの祖)
・アマノミカゲ(凡河内直らの祖)
・アマノツクリヒメ(阿曇連らの祖)
・アマノヨムケ(久我直らの祖)
・アマノトマネ(額田部湯坐連らの祖)
・アマノセトメ(尾張中嶋海部直らの祖)
・アマノタマクシヒコ(間人連らの祖)
・アマノユツヒコ(安芸国造らの祖)
・アマノカムタマ(ミムネヒコとも、葛野鴨県主らの祖)
・アマノミクダリ(豊田宇佐国造らの祖)
・アマノヒノカミ(津島県主らの祖)
・チハヤヒ(広沸瑞神麻続連らの祖)
・ヤサカヒコ(伊勢神麻続連らの祖)
・イサフタマ(倭文連らの祖)
・イキシニホ(山代国造らの祖)
・イクタマ(新田部直らの祖)
・スクナヒコネ(鳥取連らの祖)
・コトユツヒコ(取尾連らの祖)
・ウワハル(オモイカネの子で、信濃阿智祝部らの祖)
・アマノシタハル(武蔵秩父国造らの祖)
・ツキノカミ(壱岐県主らの祖)
・また、五部の者が副い従って天降り、ニギハヤヒに仕えた
・アマツマラ(物部造らの祖)
・アマノソソ(笠縫部らの祖)
・アマツアカウラ(為奈部らの祖)
・ホホロ(十市部首らの祖)
・アマツアカボシ(筑紫弦田物部らの祖)
・また、五部の造が供領(とものみやつこ)となってアマノモノノベを率いて天降り、ニギハヤヒに仕えた(内容は割愛)
・また、二十五部の者が兵杖を帯びて天降り、ニギハヤヒに仕えた(内容は割愛)
・また、船を動かす時に船長が舵を取る者を率いて天降り、ニギハヤヒに仕えた
・アマツハバラ(船長で、跡部首らの祖)
・アマツマラ(舵取で、阿刀造らの祖)
・アマツマウラ(船子で、倭鍛師らの祖)
・アマツマウラ(笠縫らの祖)
・アマツアカマラ(曽曽笠縫らの祖)
・アマツアカウラ(為奈部らの祖)
・そして、ニギハヤヒはアマツカミミオヤの命を受けてアマノイワフネに乗り、河内国の哮峰(いかるがのみね)に天降った
・また、さらに大倭国の鳥見の白庭山に遷った
・なお、ニギハヤヒはアマノイワフネに乗って大虚空(おおぞら)を駆け巡り、この地を巡り見て天降った
・そのため、"ソラミツヤマトノクニ"と言われるのは このためである
・その後、ニギハヤヒはナガスネヒコの妹のミカシキヤヒメを娶って妃とした
・すると、やがてミカシキヤヒメは妊娠したが、子が生まれる前にニギハヤヒは亡くなった
・その報告が、まだ伝わる前にタカミムスヒがハヤカゼノカミに こう言った
・「私は神の御子であるニギハヤヒを葦原中国に遣わした」
・「しかし、疑わしく思うところがあるので、お前が天降って様子を見て来なさい」
・すると、ハヤカゼノカミは天降ってニギハヤヒが亡くなっている様子を見た
・そこで、すぐに天に帰ってニギハヤヒが亡くなったことを報告した
・それを聞いたタカミムスヒは哀れに思い、ハヤカゼノカミを使わしてニギハヤヒの亡骸を天に昇らせた
・そして、七日七夜の葬儀を行って悲しみ、後に天上で葬った
葦原中国平定
・アマテラスが葦原中国の統治をオシホミミに命じた時のこと
・オシホミミはアメノウキハシに立って、下を見下ろして このように言った
・「豊葦原のチアキナガイホアキナガの瑞穂国は酷く騒がしく、妙な者たちも棲んでいるので平定する必要がある」
・そこで再び天に帰り、降臨するに至らない理由を述べた
・そこで、タカミムスヒは八百万の神々をアマノヤスカワに集めて話し合った
・そのとき、タカミムスヒはオモイカネに このように尋ねた
・「アマテラスは、"この葦原中国は、我が御子が統治するべき国である"と命じられた」
・「しかし、葦原中国には暴威を振るう乱暴な国津神が居り、また、岩や草木もよく喋っているという」
・「そのため、夜は蛍火のように輝いたり、昼は蠅のように騒がしい神が現れるというのだ」
