『古事記』による日本神話(まとめ)
2016/05/06
『古事記』とは日本最古の歴史書とも言われる書物であり、その内容は「日本神話」と呼ばれる神代の歴史から記されています。
当サイトでは「日本神話の研究」をテーマの一つに挙げているため、此処に『古事記』に含まれる「日本神話」の内容を現代語訳にし、簡単にまとめて紹介しておきたいと思います(天皇の時代は省略します)。
前書
目的・留意点
はじめに、この記事に関する目的と留意点をまとめておきます。
・この記事は、『古事記』に記される「日本神話」の内容の理解を目的としています
・原文を現代語で理解できるようにするために、原文を現代語に訳して箇条書きで表記しています
・他書との比較のため、神名はカタカナで表記しており、また「~のみこと」「~のかみ」などの尊称を省略しています
・原文に沿った翻訳を心がけていますが、他の訳文と異なる場合があります(現代語訳の一つと思ってください)
・()で囲んだ神名は、その神の別名とされるものです(複数ある場合は「、」で区切っています)
・()で囲んだ文章は原文には無いものですが、内容を理解しやすいように敢えて書き加えています
・神名、初出の固有名詞、重要な名詞については太字で表記しています
・類似する神名を区別するため、一部の神名を色分けして表記しています
・サブタイトルについては独自に名付けたものであり、原文にはありません
・原文を現代語で理解できるようにするために、原文を現代語に訳して箇条書きで表記しています
・他書との比較のため、神名はカタカナで表記しており、また「~のみこと」「~のかみ」などの尊称を省略しています
・原文に沿った翻訳を心がけていますが、他の訳文と異なる場合があります(現代語訳の一つと思ってください)
・()で囲んだ神名は、その神の別名とされるものです(複数ある場合は「、」で区切っています)
・()で囲んだ文章は原文には無いものですが、内容を理解しやすいように敢えて書き加えています
・神名、初出の固有名詞、重要な名詞については太字で表記しています
・類似する神名を区別するため、一部の神名を色分けして表記しています
・サブタイトルについては独自に名付けたものであり、原文にはありません
史書の概要
『古事記』の概要について、簡単にまとめておきます。
・書名:古事記(こじき、ふることふみ)
・編者:太安万侶(おおのやすまろ)、稗田阿礼(ひえだのあれ)
・成立:712年(奈良時代)
・発端:天武天皇が、世に蔓延る誤った歴史・伝承・神話を正して後世に残すために編纂を始めた
・背景:天武天皇の時代に稗田阿礼に日本各地の歴史・伝承を習わせて、元明天皇の時代に太安万侶が編纂した
・発見:平安期に写本が発見されたのが初とされる(江戸時代の本居宣長の『古事記伝』によって読めるようになった)
・特徴:大和言葉に漢字を当てて編纂されているため漢文としては読めず、国内向けの史書とされる
・編者:太安万侶(おおのやすまろ)、稗田阿礼(ひえだのあれ)
・成立:712年(奈良時代)
・発端:天武天皇が、世に蔓延る誤った歴史・伝承・神話を正して後世に残すために編纂を始めた
・背景:天武天皇の時代に稗田阿礼に日本各地の歴史・伝承を習わせて、元明天皇の時代に太安万侶が編纂した
・発見:平安期に写本が発見されたのが初とされる(江戸時代の本居宣長の『古事記伝』によって読めるようになった)
・特徴:大和言葉に漢字を当てて編纂されているため漢文としては読めず、国内向けの史書とされる
天地開闢(別天津神と神世七代)
別天津神
・天地が分かれた
・最初に高天原に現れた神は、アメノミナカヌシである
・次に現れた神は、タカミムスビである
・次に現れた神は、カミムスビである
・国土が若く、固まらずに水に浮いた油のような状態になった
・このとき、ウマシアシカビヒコヂが生まれた
・次に、アメノトコタチが生まれた
