人文研究見聞録:柿本人麻呂の詠歌(「地域別」まとめ)

万葉歌人として有名な柿本人麻呂ですが、国史には登場しないため、その生涯は多くの謎に包まれています。

そんな人麻呂の謎に迫るべく、地域にちなんだ詠歌を集めてみました。

※異説によるものも含んでいますので、ご注意ください。



群馬県


・3417:上つ毛野 伊奈良の沼の 大藺草 外に見しよは 今こそまされ


三重県


・40:嗚呼見の浦に 船乗りすらむ をとめらが 珠裳の裾に 潮満つらむか
・41:くしろ着く 手節の崎に 今日もかも 大宮人の玉藻 刈るらむ
・42:潮騒に伊良虞の島辺こぐ船に妹乗るらむ荒き島回を
・199:かけまくも ゆゆしきかも 言はまくも あやに畏き 明日香の 真神の原に ひさかたの 天つ御門を 畏くも 定めたまひて 神さぶと 磐隠ります やすみしし 我が大君の きこしめす 背面の国の 真木立つ 不破山越えて 高麗剣 和射見が原の 行宮に 天降りいまして 天の下 治めたまひ 食す国を 定めたまふと 鶏が鳴く 東の国の 御軍士を 召したまひて ちはやぶる 人を和せと 奉ろはぬ 国を治めと 皇子ながら 任したまへば 大御身に 大刀取り佩かし 大御手に 弓取り持たし 御軍士を 率ひたまひ 整ふる 鼓の音は 雷の 声と聞くまで 吹き鳴せる 小角の音も 敵見たる 虎か吼ゆると 諸人の おびゆるまでに ささげたる 旗の靡きは 冬こもり 春さり来れば 野ごとに つきてある火の 風の共 靡くがごとく 取り持てる 弓弭の騒き み雪降る 冬の林に つむじかも い巻き渡ると 思ふまで 聞きの畏く 引き放つ 矢の繁けく 大雪の 乱れて来れ まつろはず 立ち向ひしも 露霜の 消なば消ぬべく 行く鳥の 争ふはしに 渡会の 斎きの宮ゆ 神風に い吹き惑はし 天雲を 日の目も見せず 常闇に 覆ひたまひて 定めてし 瑞穂の国を 神ながら 太敷きまして やすみしし 我が大君の 天の下 奏したまへば 万代に しかしもあらむと 木綿花の 栄ゆる時に 我が大君 皇子の御門を 神宮に 装ひまつりて 使はしし 御門の人も 白栲の 麻衣着て 埴安の 御門の原に あかねさす 日のことごとと 鹿じもの い匍ひ伏しつつ ぬばたまの 夕になれば 大殿を 振り放け見つつ 鶉なす い匍ひ廻り 侍へど 侍ひえねば 春鳥の さまよひぬれば 嘆きも いまだ過ぎぬに 思ひも いまだ尽きねば 言さへく 百済の原ゆ 神葬り 葬りいませて あさもよし の宮を 城上常宮と 高くし奉りて 神ながら 鎮まりましぬ しかれども 我が大君の 万代と 思ひしめして 作らしし 香具山の宮 万代に 過ぎむと思へや 天のごと 振り放け見つつ 玉たすき 懸けて偲はむ 畏くあれども
・200:久かたの 天を知らせる 君故に 日月も知らに 恋ひわたるかも
・201:埴安の 池の堤の 隠り沼の ゆくへを知らに 舎人は惑ふ


滋賀県


・29:玉襷 畝火の山の 橿原の 日知御代ゆ生れましし 神のことごと 樛の木の いやつぎつぎに 天の下 知らしめししを 天にみつ 大和を置きて あをによし 奈良山を越え いかさまに 思ほしめせか 天離る 夷にはあれど 石走る 淡海の国の 楽浪の 大津の宮に 天の下 知らしめしけむ 天皇の 神の尊の 大宮は 此処と聞けども 大殿は 此処と言へども 春草の 繁く生ひたる 霞立つ 春日の霧れる ももしきの 大宮処 見れば悲しも
・30:楽浪の 志賀の唐崎 幸くあれど 大宮人の 船待ちかねつ
・31:楽浪の 志賀の大わだ 淀むとも 昔の人に またも逢はめやも
・217:秋山の したへる妹 なよ竹の とをよる児らは いかさまに 思ひ居れか たく縄の 長き命を 露こそば 朝に置きて 夕には 消ゆといへ 霧こそは 夕に立ちて 朝には失すといへ 梓弓 音聞く我も おほに見し こと悔しきを しきたへの 手枕まきて 剣太刀 身に添へ寝けむ 若草の その夫の子は さぶしみか 思ひて寝らむ 悔しみか 思ひ恋ふらむ 時ならず 過ぎにし児らが 朝露のごと 夕霧のごと
・218:楽浪の 志賀津の子らが 罷道の 川瀬の道を 見ればさぶしも
・219:天数ふ 大津の子が 逢ひし日に おほに見しくは 今ぞ悔しき