・「そんな中、今から葦原中国を平定するのに、誰を遣わすのが良いだろうか?」
・すると、オモイカネと八百万の神々は皆で口を揃えて こう言った
・「勇ましい神であるアマノホヒを遣わすのが良いでしょう」
・そこで、皆の提案を受け入れて、アマノホヒを葦原中国に遣わした
・しかし、この神はオオナムチに阿るばかりで、三年経っても報告しなかった
・タカミムスヒは再び諸神を集めて、誰を派遣すべきかを話し合った
・すると、諸神は皆 口を揃えて こう言った
・「アマツクニタマの子のアマノワカヒコが立派なので、この神で試してみては如何でしょう」
・そこで、その提案通りにアマノワカヒコにアマノカゴユミ(弓)とアマノハハヤ(矢)を授けて葦原中国に遣わした
・しかし、この神は忠実では無かった
・故に、葦原中国に降りた後、オオクニヌシ(オオナムチ)の娘のシタテルヒメと結婚した
・また、自ら国を統治してみたいと言うようになり、その国に留まるようになった
・そのため、アマノワカヒコは八年経っても報告をしなかった
・アマテラスとタカミムスヒは この件について話し合い、このように言った
・「昔、アマノワカヒコを葦原中国に遣わしたが、未だに戻って来ないのは きっと国津神の仕業だろう」
・「さて、これを知るには誰を遣わせれば良いだろうか?」
・すると、オモイカネと八百万の神々は こう言った
・「名無しのキジか、ハトを遣わすべきでしょう」
・そこで、提案通りに名無しのキジとハトを遣わした
・しかし、このキジとハトは、粟の田や豆の田に見惚れて戻ってこなかった
・これが いわゆる"雉の片道使い"および"豆みて落ちいる鳩"の由縁である
・その後、タカミムスヒは諸神に このように問うた
・「以前に名無しのキジとハトを遣わしたが、遂に戻っては来なかった」
・「今度は誰を遣わすべきだろうか?」
・すると、オモイカネと八百万の神々は こう言った
・「キジに"ナキメ"と名付けて遣わすべきです」
・そこで、名無しの雌雉をナキメとして遣わすことにした
・その際、タカミムスヒはナキメに このように命じた
・「お前はアマノワカヒコの元へ行き、八年も戻らずに報告しない理由を問いなさい」
・そして、ナキメが天から降りてアマノワカヒコの宮の門前にあるユツカツラの木の梢に止まり、報告しない理由を問うた
・このとき、国津神のアマノサグメがナキメの声を聞いて、それをアマノワカヒコに このように伝えた
・「鳴き声の悪い鳥が木の梢に止まっているので、射殺してしまいましょう」
・そこで、アマノワカヒコは天神から授かった弓矢を取って、ナキメを射った
・すると、その矢はナキメの胸を通り抜けて、アマノヤスカワの河原に居るアマテラスとタカミムスヒの前まで飛んで行った
・タカミムスヒが その矢を取って見ると、矢の羽に血が付いていたので このように言った
・「この矢は昔 アマノワカヒコに与えた矢である」
・「血が付いて返ってきたということは、きっと国津神と闘ったのだろう」
・そこで、この矢を諸神に見せて、このようなマジナイをかけた
・「もし、アマノワカヒコが悪い心で この矢を射ったのならば、アマノワカヒコは必ず災難に遭うであろう」
・「もし、アマノワカヒコが良い心で この矢を射ったのならば、アマノワカヒコに当たることは無いだろう」
・そして、その矢を穴から衝き返した
・すると、その矢は落下してアマノワカヒコの胸に当たり、アマノワカヒコは死んでしまった
・これが、世にいう"返し矢おそるべし"の由来である
アヂスキタカヒコネ
・その後、アマノワカヒコの妻のシタテルヒメの泣く声が、風に響いて天に届いた
・その声を聞いたアマノワカヒコの父や妻子は、アマノワカヒコが亡くなったことを知った