・ここまでの神々は皆 独り神であり、天津神の中でも特別な別天津神(コトアマツカミ)である
神世七代
・別天津神の後にも独り神が生まれた
・まず、クニノトコタチが生まれた
・次に、トヨクモノが生まれた
・以上の神々は妻子も無く、姿形も無かった
・次に男女対となる神々が生まれた
・まず、ウジヒニ・スヒジニが生まれた
・次に、ツノグヒ・イクグヒが生まれた
・次に、オオトノジ・オオトノベが生まれた
・次に、オモタル・カシコネが生まれた
・次に、イザナギ・イザナミが生まれた
・クニノトコタチからイザナギ・イザナミまでを神世七代(かみのよななよ)と呼ぶ
イザナギとイザナミ
オノゴロ島
・イザナギ・イザナミの二神は天津神から漂う国を完成させることを命じられた
・そこでアメノヌボコを受け取ってアマノウキハシに立ち、矛を海に突き刺してかき回した
・コロコロと鳴らして矛を引き上げると、その先端から塩が滴り落ちて積もって行った
・それが島となり、オノゴロ島と呼ばれた
国産み
・二神はオノゴロ島に降り立ち、アメノミハシラを立てて広い神殿を作った
・そこでイザナギはイザナミに身体について尋ねた
・イザナミが「足りないところがある(女陰)」と答えると、イザナギが「余ったところがある(男根)」と答えた
・そこで、イザナギが互いの足りない部分と余った部分を合せて国を産もうと提案すると、イザナミも喜んで了承した
・イザナギは互いにアメノミハシラを反対から廻って出会ったときに交わろうと約束した
・そしてイザナギは左回りに、イザナミは右回りに廻り、出会ったときにイザナミが話しかけ、イザナギがそれに答えた
・しかし、イザナギは女神が先に話しかけることを不吉だといった
・この後、二神は交わって儲けた子をヒルコという
・二神はヒルコを葦で作った船に乗せて流して、捨ててしまった
・次にアワシマが生まれたが、これも子供とは認めなかった
・二神は不吉な子を儲けてしまったことについて話し合い、天津神に相談することにした
・天津神がフトマニで占うと、女神が先に話しかけたのが良くなかったと指摘し、順序を逆にしてやり直すように伝えた
・二神は再び地上に降りて、以前と同様に柱を廻り、話しかける順序を逆にして交わった
・すると、淡路島(アハヂノホノサワケノシマ)が生まれた
・次に、四国(イヨノフタナシマ)が生まれた
・四国には一つの体に四つの顔があり、それぞれに名前がある
・伊予国は、エヒメという
・讃岐国は、イヒヨリヒコという
・阿波国は、オオゲツヒメという
・土佐国は、タケヨリワケという
・次に、隠岐の島(アメオシコロワケ)が生まれた
・次に、九州が生まれた
・九州には一つの体に四つの顔があり、それぞれに名前がある
・筑紫国は、シラヒワケという
・豊国は、トヨヒワケという
・肥国は、タケヒムカトヨクジヒネワケという
・熊曾国は、タケヒワケという
・次に、壱岐島(アメヒトツバシラ)が生まれた
・次に、対馬(アメノサデヨリヒメ)が生まれた
・次に、佐渡島が生まれた
・次に、本州(アマツミソラトヨアキツネワケ)が生まれた
・この八つの島を最初に生んだため、日本をオオヤシマノクニと呼ぶ
・二神は次に細かい島々を生んだ
・まず、吉備児島(タケヒカタワケ)が生まれた
・次に、小豆島(オオノデヒメ)が生まれた
・次に、女島(アメヒトツネ)が生まれた
・次に、知訶島(アメノオシオ)が生まれた
・次に、両児島(アメフタヤ)が生まれた
神産み
・二神が国産みを終えると、今度は神を生みだした
・まず、オオコトオシオを生んだ
・次に、イワツチビコを生んだ
・次に、イワスヒメを生んだ
・次に、オオトヒワケを生んだ
・次に、アメノフキオを生んだ
・次に、オオヤビコを生んだ
・次に、カザモツワケノオシオを生んだ
・次に、オオワタツミを生んだ
・次に、ハヤアキツヒコを生んだ
・次に、ハヤアキツヒメを生んだ
・すると、ハヤアキツヒコとハヤアキツヒメが河と海の神を生んだ
