人文研究見聞録:神倉神社  [和歌山県]

和歌山県新宮市にある神倉神社(かみくらじんじゃ、かんのくらじんじゃ)です。

神倉山に鎮座する熊野速玉大社の摂社であり、熊野三山の神々が降臨したと伝わるゴトビキ岩を御神体としています。

なお、神倉山は『記紀神話』に登場する天磐盾であるとも云われており、現在ではパワースポットとして有名です。


神社概要

由緒

人文研究見聞録:神倉神社  [和歌山県]
熊野速玉大社
人文研究見聞録:神倉神社  [和歌山県]
ゴトビキ岩

由緒書によれば、現在 熊野速玉大社の境外摂社である当社は、熊野信仰が始まる以前の一番最初に熊野三山(速玉・那智・本宮)の主神が降臨した聖地であり、熊野信仰の根本となる霊所であるとされます。また、毎年2月6日には御燈祭(おとうまつり)という特殊神事が行われ、松明を持った男たちが石段を駆け下りる奇祭として有名であるとされています。

なお、創建年代については128年頃という説があり、当社の鎮座する神倉山の山頂にはゴトビキ岩(琴引岩)と呼ばれる巨石が御神体として祀られています。このゴトビキ岩を支える袈裟岩の周辺からは経塚(経典を埋めた塚)および経筒(土中に埋める経典を納める筒)が発見されており、さらに下層からは銅鐸片や滑石製模造品が出土していることから、古代の磐座信仰を起源とすると考えられているそうです。

また、神倉山は『記紀』に登場する"天磐盾(神武天皇が東征の際に登った山)"であるという説があり、この神話によれば、神武天皇 率いる皇軍が熊野で毒に冒されて臥した時、熊野に住んでいた高倉下命(タカクラジ)が夢の中で天照大神(アマテラス)と武甕槌神(タケミカヅチ)によって与えられた神剣を神武天皇に捧げるように命じられ、その通りにすると皇軍は忽ち目覚めたとされています。

なお、Wikipediaによる当社の略歴は以下の通りです。

・『熊野権現垂迹縁起』よれば、熊野権現が諸国遍歴の末に熊野で最初に降臨した場所であると説かれる
 → これにより、熊野根本神蔵権現 または 熊野速玉大社奥院 と称された
・『妙心寺文書』によれば、持統天皇の御代に裸行上人が神倉山の神社仏閣を建立したとされる
・平安期以降は、神倉山を拠点として修行する修験者が集うようになったとされる
・鎌倉期の建長3年(1251年)2月14日に火災で消失したものの、執権・北条時頼よって再建された
 → 『紀伊続風土記』によれば、当社は神倉聖と称される社僧のほか、その下役の神倉本願四ヵ寺によって運営された
・南北朝期の動乱によって荒廃すると、専ら妙心尼寺が勧進権を掌握した
・戦国期~江戸初期にかけて度々災害に見舞われた
 → 天正16年(1588年)、豊臣秀長の木材奉行の放火によって境内が悉く焼失したとされる
・江戸期には紀州徳川家や、新宮領主の浅野氏・水野氏の崇敬を集めた
 → 近世には社殿や並宮および崖上に拝殿があり、大黒天の御供所、満山社、子安社、中ノ地蔵堂などがあったとされる
・明治3年(1870年)の台風で倒壊して以降は荒廃したため、明治40年(1907年)には熊野速玉大社に合祀された
・大正7年(1918年)にゴトビキ岩の下に祠が再建された
・昭和期に社務所、鳥居などが再建された
・現在は熊野速玉大社の境外摂社となり、常駐の神職は置かれていない

祭神

神倉神社の祭神は以下の通りです。

・高倉下命(タカクラジ):『記紀神話』において神武東征の際に神武天皇を救った人物とされる
 → 当社由緒書によれば、高倉下命は熊野三党(宇井・鈴木・榎本)の祖とされ、農業・漁業の守護神であるとされる
 → 『ホツマツタヱ』および「彌彦神社の由緒」によれば、ヤヒコカミ(伊夜日古大神)と同神とされる
・天照大神(アマテラス):三貴子の一柱であり、皇祖神で太陽を神格化した神であるとされる
 → 『記紀神話』においては神武東征の際に高倉下に神剣を授けて神武天皇を救ったとされる

境内社(御堂)

人文研究見聞録:神倉神社  [和歌山県]
火神社(左)・中ノ地蔵堂(右)

