人文研究見聞録:大麻比古神社 [徳島県]

徳島県鳴門市大麻町にある大麻比古神社(おおあさひこじんじゃ)です。

忌部氏の祖神である大麻比古神(天太玉命)を主祭神とする阿波国一宮であり、徳島県の総鎮守として信仰を集めているとされています。なお、広大な境内は大麻山県立自然公園に指定されており、神域の背後には奥宮のある大麻山が聳え立っています。

標高538メートルの大麻山に登ることで、奥宮である奥宮社(奥宮峯神社)に参拝することができますが、本社から徒歩で片道約1~2時間かかるとされるため、それなりの準備や時間の余裕をもって臨む必要があります。

なお、神社参道の付近には四国八十八箇所霊場の第一番札所である霊山寺が位置しています。


神社概要

由緒

社伝によれば、創祀は古く、神武天皇の御代に天太玉命(フトダマ)の御孫の天富命(アメノトミ)が阿波忌部氏の祖を率いて阿波国に移り住み、麻・楮の種を播殖してこの地を開拓し、麻布木綿を生産して殖産興業と国利民福の基礎を築いたことにより祖神の天太玉命(大麻比古神)を阿波国の守護神として祀ったことに始まるとされています。

そして、清和天皇の時代(859年)に従五位上を授けられ、平安期(927年)には『延喜式神名帳』に式内社、名神大社として列格されたことから、阿波国一宮と称えられ、以後、阿波・淡路両国の総産土神として崇め奉られたとされています。また、その後も順次進階して、中御門天皇の時代(1719年)には最高位の正一位の神階を賜ったとされています。

祭神

人文研究見聞録:大麻比古神社 [徳島県]
天太玉命(大麻比古神)
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猿田彦大神
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天日鷲命

主祭神

・大麻比古神(オオアサヒコ):忌部氏の祖神である天太玉命(アメノフトダマ)のこととされる

配祀神

・猿田彦大神(サルタヒコ):古くから大麻山に祀られており、後に合祀されたされる

なお、祭神については古くから諸説あり、室町時代成立の『大日本国一宮記』では祭神を猿田彦大神としているのに対し、江戸時代の神社・神主は、本来の主祭神は天日鷲命(アメノヒワシ)であると主張していたとされています。

また、明治以降には、古伝より祭神を猿田彦大神天太玉命に定めたとされ、これに基づいて現在に至るとされています。そのため、神話や古伝の解釈によって、古くから祭神が二転三転しているようです。

神紋

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大麻比古神社の神紋は「麻の葉」であり、祭神の大麻比古神を神格化したものとされています。

なお、古くから日本の生活産業や祭礼などには「」が多様に活かされており、大麻比古神は阿波における土地の開拓の際、麻などを植えて産業の礎を築いたとされています。そのため、それを以って「麻」も信仰の対象となっているようです。

ちなみに、大麻比古神は島根県浜田市にある大麻山(旧・双子山)にも入植し、土着の民族を追いやってその地を開拓したとされ、後に神託を下して大麻比古神社の祭神を勧請させ、大麻山神社を創建させたとも云われています。

大麻山神社についてはこちらの記事を参照:【大麻山神社】

大麻比古神社とフクロウ

人文研究見聞録:大麻比古神社 [徳島県]

大麻比古神社の境内では、毎年の5月上旬になるとフクロウの雛が誕生するそうです。なお、その場所は自動車祓所の近くにある樹の上とされ、巣立ちする間は様子を見ることができるとされています。

なお、一説によれば、フクロウは忌部氏にまつわる鳥とされ、大麻比古神社では神鳥として崇拝しているんだそうです。

境内社

天神社

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大麻比古神社の末社である天神社です。

祭神に菅原道真公を祀っており、学問の神として尊崇されています。

野神社

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大麻比古神社の末社である野神社です。

祭神に農業の神とされる鹿江比賣命(カエヒメ)を祀っています。

西宮社

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大麻比古神社の末社である西宮社です。

西宮神社内宮に祀られている天照大神を祀っているとされます(伊勢ではなく、西宮神社については不明)。

水神社

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大麻比古神社の末社である水神社です。

水の守護神とされる水波女神(ミズハノメ)を祀っています。

豊受社

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大麻比古神社の末社である豊受社です。

伊勢神宮外宮の祭神であり、食物を司る神である豊受大神(とようけのおおかみ)を祀っています。

山神社

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大麻比古神社の末社である山神社です。

山を司るとされる大山祇神(オオヤマツミ)を祀っています。

中宮社

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大麻比古神社の末社である中宮社です。

祭神は不詳とされますが、社殿は伊勢神宮外宮の古材を用いて造営されたものとされています。

丸山八大竜王社?

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大麻比古神社にある丸山八大竜王社?です。

詳細は不明ですが、幟には「丸山八大竜王神」と記されています。

丸山稲荷社

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大麻比古神社の末社である丸山稲荷社です。

商売繁盛の神として、倉稲魂命(ウカノミタマ)を祀っています。

丸山神社

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大麻比古神社の末社である丸山神社です。

祭神に詳細不明の神である丸山神を祀っています。


境内の見どころ

大鳥居

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大麻比古神社の大鳥居です。

参道の入口に立っており、高さ14.6m、柱間11mの鋼管製の大鳥居とされています。

参道

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大麻比古神社の参道は約800mあるとされ、その途中にも境内社がいくつか祀られています。

祓川橋

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大麻比古神社の参道に架かる祓川橋です。

大麻山

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大麻比古神社の奥宮が鎮座する大麻山(おおあさやま)です。祓川橋の辺りから全景を望むことができます。

なお、島根県浜田市にも祭神・大麻比古神の伝承に因む同名の山があります。

島根県の大麻山についてはこちらの記事を参照:【大麻山】

狛犬

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大麻比古神社の縄鳥居付近に建つ狛犬は、石碑に手を掛けた珍しい形をしています。

なお、秋にはハロウィン仕様に飾られるようです。

梟の像

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大麻比古神社にあるフクロウの像です。

氏子の彫刻家によって奉納されたものであり、福を招くと言われているようです。

大楠

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大麻比古神社の神木の大楠です。

樹齢1000余年の巨大な古木であり、鳴門市の天然記念物に指定されているそうです。

注連石

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大麻比古神社の注連石(しめいし)です。

拝殿

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大麻比古神社の拝殿です。

本殿

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大麻比古神社の本殿です。

裏拝殿

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大麻比古神社の裏拝殿です。

正式名称は知りませんが、本殿の背部にも参拝する場所が設けられています。

なお、四国にはこうした形の神社がいくつかみられるため、地域特有の形式なのかもしれません。

奥宮遥拝所

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大麻比古神社の奥宮遥拝所です。

その名の通り、大麻山の山頂に祀られている奥宮を遥拝する場所とされています。

メガネ橋

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大麻比古神社にあるメガネ橋です。

大正時代、板東俘虜収容所に収監されていたドイツ兵によって建築されたものとされています。

心願の鏡池

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大麻比古神社にある心願の鏡池です。

白濁とした神秘的な色の池であり、メガネ橋建築の折にドイツ兵によって掘られたとされています。

ドイツ橋

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大麻比古神社にあるドイツ橋です。

大正時代、メガネ橋と共にドイツ兵によって建築されたものとされています。

料金: 無料
住所: 徳島県鳴門市大麻町板東字広塚13(マップ
営業: 終日開放(祈祷受付9:00~16:30)
交通: 板東駅(徒歩25分)、徳島バス大麻線「大麻神社前」下車

公式サイト: http://www.ooasahikojinja.jp/
matapon
著者: matapon Twitter
「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。