京都府


・264:もののふの 八十氏河の 網代木に いさよふ波の 行く方知らずも


大阪府


・249:御津の崎 波を恐み 隠江の 船寄せかねつ 野島の崎に


奈良県


・36:やすみしし わご大君の 聞しめす 天の下に 国はしも 多にあれども 山川の 清き河内と 御心を 吉野の国の 花散らふ 秋津の野辺に 宮柱 太敷きませば ももしきの 大宮人は 船並めて 朝川渡り 舟競ひ 夕河渡る この川の 絶ゆることなく この山の いや高知らす 水たぎつ 滝の都は 見れど飽かぬかも
・37:見れど飽かぬ 吉野の河の 常滑の 絶ゆることなく また還り見む
・38:やすみしし わが大君 神ながら 神さびせすと 吉野川 激つ河内に 高殿を 高知りまして 登り立ち 国見をせせば 畳はる 青垣山 山神の 奉る御調と 春へは 花かざし持ち 秋立てば 黄葉かざせり 逝き副ふ 川の神も 大御食に 仕へ奉ると 上つ瀬に 鵜川を立ち 下つ瀬に 小網さし渡す 山川も 依りて仕ふる 神の御代かも
・39:山川も 寄りて 奉ふる 神ながら たぎつ河内に 船出するかも
・167:天地の 初めの時 ひさかたの 天の河原に 八百万 千万神の 神集ひ 集ひいまして 神分ち 分ちし時に 天照らす 日女の命(一には「さしのぼる 日女の命」といふ) 天をば 知らしますと 葦原の 瑞穂の国を 天地の 寄り合ひし極み 知らしめす 神の命と 天雲の 八重かき別けて(一には「天雲の 八重雲別けて」といふ) 神下し いませまつりし 高照らす 日の御子は 明日香の 清御の宮に 神ながら 太敷きまして すめろぎの 敷きます国と 天の原 岩戸を開き 神上り 上りいましぬ(一には「神登り いましにしかば」といふ) 我が大君 皇子の命の 天の下 知らしめす世は 春花の 貴くあらむと 望月の 満しけむと 天の下(一には「食す国」といふ) 四方の人の 大船の 思ひ頼みて 天つ水 仰ぎて待つに いかさまに 思ほしめせか つれもなき 真弓の岡に 宮柱 太敷きいまし みあからを 高知りまして 朝言に 御言問はさず 日月の 数多くなりぬる そこゆゑに 皇子の宮人 ゆくへ知らずも(一には「さす竹の 皇子の宮人 ゆくへ知らにす」といふ)
・168:ひさかたの 天見るごとく 仰ぎ見し 皇子の御門の 荒れまく惜しも
・169:あかねさす 日は照らせれど ぬばたまの 夜渡る月の 隠らく惜しも
・170:嶋の宮 まがりの池の 放ち鳥 人目に恋ひて 池に潜かず
・194:飛ぶ鳥の 明日香の河の 上つ瀬に 生ふる玉藻は 下つ瀬に 流れ触らふ 玉藻なす か寄りかく寄り 靡かひし 嬬の命の たたなづく 柔膚すらを 剣刀 身に副へ寐ねば ぬばたまの 夜床も荒るらむ そこ故に 慰めかねて けだしくも 逢ふやと念ひて 玉垂の 越智の大野の 朝露に 玉裳はひづち 夕霧に 衣は濡れて 草枕 旅宿かもする 逢はぬ君ゆゑ
・195:敷栲の 袖交へし君 玉垂の 越智野過ぎ行く またも逢はめやも
・196:飛ぶ鳥の 明日香の川の 上つ瀬に 石橋いはばし渡し 下つ瀬に 打橋渡す 石橋に 生おひ靡ける 玉藻もぞ 絶ゆれば生はふる 打橋に 生おひををれる 川藻もぞ 枯るれば生はゆる なにしかも 我が王おほきみの 立たせば 玉藻のごと 臥こやせば 川藻のごとく 靡かひし 宜よろしき君が 朝宮を 忘れたまふや 夕宮を 背きたまふや うつそみと 思ひし時に 春へは 花折り挿頭かざし 秋立てば 黄葉もみちば挿頭し 敷布の 袖たづさはり 鏡なす 見れども飽かに 望月もちつきの いやめづらしみ 思ほしし 君と時々 出でまして 遊びたまひし 御食みけ向ふ 城上の宮を 常宮とこみやと 定めたまひて あぢさはふ 目言めことも絶えぬ そこをしも あやに悲しみ ぬえ鳥とりの 片恋しつつ 朝鳥の 通はす君が 夏草の 思ひ萎えて 夕星ゆふづつの か行きかく行き 大船の たゆたふ見れば 慰むる 心もあらず そこ故に 為せむすべ知らに 音のみも 名のみも絶えず 天地の いや遠長く 思しぬひ行かむ 御名に懸かせる 明日香川 万代までに はしきやし 我が王おほきみの 形見にここを
・197:明日香川 しがらみ渡し 塞かませば 流るる水も のどにかあらまし[一云水の淀にかあらまし]