神倉神社の参道には以下の社(堂)が建てられています。

・火神社
・中ノ地蔵堂

関連知識

神倉山の伝説

人文研究見聞録:神倉神社  [和歌山県]
神倉山

熊野信仰の根本霊場とされる神倉山には、以下のような伝説があるとされます。

熊野三所権現の創始伝説

昔、神倉山に三頭の大熊が棲んでおり、猟師がその大熊を追いかけて行くと、三面の神鏡が現れて照り輝いた。これを畏れた猟師は弓矢を捨てて神鏡を拝み、後に裸行上人と熊野氏人が東石淵幾祢谷に神殿を建て神鏡を祀った。これが熊野三所権現の始まりになったという。

神倉山の天狗

かつて、神倉山は天狗が棲む魔所として恐れられており、夕方6時を過ぎてからの登山が禁止されていた。また、神倉山からは「天狗荒れ」と呼ばれる大音響が聞こえることがあったという。

ゴトビキ岩とは?

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ゴトビキ岩
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袈裟岩
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ゴトビキ岩と袈裟岩
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岩下の社殿
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祭場
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土台の岩山

ゴトビキ岩(琴引岩)とは、熊野三山の神々が降臨したとされる高さ10mを超える巨大な霊石であり、神倉神社の御神体として祀られています。なお、ゴトビキとは当地方でヒキガエルを指す方言とされています。

この巨石は古代の磐座信仰(社殿を設けずに自然物を祀る信仰)を起源にするとも云われており、現在では岩の周囲に注連縄が巻かれた状態で祀られています。また、隣り合ってやや小さめの巨石が鎮座しており、両岩の隙間は注連縄と白石が設けられた祭場となっています。そして、岩下には社殿が設けられており、そこからゴトビキ岩に参拝することができます。

なお、ゴトビキ岩は相当巨大ですが、その土台となる岩山はさらに巨大であり、よくみると その岩肌には人工的な加工痕のような傷跡が随所に見られることが非常に気になります(明日香村の石造物に類似している)。

ちなみに、ゴトビキ岩については諸説あり、以下のような説が唱えられています(ゴシップを含む)。

ゴトビキ岩の諸説

・熊野三神が天降った聖地とされる
・神武天皇が東征の際に登った「天磐盾」であると云われる
・ゴトビキ岩は「巨大なガマの岩」という意味であるとされる
・山の麓から見ると男根に見える
・ゴトビキ岩と手前の岩の隙間にある窟から強力な磁場が発生している
・この世とは異なり、天界に近い気の流れる場所とされる
・強力な気の流れるパワースポットと言われる

登山について

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積み石
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女坂

神倉山は標高120メートルであり、その登山道には源頼朝が寄進したと伝えられる538段の積み石が設けられています。

この石段を登らなければゴトビキ岩には辿り着けないようになっていますが、石段は荒々しく不揃いのサイズの岩石で構成されており、登山道自体も急勾配で、さらに手すりなども設けられていないため、登山にはそれなりの危険が伴います

また、女坂と呼ばれる石段のないルートもありますが、こちらも滑りやすく危険であると言えるため、登山および下山の際には一歩一歩確実に踏み出すような、安全に十分注意した方法で進んでいく必要があると思います。

アクセスについて

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神倉神社は新宮駅から徒歩20分、熊野速玉大社から徒歩10分程度の場所に位置しています。

Googleマップだと山頂を指しているため場所が分かり辛いですが、付近には案内板が複数設置されているため、それに従って進めば辿り着くことができます。

周辺の見どころ

遥拝殿

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神倉神社の遥拝殿です。

登山しない方は、ここから参拝することができます。

社務所

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神倉神社の社務所です。

神職は常駐していないようです。

鳥居

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神倉神社の鳥居です。

登山道の入口に立っています。

天磐盾記念碑

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神倉神社にある天磐盾記念碑です。

『記紀神話』にある「神武天皇が天磐盾(あまのいわたて)に登った」という記述に由来する記念碑とされています。

手水鉢

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神倉神社の手水鉢です。

この手水鉢は巨石を加工して造られたものであり、新宮城主・水野重良が栃木の那須城主・大関高増の母の延命を祈願して寄進したものであるとされています。

奥の山道

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神倉山のゴトビキ岩の奥には山頂に続く山道があります。

しかし、現在は立ち入り禁止とされているようです。

出雲大社教教会

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神倉山の麓には出雲大社教新宮教会(出雲大社の支社)があります。

料金: 無料
住所: 和歌山県新宮市神倉1-13-8(マップ
営業: 終日開放(7:00~19:00)
交通: 新宮駅(徒歩20分)

公式サイト:http://kumanokaido.com/hayatama/
matapon
著者: matapon Twitter
「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。