・そこで、疾風を送ってアマノワカヒコの亡骸を天に上げさせ、喪屋を造って葬儀を行った
・この葬儀の際には、諸々の鳥を集めて それぞれに役割を分担させた
・まず、カワカリをキサリモチとした
・次に、サギをハハキモチとした
・次に、カワセミをミケビトとした
・次に、スズメをツキメとした
・次に、キジをナキメとした
・次に、ニワトリをモノマサとした
・次に、カササギをナキメとした
・次に、トビをワタツクリとした
・次に、カラスをシシビトとした
・そして、八日八夜をかけて泣き悲しみ、歌を歌った
・なお、かつてアマノワカヒコが葦原中国に居た時、アヂスキタカヒコネとは親しい間柄であった
・そのため、アヂスキタカヒコネも天に昇ってアマノワカヒコを弔った
・すると、その場に居たアマノワカヒコの父や妻らは皆泣いて このように言った
・「私の子は、死んでいなかった」
・「私の夫は、死んでいなかった」
・そして、皆がアヂスキタカヒコネの手足に縋り付いて泣き悲しんだ
・このように間違えたのは、アヂスキタカヒコネがアマノワカヒコの姿に とても似ていたためである
・よって、アマノワカヒコが生きていたと間違えて、このように驚き、また喜んだのである
・しかし、アヂスキタカヒコネは憤慨して このように言った
・「友人の道を語れば、友の死を弔うのが通りである、ましてや私は親友であった」
・「よって、穢れも厭わず遥々遠くから 弔いにやって来たのである」
・「それなのに、どうして私を死者と間違えるのだ」
・すると、腰に帯びた十握剣の"オオバカリ"を抜いて、喪屋を斬り倒してしまった
・そして、この喪屋は下界に落ちて山となった
・これが、今の美濃国の藍見川の河上にある喪山である
大国主の国譲り
・アマテラスは、次に遣わすべき神を問うた
・すると、オモイカネと八百万の神々は皆で口を揃えて こう言った
・「アマノヤスカワの河上のアマノイワヤに居るイツノオハバリを遣わすべきでしょう」
・「そうでなければ、その子のタケミカヅチを遣わすべきでしょう」
・「このイツノオハバリはアマノヤスカワの水を逆さまに塞いで道を阻んでいるため、普通は訪ねることができません」
・「そこで、特別にアマノカグを遣わして訪ねさせるのが良いでしょう」
・この提案を受けて、早速 アマノカグをオハバリの元へ遣わして頼むと、オハバリは このように答えた
・「お仕えしますが、この度は子のタケミカヅチを遣わせましょう」
・こうして、タケミカヅチが差し出された
・タカミムスヒは、さらに諸神を集めて葦原中国に派遣すべき神を問うた
・すると、諸神が皆で口を揃えて こう言った
・「イワサクネサクの子のイワツツオとイワツツメが生んだフツヌシを将とするのが良いでしょう」
・そのとき、アマノイワヤに住むイツノオバシリの子のタケミカヅチが進み出て こう言った
・「どうしてフツヌシだけが丈夫(ますらお)で、私は丈夫ではないのだ」
・このように、あまりに勇ましい語気を発していたので、フツヌシに副えて降ろすことに決まった
・一説には、アマノトリフネをタケミカヅチに副えたという
・アマテラスとタカミムスヒは、フツヌシとタケミカヅチを葦原中国に遣わせることにした
・その前に 先行して討伐すべき敵について このように教え、その討伐を命じた
・「天にアマツミカボシ(アマカカセオ)という悪い神が居ます」
・「まず、この神を先に除き、後に葦原中国に降って平定しなさい」
・このときより、アマツミカボシを征する斎主の神をイワイノウシと言った
・この神は、今 東国の香取の地に鎮座している
・フツヌシとタケミカヅチの二神は出雲国のイタサの小浜に天降った
