人文研究見聞録:成相寺 [京都府]

京都府宮津市にある成相寺(なりあいじ)です。

本尊に聖観世音菩薩を祀っており、真言宗単立の密教系の寺院となっています。

また、西国三十三所の第28番札所としても知られています。


寺院概要

縁起

寺伝によれば、飛鳥時代末期(704年)真応上人によって開基され、文武天皇の勅願寺となったとされますが、中世以前の寺史ははっきりしていないようです。

なお、創建時は山のさらに上方に位置しており、修験道の道場となっていたとされますが、室町時代の応永7年(1400年)に起きた成相山の山崩れ以降、現在地に移ったとされています。

本尊

・聖観音菩薩(しょうかんのんぼさつ):「正観音」ともいい、六観音の一つに数えられ、地獄道に迷う人々を救うとされる
 → 真言:オン アロリキャ ソワカ

伝説

人文研究見聞録:成相寺 [京都府]

『今昔物語集』「丹後国成合観音霊験語」には成相寺の由来が記されています。その内容は以下の通りです。

一人の僧が雪深い山の草庵に籠って修行をしていたところ、深雪のために里人の往来もなく、食糧も絶えて餓死寸前となった。

死を予感した僧が「今日一日生きる食物をお恵みください」と本尊に祈ると、夢とも現(うつつ)とも判らぬ中で、堂の外に狼によって傷つけられた猪(しし)が倒れているのを見つけた。

僧は食糧が見つかったことに喜んだが、肉食の禁戒を破ることに思い悩んだ。しかし、命には代えられないと決心して、猪(しし)の左右の腿を削いで鍋に入れ、それを煮て食べた。

やがて雪も消え、里人たちが山に登って来て堂内を見ると、本尊の左右の腿が切り取られ、鍋の中に木屑が散っていた。それを知らされた僧は、観音様が身代わりとなり救ってくれたことを悟り、木屑を拾って腿に付けると元の姿に戻った。

これより、この寺を成合(相)と名付けたという。

アクセスと見どころ

人文研究見聞録:成相寺 [京都府]

成相寺は成相山の山腹にあり、境内には「斜め一文字」で天橋立を望める展望所もあります。さらに山上へと登れば、能登半島や白山まで見渡せる「パノラマ展望台」があることでも有名です。

傘松公園からバスが出ており、成相寺までの交通料と入山料を含む複合チケットが発行されていますので、遠方から公共交通機関で訪れる場合は、これを利用すると便利です。

境内の見どころ

※以下一部、ウィキメディア・コモンズのパブリックドメインの画像を拝借しています。

本堂

人文研究見聞録:成相寺 [京都府]

成相寺の本堂です。江戸中期(1774年)に再建されたものとされ、京都府指定文化財になっています。

堂内には、中央に本尊の聖観音菩薩像、左に地蔵菩薩坐像、右に千手観音立像が安置れています。

なお、本尊は33年に一度開扉の秘仏であり、最後に開帳されたのは2005年とされています。

金剛杵(ヴァジュラ)

人文研究見聞録:成相寺 [京都府]

成相寺の本堂に祀られている金剛杵(ヴァジュラ)です。

これは密教において重要な法具とされるものであり、真言宗の開祖・空海の図画にも描かれています。

真向の龍

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成相寺の本堂に飾られている真向の龍(まむきのりゅう)です。

江戸時代の伝説な彫刻師・左甚五郎(ひだりじんごろう)の作品であり、正面を向く龍として珍しいそうです。

山門

人文研究見聞録:成相寺 [京都府]

成相寺の山門(さんもん)です。

バスやタクシーを使うと大概通り過ぎてしまう場所であり、参拝者は少なめです。

バスの運転手に言えば、途中で降ろしてもらえます。

なお、山門の裏側(本堂側)には、白龍を模ったような木像が彫られています。

撞かずの鐘

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成相寺の撞かずの鐘(つかずのかね)です。この鐘には次のような曰くが付いているとされています。