・まず、アワナギ・アワナミが生まれた
・次に、ツラナギ・ツラナミが生まれた
・次に、アメノミクマリ・クノミクマリが生まれた
・次に、アメノクヒザモチ・クノクヒザモチが生まれた
・次に、シナツヒコが生まれた
・次に、ククノチが生まれた
・次に、オオヤマヅミが生まれた
・次に、カヤノヒメ(ノヅチ)が生まれた
・すると、オオヤマヅミとノヅチが山と野の神を分担して生んだ
・まず、アメノサヅチとクニノサヅチを生んだ
・次に、アメノクラトとクニノクラトを生んだ
・次に、オオトマトヒコとオオトマトヒメを生んだ
・(その後、イザナギ・イザナミの二神は神々を生んだ)
・次に、トリノイハクスフネ(アメノトリフネ)を生んだ
・次に、オオゲツヒメを生んだ
・次に、ヒノヤギハヤオノカミ(ヒノカグツチ)を生んだ
・イザナミは火の神であるカグツチを産んだことで女陰を火傷して苦しんだ
・その時の嘔吐物からカナヤマヒコとカナヤマヒメが生まれた
・また、脱糞した時の糞からハニヤスヒコとハニヤスヒメが生まれた
・また、失禁した時の尿からミツハノメとワクムスビが生まれた
・ワクムスビの子供がトヨウケビメである
・これを以ってイザナミは神上がってしまった(亡くなった)
火神被殺
・イザナミが居なくなったことで、イザナギは大いに悲しんだ
・その時の涙からナキサワメが生まれた
・イザナミの遺骸は出雲国と伯耆国の境の比婆山に葬られた
・イザナギは腰に帯びた十拳剣でカグツチの首を刎ねた(シチュエーションは省略)
・すると、カグツチの血から神々が生まれた
・まず、イワサクが生まれた
・次に、ネサクが生まれた
・次に、イワツツノオが生まれた
・次に、ミカハヤヒが生まれた
・次に、ヒハヤヒが生まれた
・次に、タケミカヅチノオ(タケフツ、トヨフツ)が生まれた
・次に、クラオカミが生まれた
・次に、クラミツハが生まれた
・また、カグツチの死体からも神々が生まれた
・まず、マサカヤマツミが生まれた
・次に、オドヤマツミが生まれた
・次に、クラヤマツミが生まれた
・次に、シギヤマツミが生まれた
・次に、ハヤマツミが生まれた
・次に、ハラヤマツミが生まれた
・次に、トヤマツミが生まれた
・なお、イザナギがカグツチを斬った刀の名前をアメノオハバリ(イツノオハバリ)という
黄泉の国
・イザナギは亡き妻に会おうと思い、黄泉国まで追って行った
・黄泉国の入口の前に到ると、戸の向こうでイザナミが出迎えた
・そこで、イザナギは「愛しい妻よ、二人で作った国はまだ出来ていない、だから戻ってこい」と訴えた
・しかし、イザナミは「ああ悔しい、私は黄泉国の食物を食べたために戻ることはできないのです」と話した
・だが、イザナミはせっかく訪ねて来た夫を思い、帰れるように黄泉国の王に相談してみると提案した
・ただし、その間に決して中を覗かないように釘を刺した
・イザナミが御殿の中に帰って行くと、イザナギはひたすら待ち続けることになった
・ところが、いつまで経ってもイザナミが帰って来なかった
・遂にしびれを切らしたイザナギは、角髪に挿した櫛の歯を折って火を灯して中に入って行った
・すると、中に居たイザナミの身体には蛆がたかり、頭・胸・腹・陰部・両手・両足に八柱の雷神が成っていた
・醜く変わり果てたイザナミの姿に恐怖したイザナギは、すぐさま逃げ帰ることにした
・すると、イザナミは自らに恥をかかせたことに怒り、逃げる夫をヨモツシコメに追わせた
・イザナギは追手を撒こうと、髪に付けていたカズラを取って投げた
・すると、カズラから山ブドウが成ってヨモツシコメがそれを食べ始めたので、イザナギは その間に逃げ延びた
・しかし、さらにヨモツシコメが追って来たので、今度は右の角髪に挿した櫛の歯を折って投げた
・すると、櫛の歯からタケノコが生えてヨモツシコメがそれを食べ始めたので、イザナギは その間に逃げ延びた
