人文研究見聞録:伊勢神宮の関連知識

伊勢および伊勢神宮についての関連知識を紹介しています。

なかなか知られていない情報もまとめていますので、参拝前に参考にしてみてください。

伊勢神宮の外宮・内宮についてはこちらの記事を参照:【皇大神宮(内宮)】【豊受大神宮(外宮)】

おかげ参り


人文研究見聞録:伊勢神宮の関連知識

おかげ参りとは、江戸時代に起こった伊勢神宮への集団参詣のことです。

江戸時代を通して流行したとされ、その当時は、妻が夫に許可なく、また子供が親に許可なく、また奉公人が主人に許可なく参詣したことから「抜け参り」とも呼ばれていたとされています。そして、皇太神宮のお札が降った、伊勢まいりが始まったなどの噂が立つと、それぞれ無断で伊勢参宮に出掛けたんだそうです。

しかも、これは信心の旅とということで、普段の生活を離れて自由に旅ができ、十分な旅費を持たなくても、沿道の人々から施しが受けられたとされています。また、それは神のおかげとされ、妨げると天罰が下るとされていたそうです。

なお、おかげ参りは当時の最新情報の発信地であった伊勢で、新たな知識や技術、また流行などを知るための旅という側面もあり、伊勢を介して情報が各地方に伝わるため、地方文化にも多大な影響を与えたと言われています。

そのため、それに伴って「伊勢に行きたい 伊勢路が見たい せめて一生に一度でも」という伊勢音頭が全国に広まり、その歌詞の通り、多い年には国民の六分の一もの人々が伊勢へ足を運んだとされています。

なお、その年は「おかげ年」と呼ばれ、江戸時代におよそ60年周期で3度起こったとされています。最近では2014年がおかげ年であったとされ、式年遷宮も影響して伊勢への参拝客が非常に多かったんだそうです。


元伊勢


人文研究見聞録:伊勢神宮の関連知識

元伊勢(もといせ)とは、伊勢神宮が、現在地へ遷る前に祀られたという伝承を持つ神社やその場所を指します。

その比定地は、天照大神(アマテラス)の神霊を託された皇女(崇神天皇代・豊鍬入姫命、垂仁天皇代・倭姫命)の足跡を追うことで明らかになります。

以下が、その大まかな伝承地です。

伊勢神宮の変遷


01.大和国(倭国):奈良県桜井市・磯城郡・高市郡明日香村
02.丹波国(但波国):京都府宮津市・福知山市・舞鶴市・京丹後市
03.倭国:奈良県桜井市
04.木乃国(紀伊国):和歌山県和歌山市
05.吉備国:岡山県岡山市・倉敷市・高梁市・総社市、広島県福山市、和歌山県海南市・有田郡
06.倭国:奈良県桜井市
07.大和国(倭国):奈良県宇陀市
08.伊賀国:三重県名張市、伊賀市
09.近江国(淡海国):滋賀県甲賀市・湖南市・米原市
10.美濃国:岐阜県瑞穂市・安八郡
11.尾張国:愛知県一宮市・清須市
12.伊勢国:三重県桑名市・亀山市・津市・松坂市・多気郡・伊勢市

天照大神男神説


人文研究見聞録:伊勢神宮の関連知識

『記紀』によれば、天照大神(アマテラス)女神とされています。

しかし、具体的に女神であるする記述は少なく、その神名も『日本書紀』では「日神」もしくは「大日靈貴(オオヒルメムチ)」とも云うとされ、誕生説話も本文と異伝の3パターン記載されています

また、『日本書紀』の本文を取ってみれば大日靈貴はイザナギ・イザナミが産んだとされ、『古事記』のイザナギの左目から生じたとする説話とは、誕生の経緯が明らかに異なります。そのほか、イザナギが白銅鏡を以って大日靈尊(オオヒルメ)を生み出したとする説話もあり、そうした説話の違いなどから天照大神の実態については諸説唱えられています

なお、平安期の『江家次第』では伊勢神宮に奉納する天照大神の装束一式が男性用の衣装であると言及されており、江戸期の伊勢外宮の「神官渡会延経」には「之ヲ見レバ、天照大神ハ実ハ男神ノコト明ラカナリ」と記しているとされています。

また、京都の祇園祭に登場する岩戸山の御神体は、伊弉諾命(イザナギ)・手力男命(タヂカラオ)・天照大神(アマテラス)の像(人形)とされますが、いずれも男性の姿をしています。これについて、天照大神の像は「眉目秀麗の美男子で白蜀江花菱綾織袴で浅沓を穿く。直径12センチ程の円鏡を頸にかけ笏を持つ。」と伝えられているため、その伝統を守って造っているとされています。

また、神代文字で記された古史古伝である『秀真伝(ホツマツタヱ)』によれば、端から「アマテル」という男神として描かれ、日の神(太陽神)でありイセの神ともいうとされています。さらに『記紀』に見られる「天岩戸神話」と同様の説話にも登場しており、后に「向津姫(瀬織津姫)」が居ると記されています。

廣田神社などで祀られる「天照大神荒魂」は、別名を「撞賢木厳之御魂天疎向津媛命」と云うとされることから、伊勢神宮で祀られる天照大御神は男神であり、別宮で祀られる荒魂がその后に当たるとも考えられます。