・198:明日香川 明日さへ見むと 思へやも 我が王の 御名忘れせぬ
・207:天飛ぶや 軽の路は 吾妹子が 里にしあれば ねもころに 見まく欲しけど 止まず行かば 人目を多み 数多く行かば 人知りぬべみ 狭根葛 後も逢はむと 大船の 思ひ憑みて 玉かぎる 磐垣淵の 隠りのみ 恋ひつつあるに 渡る日の 暮れ行くが如 照る月の 雲隠る如 沖つ藻の 靡きし妹は 黄葉の 過ぎて去にきと 玉梓の 使の言へば 梓弓 音に聞きて 言はむ術 為むすべ知らに 音のみを 聞きてあり得ねば 我が恋ふる 千重の一重も 慰もる 情もありやと 我妹子が 止まず出で見し 軽の市に 我が立ち聞けば 玉たすき 畝傍の山に 鳴く鳥の 声も聞こえず 玉桙の 道行く人も ひとりだに 似てし行かねば すべをなみ 妹が名呼びて 袖ぞ振りつる
・208:秋山の もみぢを茂み 迷ゐぬる 妹が求めむ 山道知らずも
・209:もみぢ葉の 散りゆくなへに 玉梓の 使を見れば 逢ひし日思ほゆ
・210:うつせみと 思ひし時に 取り持ちて わが二人見し 走出の 堤に立てる 槻の木の こちごちの枝の 春の葉の 茂きが如く 思へりし 妹にはあれど たのめりし 児らにはあれど 世の中を 背きし得ねば かぎろひの 燃ゆる荒野に 白妙の 天領巾隠り 鳥じもの 朝立ちいまして 入日なす 隠りにしかば 吾妹子が 形見に置ける みどり児の 乞ひ泣くごとに 取り与ふる 物し無ければ 男じもの 腋ばさみ持ち 吾妹子と 二人わが宿し 枕づく 嬬屋の内に 昼はもうらさび暮し 夜はも 息づき明し 嘆けども せむすべ知らに 恋ふれども 逢ふ因を無み 大鳥の 羽易の山に わが恋ふる 妹は座すと 人の言へば 石根さくみて なづみ来し 吉けくもぞなき うつせみと 思ひし妹が 玉かぎる ほのかにだにも 見えなく思へば
・211:去年見てし 秋の月夜は 照らせども 相見し妹は いや年さかる
・212:衾道を 引手の山に 妹を置きて 山道を行けば 生けりともなし
・239:やすみしし 我が大王 高照らす 我が日の皇子の 馬並めて 御狩立たせる 若薦を 猟路の小野に 鹿こそば い匍ひ拝め 鶉こそ い匍ひ廻れ 鹿じもの い匍ひ拝み 鶉なす い匍ひ廻り 畏みと 仕へまつりて ひさかたの 天見るごとく まそ鏡 仰ぎて見れど 春草の いやめづらしき 我が大王かも
・240:ひさかたの 天行く月を 綱に刺し 我が大王は 蓋にせり
・261:やすみしし わが大君 高光る 日の皇子 しきいます 大殿の上に ひさかたの 天伝ひ来る 雪じもの 行き通ひつつ いや常世まで
・262:矢釣山 木立も見えず 降りまがふ 雪につどへる 朝楽しも
・423:つのさはふ 磐余の道を 朝さらず 行きけむ人の 思ひつつ 通ひけまくは ほととぎす 鳴く五月には あやめぐさ 花橘を 玉に貫き(一には「貫き交へ」といふ) かづらにせむと 九月の しぐれの時は 黄葉を 折りかざさむと 延ふ葛の いや遠永く(一には「葛の根の いや遠長に」といふ) 万代に 絶えじと思ひて(一には「大船の 思ひたのみて」といふ) 通ひけむ 君をば明日ゆ(一には「君を明日ゆは」といふ) 外にかも見む
・426:草枕 旅の宿に 誰が夫か 国忘れたる 家待たなくに
・428:こもりくの 初瀬の山の 山の際に いさよふ雲は 妹にかもあらむ
・429:山の際ゆ 出雲の児らは 霧なれや 吉野の山の 嶺にたなびく
・430:八雲さす 出雲の子らが 黒髪は 吉野の川の 沖になづさふ
・501:娘子らが 袖布留山の 瑞垣の 久しき時ゆ 思ひき我は
・502:夏野行く 牡鹿の角の 束の間も 妹が心を 忘れて思へや
・1092:鳴る神の 音のみ聞きし 巻向の 桧原の山を 今日見つるかも
・1093:三諸の その山なみに 子らが手を 巻向山は 継ぎしよろしも
・1094:我が衣 色取り染めむ 味酒 三室の山は 黄葉しにけり
・1761:三諸の 神奈備山に たち向ふ 御垣の山に 秋萩の 妻をまかむと 朝月夜 明けまく惜しみ あしひきの 山彦響め 呼びたて鳴くも
・1762:明日の宵 逢はざらめやも あしひきの 山彦響め 呼びたて鳴くも
・1812:ひさかたの 天の香具山 このゆふへ 霞たなびく 春立つらしも
・2334:沫雪は 千重に降りしけ 恋ひしくの 日長き我れは 見つつ偲はむ