・今度は、イザナミが身体に沸いた雷神に千五百の軍勢を従わせてイザナギを追わせた
・イザナギは後ろ手に剣を振りつつ逃げたが、それでも追手が止まらなかった
・そこで、黄泉比良坂に到った時に そこに生えていた桃の木から実を三つ取り、それを追手に目がけて投げつけた
・すると、追手は恐れて退散していった
・イザナギは、その桃の実に自分を救ったように人民も救うようにと命じ、オオカムズミという神名を与えた
・最後にイザナミ自身が追ってきたので、イザナギはチビキノイワを持って来て黄泉比良坂の入口を塞いだ
・そして、イザナギはチビキノイワを挟んでイザナミと話し合った
・イザナミは「愛しきイザナギよ、私はあなたの国の人民を毎日千人絞め殺しましょう」と言った
・イザナギは「愛しきイザナミよ、お前がそうするならば私は一日に千五百の産屋を立てよう」と言った
・これ以来、毎日千人が死に、千五百人が生まれるようになった
・また、これによりイザナミをヨモツオオカミ、またイザナギに追いついたことからチシキノオオカミとも呼ぶようになった
・また、黄泉比良坂を塞いだ岩の名をチガエシノオオカミと名付け、またヨミドノオオカミとも呼ばれた
・なお、この黄泉比良坂は出雲のイフヤサカという場所にある
禊祓と三貴子
・黄泉国から帰ったイザナギは、穢れた身体を清めるために禊を行うことにした
・そこで筑紫の日向の橘の小門の阿波岐原に行って禊を行った
・その際、イザナギの捨てた衣服から神々が生じた
・投げ棄てた杖から、ツキタツフナトが生まれた
・投げ棄てた帯から、ミチノナガチハが生まれた
・投げ棄てた袋から、トキハカシが生まれた
・投げ棄てた衣から、ワヅラヒノウシが生まれた
・投げ棄てた袴から、チマタが生まれた
・投げ棄てた冠から、アキグヒノウシが生まれた
・投げ棄てた左の腕輪から、オキザカルが生まれた
・次に、オキツナギサビコが生まれた
・次に、オキツカヒベラカが生まれた
・投げ棄てた右の腕輪から、ヘザカルが生まれた
・次に、ヘツナギサビコが生まれた
・次に、ヘツカヒベラが生まれた
・以上の十二柱の神は身に付けていた物から生まれた神々である
・イザナギは「上の瀬は流れが速く、下の瀬は流れが遅い」と言って、その中程に潜って禊をした
・すると、ヤソマガツヒが生まれた
・次に、オオマガツヒが生まれた
・この二柱の神は、黄泉国でイザナギに付いた穢れたから生まれた神である
・また、イザナギが身体を洗ったときにも神々が生じた
・イザナギが禍々しさを直そうとすると、カムナオビが生まれた
・次に、オオナオビが生まれた
・次に、イヅノメが生まれた
・イザナギが水の底で身体を洗うと、ソコツワタツミが生まれた
・次に、ソコツツノオが生まれた
・イザナギが水の中程で身体を洗うと、ナカツワタツミが生まれた
・次に、ナカツツノオが生まれた
・イザナギが水の上方で身体を洗うと、ウワツワタツミが生まれた
・次に、ウワツツノオが生まれた
・ワタツミは阿曇連などの先祖神として祀られる神であり、阿曇連はワタツミの子のウツシヒカナサクの子孫である
・また、ソコツツノオ・ナカツツノオ・ウワツツノオの三柱の神が住吉神社で祀られている
・(また、イザナギが顔を洗ったときにも神々が生じた)
・イザナギが左目を洗うと、アマテラス(天照大御神)が生まれた
・イザナギが右目を洗うと、ツクヨミ(月読命)が生まれた
・イザナギが鼻を洗うと、スサノオ(建速須佐之男命)が生まれた
・ヤソマガツヒからスサノオまでの十四柱の神々は、イザナギの禊で生まれた神である
アマテラスとスサノオ
スサノオノミコトの神やらひ
・イザナギは「最後に生まれた三柱の神は貴い子だ」と言って喜んだ
・アマテラスには首飾りを授けて、高天原を統治するように命じた
・この首飾りの玉をミクラタナという
・ツキヨミには、夜食国を統治するように命じた
・スサノオには、海原を統治するように命じた
・イザナギが命じた通りに三貴子は各々の領域を治めていた