そうしたことから、天照大神は女神とされる一方、男神という説も多数あり、その実態は未だに謎に包まれています。

伊雑宮


人文研究見聞録:伊勢神宮の関連知識

三重県志摩市磯部町には皇大神宮(内宮)の別宮である伊雑宮(いざわのみや)があります。

この宮は、内宮から遠く離れた志摩の磯部に「天照坐皇大御神御魂(あまてらしますすめおおみかみのみたま)」を祀っていることから「天照大神の遙宮(とおのみや)」とされ、「磯部の宮」や「磯部の大神宮さん」とも呼ばれています。

なお、ここの祭神については古くから諸説あり、中世末以降は伊雑宮の神職である磯部氏の祖先・伊佐波登美命と玉柱命(玉柱屋姫命)を祀ると考えられた時期もあったとされています。それに伴い、伊雑宮の御師に伝わる文書では「玉柱屋姫命」は「玉柱屋姫神天照大神分身在郷(郷に在るときの天照大神の分身の名は玉柱屋姫神)」と書かれ、同じ箇所に「瀬織津姫神天照大神分身在河(河に在るときの天照大神の分身の名は瀬織津姫神)」とも記されているそうです。

つまり、「天照大神の分身」を祀っているとされ、上記の「天照大神男神説」で触れた『秀真伝(ホツマツタヱ)』にある日の神・アマテルの后「瀬織津姫神(セオリツヒメ)」が祀られているとも取れる伝承が伝わっているとされています。

また、その『秀真伝(ホツマツタヱ)』の中にも、イサワ宮(イセ宮)というアマテルの宮殿が登場し、本来のイセはこのイサワ宮のことを指すとされています(伊勢市の磯神社に比定されると言う見解もある)。

また、古くから伊雑宮の神職は「伊雑宮が日神を祀る社であり、内宮・外宮は星神・月神を祀るものである」と主張していたとされ、江戸中期に伊雑宮の神庫から発見された『先代旧事本紀大成経』という書物にその主張を裏付ける内容が記されていたことから、内宮・外宮の神職が幕府に詮議を求めた「先代旧事本紀大成経事件」が起こったとされています。

その詮議において、幕府は大成経を偽書と断定して伊雑宮の神職らを処罰するという結果に終わり、表向きこの事件は終息したとされていますが、実際は幕府の目を掻い潜って大成経は出回り続けており、現在でも読むことができるそうです。

上記のことなどから、この伊雑宮が本来の伊勢神宮であるという説が存在しています。

伊雑宮についてはこちらの記事を参照:【伊雑宮】

2つのツクヨミ宮


人文研究見聞録:伊勢神宮の関連知識
月夜見宮(外宮付近)
人文研究見聞録:伊勢神宮の関連知識
月讀宮(内宮付近)

伊勢神宮の外宮・内宮の両宮付近には、それぞれ「ツクヨミ」を祀る「ツクヨミ宮」が鎮座しています。

外宮付近の宮は「月夜見宮」であり、内宮付近の宮は「月讀宮」であることから、これらの宮には神名の違いが見られます。

しかし、両宮ともに同じ祭神を祀っているとされ、その由縁についても詳しくは分かっていません。

そのため、これについては伊勢神宮の謎の一つであると考えています。

なお、両宮ともに非常に美しく、清々しい気分になれる場所なので、伊勢参拝の折には寄られることをオススメします。

月夜見宮・月讀宮についてはこちらの記事を参照:【月夜見宮】【月讀宮】

体験談


人文研究見聞録:伊勢神宮の関連知識

個人的に伊勢神宮を聖域であると考えているため、思い立ったら参拝するようにしています。

初めて参拝したのは2012年だったのですが、当時いわゆる曰く付きの場所で生活していたこともあり、原因不明の不可思議な現象(いわゆる霊障と呼ばれる現象)や度重なる事件、事故に悩まされていた時期でもありました。

そこで、たまたま知った伊勢神宮への参拝を思い立ち、そこでお祓いをしてもらうことにしました。

僕は信心深いタイプではないので、そこで貰った「剣祓(御札)」をなんとなく部屋に貼っていたところ、それを境に不可思議な現象はパッタリと止みました。偶然なのかもしれませんが、明確な効果があったことは事実です。

それ以来、伊勢神宮を聖域として参拝することを続けています。

また、当時の同僚で葬式の後に肩こりが酷くなったという人が居たので、伊勢神宮への参拝を勧めたところ、内宮の鳥居をくぐったときから肩こりが和らいだという話も聞いています。

そうしたことから、伊勢神宮には何か邪気を祓うような力があるとも考えられます(一説には悪霊や狐狸妖怪の類は権威を以って祓うという方法もあるとされ、「御真影」などにもそういう効力があるとも言われているようです)。

また、神託が下ったという話も聞いており、今後の指針を指示してくれる御利益もあるのかもしれません。

ただ、伊勢神宮をはじめとする神社参拝において、あらゆることを神頼みで解決しようとすれば個人の成長は望めないと思っています。そのため、伊勢参拝時でも個人的には御礼をすることに留めています。
matapon
著者: matapon Twitter
「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。