2015年12月28日月曜日

人丸信仰とは?(柿本人麻呂にまつわる信仰)

人文研究見聞録:人丸信仰とは?(柿本人麻呂にまつわる信仰)

万葉歌人として有名な柿本人麻呂ですが、国史には登場しないため、その生涯は多くの謎に包まれています。

そんな人麻呂の謎に迫るべく、死後、神として祀られた柿本人麻呂の信仰についてまとめてみました。



人丸信仰

人文研究見聞録:人丸信仰とは?(柿本人麻呂にまつわる信仰)

歌聖・柿本人麻呂は、以下の様なとして祀られています。

・和歌の神:特に優れた歌人であったことから(和歌三神の一柱でもある)
・学問の神:和歌の名手ということにちなんで「文学の神」とされることから
・芸能の神:和歌の名手であったことから(山口県宇部市の人丸神社)
・防火の神:「人丸」と「火止まる」をひっかけたことから
・安産の神:「人丸」と「人生まる」をひっかけたことから
・商業の神:人麻呂を「龍神」とし、商業の神とされることもある(山口県萩市の人丸神社)
・漁業の神:人麻呂を「龍神」とし、漁業の神とされることもある(山口県萩市の人丸神社)
・産業の神:石見国守として製紙業を広めたと云われることから(高津柿本神社)
・疫病除け神:山口県には疫病除けとして勧請された神社が多い(高津柿本神社からの勧請)
・眼病平癒の神:明石の柿本神社の社伝などから(兵庫県明石市の柿本神社など)
・水難除けの神:水刑死に処されて非業の死を遂げたことから(栃木県さくら市の人丸神社など)
・夫婦和合の神:和歌に妻を思って詠んだものが多いことから
・縁結びの神:和歌に妻を思って詠んだものが多いことからと思われる(高津柿本神社)
・生活の守護神:石見国守として製紙業を広め、石見の民の生活を安定させたと云われることから(高津柿本神社)
・その他:水神、龍神、たたら職人のトーテムとして祀られたとする見解もある

全国の人丸信仰の社寺についてはこちらの記事を参照:【柿本人麻呂にまつわる全国の神社仏閣】


火の神として

人文研究見聞録:人丸信仰とは?(柿本人麻呂にまつわる信仰)
赤福(朔日餅)に付いてくる火除けの札

日本で「火の神」とされる神として「軻遇突智(カグツチ)」や「木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)」が有名です。

まず、カグツチは「日本神話」の神産みの段で生まれた「火の神」であり、イザナギが出産時に女陰を火傷して死んでしまったことから、怒ったイザナギに斬り殺されてしまいます。しかし、後に竈の火を司る「竈神」の一柱として台所に祀られたり、「防火の神」として全国の秋葉神社や愛宕神社などで祀られています。また、「鍛冶の神」としても祀られているそうです。

次に、コノハナサクヤヒメですが、この神は「日本神話」で天孫・瓊々杵尊(ニニギ)の妻となったとされるものの、出会ってすぐに解任したことから子の出自を疑われたため、ニニギの子であることを証明すべく、誓約を行って産屋に火を放って出産に望み、無事に出産したとされています。このことから、火にちなむ「安産の神」として祀られており、現在では富士信仰における「浅間大神」としても信仰されています。

柿本人麻呂を「防火の神」と「安産の神」とする「人丸信仰」が知られていますが、この神徳は火の神とされる上記の2神と非常に類似します。また、人麻呂を祀る神社は特に中国地方に集中しており、瀬戸内海沿岸地方には「荒神信仰」という台所の火を司る神の信仰や、「たたら製鉄」を行う たたら職人が多く分布していたとされることから、郷土にちなむ人麻呂を土着の神と習合させて「火の神」と結び付けたとも考えられます(石見地方には人麻呂について荒神信仰と類似する俗習がある)。

また、一説によれば柿本氏は鍛冶に携わる氏族だったとも言われており、後の柿本氏の後裔が一族の信仰のトーテムとして人麻呂を神として崇めたとも推測されているようです(なお、人麻呂には片目であったという伝承から、鍛冶の神・天目一箇神と習合したという説もあるが、片目伝説の出典は不明)。