和歌山県


・146:後見むと 君が結べる 岩代の 小松が末を また見けむかも
・496:み熊野の 浦の浜木綿 百重なす 心は思へど 直に逢はぬかも
・497:古に ありけむ人も わがごとか 妹に恋ひつつ 寝ねかてずけむ
・498:今のみの わざにはあらず いにしへの 人ぞまさりて 哭にさへ泣きし
・499:百重にも 来及かぬかもと 思へかも 君が使の 見れど飽かざらむ
・1796:もみち葉の 過ぎにし子らと 携はり 遊びし磯を 見れば悲しも
・1797:潮気たつ 荒磯にはあれど 行く水の 過ぎにし妹が 形見とぞ来し
・1798:いにしへに 妹と吾が見し ぬば玉の 黒牛潟を 見れば寂しも
・1799:玉津島 磯の浦廻の 真砂(まなご)にも にほひて行かな 妹が触りけむ


兵庫県


・249:御津の崎 波を恐み 隠江の 船寄せかねつ 野島の崎に
・250:珠藻刈る 敏馬を過ぎて 夏草の 野島が崎に 舟近づきぬ
・251:淡路の野 島が崎の 浜風に 妹が結びし 紐吹きかへす
・252:荒栲の 藤江の浦に 鱸釣る 白水郎とか見らむ 旅行くわれを
・253:稲日野も 行き過ぎかてに 思へれば 心恋しき 可古の島見ゆ
・254:ともしびの 明石大門に 入らむ日や 榜ぎ別れなむ 家のあたり見ず
・255:天離る 夷の長道ゆ 恋ひ来れば 明石の門より 大和島見ゆ
・256:飼飯の海の 庭好くあらし 刈薦の 乱れ出づ見ゆ 海人の釣船
・256:武庫の海の 庭よくあらし いざりする 海人の釣船 波のうへゆ見ゆ [別本]
・303:名くはしき 稲見の海の 沖つ波 千重に隠りぬ 大和島根は
・304:大王の 遠の朝廷と あり通ふ 島門を見れば 神代し思ほゆ
・3609:笥飯の海の 刈り薦の 乱れていづみゆ 海人の釣舟


