人文研究見聞録:大野津神社 [島根県]

島根県松江市にある大野津神社(おおのつじんじゃ)です。

『出雲国風土記』に登場する古社であり、祭神に須佐之男命を祀っています。

当社には蛇骨を使った雨乞神事という特殊神事が伝えられているそうです。


神社概要

由緒


当社は『出雲国風土記』の「秋鹿郡条」に"大野津社"として記載されている古社であり、平安時代の『延喜式神名帳』にも名を残している延喜式内社となっています。

由緒書によれば、大野灘は宍道湖北岸の重要な港であったことから「津」の名が起こり、当社は海陸交通の神または農耕の守護神として、干魃の際には当社の「蛇骨」を湖上に奉斎して行う雨乞神事が行われたとされます。また、厄除安全の祈願所でもあり、人々の畏敬・崇敬を集める信仰深い神社であったとされています。

なお、寛永12年(1635年)5月に秋鹿郡吏だった岸崎時照が蛇骨を拝んで崇敬の念を起こし、大野村の人々と力を合わせて社殿を建立し、9月の晦日を祭日に定めたとされ、現在は年頭に厄災退散・交通安全の祈願祭を斎行しているそうです。

祭神


大野津神社の祭神は以下の通りです。

・須佐之男命(スサノオ):三貴子の一柱で出雲の祖神(天照大神の弟神に当たる)

境内社


人文研究見聞録:大野津神社 [島根県]
歳徳神
人文研究見聞録:大野津神社 [島根県]
御崎・金毘羅社
人文研究見聞録:大野津神社 [島根県]
不詳社
人文研究見聞録:大野津神社 [島根県]
不詳社

大野津神社の境内社は以下の通りです。

・歳徳神
・御崎神社・金毘羅社
・不詳社2社
・荒神社

関連知識

特殊神事「雨乞神事」について


当社では、当地が干魃に遭った際に「蛇骨を湖上に奉斎する」という雨乞神事が特殊神事として行われていたとされ、近年では昭和9年(1934年)と昭和14年(1939年)に行われたそうです。由緒書によれば以下のような方法だったとされています。

・まず、近郷の神職が身を清めて社殿に上る
・これから「二夜三日の祈願」と称して3日連続の祈願を行う
・このとき社殿に納められている蛇骨を正面に蛇頭を安置する
・その前に蛇骨を飾り、神職はそれに向かって大祓祝詞を上げる
・3日目の朝には蛇骨の一部を竹籠に2個に納め、鳥居のついた箱型の台に乗せる
・4人の供奉員が台を担いで湖岸に運ぶ
・待機している4隻の船の一つに台を安置して、神職と供奉員が船に乗り込む
・他の一隻は衣裳船で、これには楽師らが乗り込む
・残りの2隻には各集落より選出された若者十数人が乗り込み、後に参観の人々が乗った船がついていく
・湖上に船が出ると、太鼓や笛の音と共に漕手が掛け声を響かせる
・湖上に出た船は西南に進み、4つの山々を結ぶ線上を目指す(この交点の当たる湖底には石鳥居があると伝えられる)
・神職が船上に安置された蛇骨の前で祝詞を上げる
・次に蛇骨の入った籠に各々一枚の白木綿をかけ、これを静かに湖底に向けて下ろす
・一通り雅楽を奏上した後、神職及び供奉員・若者たちは裸体となる
・若者たちは神職らが乗っていた船の両側に漕ぎ寄せ、水桶に水を汲んで神職らに浴びせかける
・このとき、神職らの乗る船の漕手は水がかからないように必死に逃げる
・また、若者らは神職らを追い込むように必死に水をかけようとする
・神職らが追い詰められて水をかけられると、息が止まるばかりとなる
・神職らが悲鳴を上げるほどになると、若者らは水をかけるのを止めて一同は身体を拭く
・その後、各々は衣装を着て、無言のまま神社の境内を目指す
・すると、神社が見えるころに晴天だった空に暗雲が湧き出し、やがて雨が降ってくるという
・船が神社に着くと、若者らは見物客に水を浴びせかけながら騒がしく逃げ去っていく
・神職らは蛇骨を本殿に納め、御礼の祝詞を上げる
・ここで見物客らは帰路につき、神事に参加した人々は神酒を酌み交わしながら賑やかに語らう
・こうして一連の神事は終焉を迎える

上記の通り なかなか興味深い内容の神事となっていますが、今は灌漑施設が整って干魃の被害が出なくなったため、この神事は行われなくなったそうです。

境内の見どころ

鳥居


人文研究見聞録:大野津神社 [島根県]

大野津神社の鳥居です。

手水舎


人文研究見聞録:大野津神社 [島根県]

大野津神社の手水舎です。

拝殿


人文研究見聞録:大野津神社 [島根県]

大野津神社の拝殿です。

本殿


人文研究見聞録:大野津神社 [島根県]

大野津神社の本殿です。

宍道湖


人文研究見聞録:大野津神社 [島根県]

大野津神社から見える宍道湖の様子です。

料金: 無料
住所: 島根県松江市大野町243(マップ
営業: 終日開放
交通: 津ノ森駅(徒歩1分)
matapon
著者: matapon Twitter
「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。