・そこで、オオナムチに このように尋ねた
・「天津神のタカミムスヒは、"アマテラスは葦原中国は我が御子が治めるべき国であると詔した"と言っている」
・「貴方は この国を天神に奉るつもりはあるか?」
・オオナムチは このように答えた
・「貴方がたの言うことは、おかしいのではないか?」
・「貴方がた二神は、私が元々住んでいるところにやって来たのではないか」
・「故に、これは何かの間違いだろう」
・すると、二神は十握剣を抜いて地に逆さまに突き立て、その切っ先に座ってオオナムチに問いかけた
・「皇孫を天降らせて奉るために、この地を戴こうと言っているのだ」
・「そこで我々は この地を平定しにやって来て、貴方に国を譲るかと聞いている」
・「さて、貴方は この国から去るつもりはあるか?」
・オオナムチは このように答えた
・「まずは我が子のコトシロヌシに尋ね、その後に返事することにしよう」
・このとき、コトシロヌシは出雲国の美保の岬に遊びに出かけており、そこで魚釣りや鳥を捕って楽しんでいた
・そこで、クマノノモロタノフネに使者のイナセノハギを乗せてコトシロヌシの元に遣わせた
・そして、アマノトリフネを遣わしてヤエコトシロヌシ(コトシロヌシ)を招来して返答を求めた
・すると、コトシロヌシはオオナムチに このように言った
・「今回の天津神の命令に従い、父は速やかに国を去るべきでしょう」
・「私も天津神に逆らうことは いたしません」
・そのため、コトシロヌシは海中にヤエアオシバガキを作り、船の縁を踏んで逆手を打って青柴垣に隠れた
・この後、二神はオオナムチに他に意見を言う子は居るかを尋ねた
・すると、オオナムチは他にタケミナカタという子が居り、その子の他には居ないと答えた
・こうした やり取りをしている際、タケミナカタがチビキノイワを手の上に持ちながら このように言った
・「我が国にやって来て こそこそと国を奪おうとする者は誰だ?」
・「ここは力比べをして決めればよいであろうが、まずは私が その手を取ってやろう」
・そこで、タケミナカタが手を取ると、その手は氷柱のようになり、また剣のようにもなった
・(※この件の相手が二神のどちらなのかは書いていない)
・これに、タケミナカタが驚いて退くと、今度はタケミナカタの手を取って若い葦を掴むように拉いで投げ飛ばした
・タケミナカタが恐れを為して逃げ去って行くと、後から追われて 遂に信濃国の諏訪海にまで追い詰められた
・そこで、殺されそうになったタケミナカタは、このように命乞いをした
・「私を殺さないでくれ、そうすれば此処から他の土地には出て行かない」
・「また、父のオオクニヌシの命令や、兄のヤエコトシロヌシの言葉にも背かないようにする」
・「そして、この葦原中国は天神の御子に献上しよう」
・タケミナカタが国譲りを承諾すると、二神はオオクニヌシの元に帰った
・そして、このように問うた
・「貴方の子らのコトシロヌシとタケミナカタは天神の御子の意向に従うと答えた」
・「さて、貴方の心は如何であるか?」
・オオナムチは このように答えた
・「我が子が答えたように、私も それに従って葦原中国を献上しよう」
・「ただ、私の住む所を天神の御子が皇位に就くときに登る御殿のような壮大なものにして頂きたい」
・「それは、地中に太い柱を立て、大空に棟木を高々と掲げる様なものである」
・「そのような宮を建ててくれるのであれば、私はずっと隠れていよう」
・「なお、私の子らの多くの神々は、コトシロヌシに従って背く者は居ないだろう」
・このようにして、オオナムチとコトシロヌシは諸共に国を去ることになった
・その際、オオナムチは国を平定した時に用いた広矛を二神に授けて こう言った