岡山県


・217:秋山の したへる妹 なよ竹の とをよる児らは いかさまに 思ひ居れか たく縄の 長き命を 露こそば 朝に置きて 夕には 消ゆといへ 霧こそは 夕に立ちて 朝には失すといへ 梓弓 音聞く我も おほに見し こと悔しきを しきたへの 手枕まきて 剣太刀 身に添へ寝けむ 若草の その夫の子は さぶしみか 思ひて寝らむ 悔しみか 思ひ恋ふらむ 時ならず 過ぎにし児らが 朝露のごと 夕霧のごと
・218:楽浪の 志賀津の子らが 罷道の 川瀬の道を 見ればさぶしも
・219:天数ふ 大津の子が 逢ひし日に おほに見しくは 今ぞ悔しき


島根県


・131:石見の海 角の浦廻を 浦なしと 人こそ見らめ 潟なしと 人こそ見らめ よしゑやし 浦はなくとも よしゑやし 潟はなくとも 鯨魚取り 海辺を指して 和多津の 荒磯の上に か青く生ふる 玉藻沖つ藻 朝羽振る 風こそ寄らめ 夕羽振る 波こそ来寄れ 波の共 か寄りかく寄る 玉藻なす 寄り寝し妹を 露霜の 置きてし来れば この道の 八十隈ごとに 万たび かへり見すれど いや遠に 里は離りぬ いや高に 山も越え来ぬ 夏草の 思ひ萎えて 偲ふらむ 妹が門見む なびけこの山
・132:石見のや 高角山の 木の際より わが振る袖を 妹見つらむか
・133:小竹の葉は み山もさやに さやげども われは妹思ふ 別れ来ぬれば
・134:石見なる 高角山の 木の間ゆも 吾が袖振るを 妹見けむかも [異伝]
・135:つのさはふ 石見の海の 言さへく 唐の崎なる 海石にぞ 深海松生ふる 荒礒にぞ 玉藻は生ふる 玉藻なす 靡き寝し子を 深海松の 深めて思へど さ寝し夜は 幾だもあらず 延ふ蔦の 別れし来れば 肝向ふ 心を痛み 思ひつつ かへり見すれど 大船の 渡の山の 黄葉の 散りの乱ひに 妹が袖 さやにも見えず 妻ごもる 屋上の [一に云ふ 室上山] 山の 雲間より 渡らふ月の 惜しけども 隠らひ来れば 天伝ふ 入日さしぬれ 大夫と 思へる我れも 敷栲の 衣の袖は 通りて濡れぬ
・136:青駒が 足掻きを速み 雲居にぞ 妹があたりを 過ぎて来にける
・137:秋山に 落つる黄葉 しましくはな 散り乱ひそ 妹があたり見む
・223:鴨山の 岩根し枕ける われをかも 知らにと妹が 待ちつつあるらむ
・224:今日今日と 吾が待つ君は 石川の 貝に交りて ありといはずやも
・225:直に逢はば 逢ひもかねてむ 石川に 雲立ち渡れ 見つつ偲はむ
・1248:我妹子と 見つつ偲はむ 沖つ藻の 花咲きたらば 吾に告げこそ
・1249:君がため 浮沼の池の 菱摘むと 吾が染衣 濡れにけるかも
・1250:妹がため 菅の実採りに 行きし吾 山道に惑ひ この日暮らしつ


香川県


・220:玉藻よし 讃岐の国は 国柄か 見れども飽かぬ 神柄か ここだ貴き 天地 日月とともに 満り行かむ 神の御面と 云ひ継げる 那珂の港ゆ 船浮けて 吾が漕ぎ来れば 時つ風 雲居に吹くに 沖見れば とゐ波立ち 辺見れば 白波騒く 鯨魚取り 海を畏み 行く船の 梶引き折りて をちこちの 島は多けど 名ぐはし 狭岑の島の 荒磯廻に 廬りて見れば 波の音の 繁き浜辺を 敷栲の 枕になして 荒床に 転臥す君が 家知らば 行きても告げむ 妻知らば 来も問はましを 玉ほこの 道だに知らず 欝悒しく 待ちか恋ふらむ 愛しき妻らは
・221:妻もあらば 摘みて食げまし 狭岑の山 野の上のうはぎ 過ぎにけらずや
・222:沖つ波 来寄する荒礒を 敷栲の 枕とまきて 寝せる君かも


大分県


・1710:我妹子が 赤裳湿ちて 植ゑし田を 刈りて収めむ 倉無の浜
・1711:百伝ふ 八十の島廻を 漕ぎ来(き)けど 粟の小島は 見れど飽かぬかも

matapon
著者: matapon Twitter
「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。