鬼村の鬼岩 [島根県]
2015/10/22
島根県大田市大屋町鬼村にある鬼岩(おにいわ)です。
国道から山中に入った鬼村の一角に位置しており、その名の通り、鬼にまつわる伝説のある巨岩とされています。
古代の巨石信仰のトーテムであるという説もあり、岩周辺にはそれに関すると思われる祠や石仏が祀られています。
また、岩質が凝灰岩であることが珍しく、全国に点在する花崗岩の巨石とは一風変わった様相を呈しています。
鬼岩の概要
鬼岩とは?
案内板では以下のように説明されています。
鬼岩
この岩は「鬼岩」といい、地域のシンボルとして親しまれています。
付近には「鬼の誕生岩」「腰掛け岩」「傘岩」などがあり、近くの山に住む鬼が城を造るために岩を運んで来て積み上げ、その時の五つの指の跡が残ったという伝説や、裏の「仏谷」で毎夜赤子が泣くので、鬼岩に石仏を祀り供養したら泣かなくなったなど鬼岩にまつわる数々の伝説が残っています。
また、岩の穴には「石仏」や鬼村鉱山(石膏場)の盛んな頃に馬車業者などが安全祈願のために祀った「馬頭観音」などが祀られています。毎年8月には鬼岩周辺で耕作している人たちが草刈りをしたり、祀ってある仏様や観音様の供養を行っています。
鬼岩のスペック
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鬼岩のサイズ
・高さ:約15~20m
・横幅:約15m
・重量:不明
・材質:凝灰岩(火山から噴出された火山灰が、地上や水中に堆積してできた岩石)
・特徴:岩盤の表面にはタフォニと呼ばれる穴が開いており、側面には巨大な穴が5つ開いている
・備考:鬼岩周辺やタフォニの中には石仏(地蔵菩薩)や祠が祀られ、周辺には鬼瓦が供えられている
また、案内板によれば以下のように説明されています。
島根県天然記念物 鬼村の鬼岩
何とも恐そうな名前ですが、この岩は山の尾根の先端にある岩が浸食により露出し、一つの島のような形をして立っています。この地域一帯は岩盤は、約2000万年前に海底火山が噴火した火山灰で出来ていて、岩盤には塩類を多く含み、この地層と鬼岩は繋がっています。山の上の石が落ちて出来たものではありません。
岩は凝灰岩で、風蝕という浸食作用で出来た穴がいくつもあり、穴の内側には白い結晶が吹き出しています。岩に水に溶けやすい成分がたくさん含まれていて、それが岩に穴をあける働きの一助になっているようです。海岸ではよく見られますが、海から離れ、風の影響もそれほど受けない谷間で、このような珍しい形の岩が出来たところはあまりありません。
鬼岩に関わる伝説もたくさんあり、古くから地域のシンボルとして大切にし、保存するための取り込みも行っています。
※上記が学術的な見解とされているようです(ただし、現代科学の定説に則った仮説の一つに過ぎません)。
鬼岩と周辺の様子
鬼岩の周辺は観光用に整備され、手前には駐車スペースも用意されています。
岩の下には、多数の案内板と やや小ぶりな奇岩もあり、休憩スペースにはベンチも用意されています。
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鬼岩に近づいていくと、まず岩の手前には祠が祀られていることが分かります。
次に鬼岩まで続く階段を上っていくと鬼岩の目前まで行くことができ、間近で観察することができます。
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鬼岩を間近で見ると表面には多数のタフォニ(穴)があることが分かります。
また、大きな穴の中には祠や石仏が祀られており、付近には鬼瓦も奉納されています。
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しかし、この石仏や祠のルーツはよく分かっていないんだそうです。
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ただ、古くから崇敬されていたようで、周辺にある大年神社では創作神楽「鬼岩」が奉納されるそうです。
なお、周辺には同質の奇岩の破片がいくつかみられます(まるで隕石のようですね)。
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鬼岩までのアクセス
鬼岩までのルートはGoogleマップに対応していないため、少々分かり辛い場所となっています。
そのため、国道9号線から山中に入った後は、その途中に立てられている看板を頼りに進んでいく必要があります。
参考までにルート上の画像と地図を貼っておきますので、行かれる方は参考にしてみてください。
鬼岩までの地図(静間駅より) |
鬼岩の伝説・信仰
鬼岩にまつわる伝説
鬼岩には以下の様な伝説が残されているとされています。
鬼の一夜城
近くの山に住む鬼が「城を造らせてくれ」と村人に話を持ちかけたが、断られてしまった。困った鬼は観音様に相談したところ「夜明けまでに城を造れば許す」といわれ、その気になって山の奥から大きな岩を運び出した。
観音様は、本当に城を造られては村人が困ってしまうと思い、夜中に「コケコッコー」と鶏の鳴き真似をして、夜が明けたように思わせた。鳴き声を聞いた鬼は「間に合わなかったか」と、途中で岩を投げ出し、一目散に逃げて行った。
鬼が力を振り絞って運んだ岩には、五本の指の跡がハッキリと付いていた。以来、村人たちは この村を「鬼岩」と呼び、五つの穴には観音様やお地蔵様を祀ったと云われている。
落雷で生まれた鬼岩
その昔、ある大嵐の日に村のはずれに落雷が落ちた。その時の天変地異で大きな岩が飛び散り、小さなものは田んぼの中に散乱した。だが、そのうち一つは村境にに聳え立つような巨大なものであり、その岩の上を雷の子供たちが飛び遊んでいたという。
その巨大の岩は、いつの頃からか村人たちに「鬼岩」と名付けられ、窪みに小さな地蔵が祀られるようになった。そして盆の時期になると、その地蔵の前に小さな花が供えられるという。
鬼とは?