・「私は この広矛を以って事を成し遂げた」
・「故に、天孫が広矛を使って国を治めれば、必ず平安が訪れるだろう」
・「では、私はこれで幽界へと去ることにしよう」
・この後、オオナムチは遂に隠れてしまった
・また、二神は諸々の刃向う鬼神らを誅していった
大国主の封祀
・その後、出雲国のタギシの小浜に天の御舎を造り、水戸神の子孫のクシヤタマを膳夫として御饗を為した時のこと
・クシヤタマは祝言を唱えて鵜となり、海底に入って底の埴土を咥えて出て、それで神聖な皿を造った
・また、海藻の茎を刈り取ってヒキリウスを造り、ホンダワラの茎を使ってヒキリキネを造って火を熾して こう言った
・「この私の熾した火は、大空高くカミムスヒの尊の命の富み栄える新宮にススが垂れ下がるまで炊き上げましょう」
・「また、地の下の底岩に堅く焼き固まらせ、綱で釣りをする海人が釣った大きな鱸で立派な魚料理を献上しましょう」
・また、フツヌシとタケミカヅチは天上に帰って報告した
・報告を受けたタカミムスヒは、二神を再びオオナムチの元に遣わせて その詔を伝えさせた
・「オオナムチが言うことを聞けば深く理に適っているため、ここに条件を詳しく述べよう」
・「まず、オオナムチが治めている現世のことは我が子孫が治めることにしよう」
・「そこで、オオナムチには幽界のことを任せることにする」
・「また、お前が住むべき宮居を今から造ることにしよう」
・「そのために、千尋もある縄を結わえてしっかり結び、柱を高くて太いものにし、板は広く厚いものにしよう」
・「また、豊かな供田をつくり、祭の供物として豊作を祈ろう」
・「また、お前が現世と幽界を往来して海で遊べるように、高い橋や浮き橋、鳥のように速い船を造って供えよう」
・「また、アマノヤスカワに掛け外しの出来る橋を造ろう」
・「また、幾重にも縫い合わせた白楯を造ろう」
・「また、お前の祭祀をアマノホヒに任せることにしよう」
・すると、これにオオナムチが答えた
・「天津神の言っていることは、こんなにも行き届いているのだ」
・「これに、どうして背くことが出来ようか」
・「私が治める世は皇孫が治めるべきであろう、故に私は退いて幽界の神事を担当しよう」
・そこで、オオナムチはフナトノカミを二神に勧めて、こう言った
・「これが私の代わりに仕えるであろう」
・「これを以って、私は退去することにしよう」
・こうして、オオナムチは身体にヤサカニの大きな玉を付けて、永久に隠れてしまった
・その後、二神はフナトノカミを先導役として、方々を巡って平定した
・この際、命令に背く者は斬り殺し、帰順した者には褒美を与えた
・この時に帰順していた首長は、オオモノヌシとコトシロヌシであった
・そこで、この首長は八百万の神をアマノタケチに集めて天に上り、その誠心を打ち明けた
・すると、タカミムスヒはオオモノヌシに このように詔した
・「お前がもし国津神を妻とするならば、私はお前が心を許していないと考える」
・「故に今から私の娘のミホツヒメを妻として娶り、八十万の神々を引き連れて永く皇孫を守護せよ」
・オオモノヌシは言う通りにして帰って行った
天孫降臨
・(この後、遂にオシホミミが降臨することになった)
・そこで、タカミムスヒは このように言った
・「私はアマツヒモロギとアマツイワサカを葦原中国に造り上げて、我が孫のために謹み祀ろう」
・そして、アマノフトダマとアマノコヤネの二神をオシホミミに付き従わせて天降らせた
・このとき、アマテラスは宝鏡を自らの手からオシホミミに授け、祝って このように言った
・「我が子(我が子孫)が この宝鏡を見るときは、私を見るように扱いなさい」
・「また、その床を同じくし、同じ部屋で謹み祀る鏡とせよ」