桃山時代末期(1609年)に新しい鐘を鋳造する際、寺への寄付金を断った裕福そうな家の女房が、誤って赤ん坊が溶けた銅の中に落としてしまったそうです。

そのような悲劇を経て出来上がった鐘は、撞く度に美しい音を鳴り響かせましたが、耳を澄ませば母を呼ぶ赤ん坊の泣き声が聞こえる為、赤ん坊の成仏のために鐘を撞くのを止めたそうです。

以来、撞かずの鐘と呼ばれるようになったとされています。

順礼堂

人文研究見聞録:成相寺 [京都府]

成相寺の順礼堂(じゅんれいどう)です。

堂宇には白鳥の様な鳥と兎の彫刻が施され、中には三十三霊場の各本尊が祀られているそうです。

十王堂

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成相寺の十王堂(じゅうおうどう)です。

中には孔雀明王と閻魔大王(えんまだいおう)、外には賓頭盧尊者(びんづるそんじゃ)を祀っています。

鎮守堂(熊野権現社)

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成相寺の鎮守堂(ちんじゅどう)です。

入口には鳥居があり、鎮守として熊野権現が祀られています。

鉄湯船

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成相寺の鉄湯船(てつゆぶね)です。

鎌倉時代に造られたものであり、かつては成相寺の湯屋で使用されていたものだそうです。

後に薬湯を沸かして、怪我や病気の人を治療したとも伝えられています。

一願一言地蔵

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成相寺の一願一言地蔵(ひとことのじぞう)です。

一つの願いを一言で願えば、どんな事でも叶えてくれると言われています。

仏像

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成相寺の仏像です。

境内には、これらの仏像と多くの地蔵が安置されています。

五重塔

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成相寺の五重塔です。

1998年に完成した新しい塔ですが、鎌倉時代の建築様式を再現した木造塔とされています。

弁天堂

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成相寺の弁天堂です。蓮池の前に建ち、弁財天を祀っています。

なお、この蓮池は「底なしの池」と呼ばれており、次のような逸話が残されています。

その昔、この池に大蛇が棲みつき、寺の小僧を次々と呑み込んでいたんだそうです。そして、大勢いた小僧がついには最後の一人になってしまい、困った和尚は小僧に似せた藁人形を作って、その中に火薬を仕込み、それを坊に寝かせておきました。

そこに大蛇がやって来て、その藁人形を飲み込むと腹の中で爆発しました。それに苦しんだ大蛇は、雲を呼んで空中に駆け上がり、国分寺の吊鐘を被って阿蘇海を渡ろうとしましたが、途中で力尽きて海中に沈んだとされています。

弁天山展望台

人文研究見聞録:成相寺 [京都府]

成相寺の弁天山展望台(べんてんやまてんぼうだい)です。

ここから天橋立の「斜め一文字」の眺望を望むことができます。

パノラマ展望台

人文研究見聞録:成相寺 [京都府]

成相寺から車で7分ほど上った所に「パノラマ展望台」があります。

天橋立をはじめ、能登半島や白山まで見渡せるということで「日本一のパノラマ展望台」と称されています。

なお、ここには太陽を模ったような輪が設置されており「開運のかわらけ投げ」も楽しめるようになっています。

しかし、なぜ太陽形なのでしょうか?真言密教の教主とされる大日如来を象徴しているのですかね?

自然

人文研究見聞録:成相寺 [京都府]

成相寺は山の中に位置しているため、周辺は大自然に囲まれています。

しかし、自然過ぎて野生のイノシシと遭遇するほどであり、刺してくる害虫も数多く生息しています。

そのため、入山する際はそれなりの格好をしておいた方が無難です。

料金: 大人500円、子供200円、小学生以下無料
住所: 京都府宮津市成相寺339(マップ
営業: 8:00~16:30
交通: 傘松公園よりバス

公式サイト: http://www.nariaiji.jp/
matapon
著者: matapon Twitter
「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。