※誓約(うけい):「そうならばこうなる、そうでないならば、こうなる」と予め宣言を行い、そのどちらが起こるかによって、成否などを判断する古代の占い


水の神(龍神)として

人文研究見聞録:人丸信仰とは?(柿本人麻呂にまつわる信仰)
宇賀神

日本で「水の神」とされる神として「宗像三女神」や「淤加美神(オカミノカミ)」などが有名です。

まず、宗像三女神はスサノオとアマテラスの誓約で生まれた三柱の女神であり、広島県の厳島神社や福岡県の宗像大社で祀られる水神として知られています。特に三女神の中の「市杵嶋姫命(イチキシマヒメ)」は七福神の「弁財天」と習合し、多くの社寺で「水難除けの神」として祀られています。

次に、オカミノカミですが、この神は火の神・カグツチが殺された際に生じた神であり、雨を司る龍神として祀られることが多い神です。なお、その代表的な神社として、京都府の貴船神社が有名です。

柿本人麻呂を祀る神社の中には「人麻呂が水刑したという説」や「人麻呂の没地である鴨島が水没したという説」に基づいて水神として祀っているケースもあります。また、龍神として祀るという社伝を残す神社もあり、かつ、龍神の属性を持つイチキシマヒメ(弁財天)を祀る厳島神社や弁天宮に合祀されていることもあります。

日本独自の龍神としては「宇賀神」が知られていますが、この宇賀神は「蛇体を持つ老翁・女人の像」であり、女人像の場合は弁財天と習合して「宇賀弁財天」となっていることでも知られています。栃木県佐野市には「人丸神社」が数多く分布していることで知られますが、同市の磯山弁財天には水神として「人丸様」が祀られており、これによって宇賀神の老翁像を人麻呂と推測する意見もあるようです。


怨霊の可能性

人文研究見聞録:人丸信仰とは?(柿本人麻呂にまつわる信仰)
下御霊神社

京都市にある下御霊神社は、非業の死を遂げて怨霊となった人々を慰める「御霊信仰」に基づく神社として知られていますが、境内の末社「猿田彦社」には柿本人麻呂(柿本大神とも)が祀られています。

日本の怨霊として有名な人物に菅原道真公(すがわらのみちざね)が存在します。この道真公は政敵であった左大臣・藤原時平の讒訴によって大宰府に左遷され、その地で没したとされています。道真公の死後、内裏の清涼殿が落雷によって焼け落ち、さらに左遷に関わったとされる藤原清貫に落雷が直撃して即死し、その後、藤原時平も39歳で若死したとされています。

そのため、これを道真公の怨霊と捉え、北野天満宮を創建して怨霊を慰めたとされています。これ以来、北から南まで幅広く天満宮が創建され、現在では道真公は学問の神として親しまれるようになっています。これと同様に、実は柿本人麻呂を祀る神社も国内に数多く存在し、特に関東の一部、奈良県の一部、島根県西部(石見地方)、山口県全域では篤く尊崇されています。

なお、下御霊神社において、人麻呂を合祀した猿田彦社は末社であるため、人麻呂を怨霊として祀ったと推測するのは強引かもしれませんが、下御霊神社の主祭神には火雷天神が祀られ、末社の天満宮社には北野大神(菅原道真公)も祀られています。

また、人麻呂には讒訴によって流刑となったという伝承や水刑死説もあり、死没地の鴨島も津波で沈んだとされることから、道真公のケースと類似しているように思います。そのため、死後に怨霊となった人物だったのではないかとも考えられます。

※火雷天神:清涼殿落雷事件を契機に道真公の怨霊と結び付けられているが、下御霊神社では六座の御霊の荒魂としている


御神体について

人文研究見聞録:人丸信仰とは?(柿本人麻呂にまつわる信仰)
人麿像

人丸信仰の社寺における御神体や本尊は「人麿像」となっているケースがほとんどです。材質については色々ありますが、主に木像・石像・塑像であり、像によっては鮮やかに色付けされたものもあります。

なお、ごく一部には和歌の刻まれた万葉歌碑を御神体とするケースもあるようです。


スポンサーリンク


0 件のコメント :

コメントを投稿