・「アマツヒツキ(天つ日嗣)の隆盛は、天地無窮であるのと同様である」
・そして、ヤサカニノマガタマ、ヤタノカガミ、クサナギノツルギの三種の神宝を授けて、永く天孫の璽とした
・なお、矛と玉は鏡と剣に自然と従った物である
・また、アマテラスは、アマノコヤネとアマノフトダマに このように命じた
・「お前たち二神は天孫と共に御殿の中に侍り、天孫を守護する役をせよ」
・また、アマテラスは、アマノウズメにも同様に命じて天孫に侍らせた
・また、アマテラスは、"常世のオモイカネ"、タヂカラオ、アマノイワトワケに このように命じた
・「この鏡は私の御魂として、私を拝するように敬って祀るべし」
・「そして、オモイカネは私の祭祀を司り、政事を執りなさい」
・この二神は五十鈴宮に丁重に祀ってある
・次に、トヨウケノカミは外宮の度会に鎮座する神である
・次に、アマノイワトワケ(クシイワマド、トヨイワマド)は宮門を守る神である
・次に、タヂカラオは佐那県に鎮座する神である
・次に、アマノコヤネは中臣氏の遠祖である
・次に、アマノウズメは猿女氏の遠祖である
・次に、イシコリトメは鏡作氏の遠祖である
・次に、タマノオヤは玉作氏の遠祖である
・以上の五部(タヂカラオからタマノオヤ)の伴を率いた神々に副え侍らせた
・また、アマノオシヒ(大伴連の遠祖)は、アマノクシツオオクメ(来目部の遠祖)を率いて天孫の先駆けとなった
・なお、この際には このような格好をして武装した
・背には、アマノイワユキ(靫)を背負った
・肘には、イツノタカトモ(鞆)を付けた
・手には、アマノハジユミ(弓)とアマノハハヤ(矢)を持ち、またヤメノカブラヤ(鏑矢)を取り添えた
・(腰には)、カフツチノツルギ(剣)を帯びた
・また、タカミムスヒがアマノコヤネとアマノフトダマの二神にオシホミミに副うように命じた時のこと
・タカミムスヒは続けて このように命じた
・「お前たち二神は御殿の中に侍り、皇孫を守護しなさい」
・「また、高天原にある神聖な田の稲穂を稲の種とし、我が子孫に食べさせなさい」
・「アマノフトダマは諸々の部の神を率いて職を司り、天上での慣例の通りにしなさい」
・そこで、諸神にも命令を出して、天孫の降臨に随行させた
・また、タカミムスヒはオオモノヌシに このように命じた
・「八十万の神々を率いて、末永く皇孫を守護しなさい」
・オシホミミは、タカミムスビの娘のタクハタチヂヒメヨロズハタヒメ(チヂヒメ)を后として天上で御子を儲けた
・その御子の名を、アマツヒコヒコホノニニギ(ニニギ)と名付けた
・このため、オシホミミはニニギを代わりに天降らせようとした
・そして、アマテラスの詔をニニギに伝えて命じ、葦原中国に天降らせた
・この際、アマノコヤネ、アマノフトダマ、その他の諸々の部の神を全て御供として授けた
・また、そのお召し物は前例の如く悉く授けた
・その後、オシホミミは再び天上に帰って行った
・なお、オシホミミはタカヒムスヒの娘のチヂヒメを后として二柱の男神を生んでいる
・兄は、アマテルクニテルヒコアマノホアカリクシタマニギハヤヒ(ニギハヤヒ)という
・弟は、アマニギシクニニギシアマツヒコホノニニギ(ニニギ)という
後書
参考文献
・先代旧事本紀(ウィキペディア)
・天璽瑞宝(現代語訳「先代旧事本紀」)
・『先代旧事本紀』の現代語訳(HISASHI)
関連項目
・日本神話のススメ(記紀神話の解説とまとめ)
・『古事記』による日本神話
・『日本書紀』による日本神話
・『古語拾遺』による日本神話
・神武東征
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