鬼の定義には様々なものがありますが、鬼という名詞は「日本神話」の中にも登場しています。
『日本書紀』によれば「葦原中国平定(国譲り神話)」の中で「誅諸不順鬼神等(沢山の従わない鬼の神々)」と表現され、国譲りの後に天神に従わず反抗する者たちを指して「鬼」と呼んでいます。
そのため、国譲りで出雲側に付いた神々や、従わないその他の先住民族を指して「鬼」と呼んでいると考えられます。
また、その際の「鬼」の読み方は「かみ」と読むとされ、古くは「鬼」が「神」とされたという説もあります。それによれば、出雲系の神々が主権を握っていた際は「鬼=神」であり、天神系に主権が移った際に鬼が敵視され、悪いイメージが植え付けられたとされているようです(参考資料:スサノヲは鬼だった)。
なお、鬼岩の伝説や出雲神話から「鬼は巨大だった」とも考えられます。
というのも、出雲の祖神とされる「スサノオ」は『古事記』の中では巨体を持つという風に描かれており、また、諏訪大社に鎮座するオオクニヌシの子の「タケミナカタ」は、巨体過ぎるために神無月に出雲で行われる神議りへの参加を免除されているとも云われています(そのため諏訪でも神在月になる)。
そのほか、『出雲国風土記』の「国引き神話」で知られる「ヤツカミズオミツノ」も、出雲および志摩では「ダイダラボッチ」という巨人であるという伝承が伝えられています(もののけ姫のダイダラボッチのモデルとも)。
これらの共通点が出雲系の神であることから、「鬼=巨人=出雲系の神」ということなのかも知れません。
鬼岩と磐座信仰
鬼岩には多数の祠や石仏が祀られています。また、古くから巨石信仰として崇敬されていたとも云われています。
このことから、古神道に見られる「磐座信仰」のトーテムであったということが考えられます。なお、全国で御神体として祀られる巨石には直接石仏が彫り込まれたり、付近に石仏が祀られているケースも多く見られます。そのため、そうしたケースと重複する鬼岩も、恐らく御神体として祀られていたものと思われます。
なお、ここに石仏を置いたのは修験者でしょう。というのも、日本に仏教が伝来した後にいち早く神仏習合を広めたのが役小角を開祖とする修験道であり、日本各地の多くの巨石には修験道を介した神仏習合の信仰が広められています(和歌山県の熊野地方や大阪府の星田地区など)。
そのため、この鬼岩も例外とは言えず、全国に修験道が広まる過程でここに石仏が祀られるようになったものと思われます(ちなみに、役小角と鬼には深い関わりがあり、鬼にまつわる伝説のある鬼岩との関連性も考えられる気がします)。
鬼岩とスサノオ
石見地方は海と山に囲まれた地形であり、鬼岩の他にも、沿岸部を中心に数々の巨石や奇岩が点在しています。そのため、そのうちのいくつかには注連縄が張られて信仰されるものもあります。
また、大田市の五十猛町には「スサノオが新羅国から五十猛に上陸した」という伝承があり、それに同行した御子神が大田市を拠点としたとされ、付近にはスサノオおよび、その御子神である八柱御子神らが数多く祀られています。
そのため、石見地方では地域に縁の深いスサノオへの崇敬が篤く、伝統芸能である「石見神楽」の中でもスサノオを英雄視する「大蛇」が最大の見どころである花形演目とされています。反面、出雲地方で崇敬の篤いオオクニヌシの知名度は低いようです。
また「石見」という地名は、概ね神話や岩石地帯であることに因むと云われています(諸説あるが定説は無いようです)。その中でも、「石(いわ)を見る」という意味を「石を崇める」と捉えて、古代の巨石信仰に由来するという説があります。
これは上記の「鬼とは?」に記載した「鬼とは国譲り後に敵視された出雲系の神々を指す(以前の主権勢力)」から、「鬼(かみ)石を崇める」と解釈され、スサノオを中心とする出雲系の神々への信仰のトーテムとされたというものです。
この説は他には見られない斬新なものですが、周辺の神社で祀られる祭神や、地域に根付いた文化・信仰の傾向性から、なかなか説得力のある説であると思います。そのため、スサノオが石見に土着した後に、その信仰のトーテムとされたのが鬼岩だったのかも知れません(参考資料:スサノヲは鬼だった)。
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「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。
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