・しかし、スサノオだけは治めず、アゴヒゲが胸に届くほどになっても泣き喚いているばかりであった
・あまりに激しく泣くので緑の山が枯れてしまい、河や海の水が干上がってしまうほどだった
・それによって邪神が騒ぎ立ち、その声が夏の蠅のように辺りに満ちて悪霊が湧いた
・イザナギがスサノオに国を治めずに泣いている理由を問うと、スサノオは母の居る根之堅州國に行きたいと答えた
・イザナギは怒り、スサノオを追放してしまった
・なお、イザナギはこのとき近江の多賀に居た
アマテラスとスサノオの誓約
・イザナギから追放を言い渡されたスサノオは、アマテラスに挨拶してから根の国に向かおうとして高天原に昇った
・すると、その間に山や川が震えたので、その音を聞いたアマテラスは驚いた
・そして、弟が悪心を抱いて高天原を奪いに来たのに違いないとして、スサノオを迎え撃つ格好になった
・それは、髪の左右を角髪に結い、髪やカズラや左右の手に勾玉の沢山付いた玉の緒を巻くというものであった
・また、背には矢が千本も入る靫を背負い、胸にも五百本入りの靫を付け、威勢の良い音を立てる鞆を帯びた
・アマテラスは両足が地面にめり込むほど踏み込み、雄々しくスサノオに昇ってきた理由を問うた
・すると、スサノオは悪心が無いことを伝え、イザナギに追放されて根の国に向かうことになったという経緯を話した
・アマテラスは、スサノオが悪心を抱いていることを疑い、どのようにして証明するのかを問うた
・すると、スサノオは誓約をして子供を生もうと提案した
・二神は天安河(アメノヤスカワ)にて、河を間に挟んで立って誓約を行った
・まず、アマテラスがスサノオの持っていた十拳剣を受け取った
・そして、それを三つに折り、アメノマナイの水で濯いで噛み砕いて吹き出した
・すると、その息吹からタキリヒメ(オキツシマヒメ)・イチキシマヒメ(サヨリビメ)・タキツヒメの三女神が生まれた
・次に、スサノオはアマテラスが左の角髪に付けていた玉の緒を受け取った
・そして、玉が揺れて音が立つほどにアメノマナイの水で濯いで噛み砕いて吹き出した
・すると、その息吹からオシホミミ(マサカツアカツカツカチハヤヒアメノオシホミミ)が生まれた
・次に、アマテラスが右の角髪に付けていた玉の緒を同様に噛み砕いて吹き出した
・すると、その息吹からアメノホヒが生まれた
・次に、アマテラスがカズラに付けていた玉の緒を同様に噛み砕いて吹き出した
・すると、その息吹からアマツヒコネが生まれた
・次に、アマテラスが左手に巻いていた玉の緒を同様に噛み砕いて吹き出した
・すると、その息吹からイクツヒコネが生まれた
・次に、アマテラスが右手に巻いていた玉の緒を同様に噛み砕いて吹き出した
・すると、その息吹からクマノクスビが生まれた
・スサノオが生んだのは五柱の男神であった
・アマテラスは「五柱の男神は私の持ち物から生まれたので私の子、同様に三柱の女神は貴方の子としなさい」と言った
・なお、先に生まれた三女神は九州の宗像社(沖津宮・中津宮・辺津宮)に祀られている
・また、アメノホヒの子のタケヒラドリは、出雲国造・武蔵国造・上海上国造・下海上国造・伊甚国造・津島県直・遠江国造らの祖先である
・また、アマツヒコネは、川内国造・額田部湯坐連・茨木国造・倭田中直・山代国造・馬来田国造・道尻岐閇国造・周芳国造・倭淹知造・高市県主・蒲生稲寸・三枝部造らの祖先である
天岩戸
・スサノオは、アマテラスに対して「私の心が清らかだったために女神が生まれた、よって私が勝ったのだ」と宣言した
・そして、勝った勢いに任せて乱暴を働いた
・スサノオはアマテラスの田の畔を壊したり、溝を埋めたりした
・また、食事をする御殿に糞を撒き散らした
・このようにスサノオが狼藉を働いても、アマテラスは咎めなかった
・なお、糞を撒いた件については「きっと酒に酔って、このようなことをしたのだろう」と解釈した
・また、田の畔を壊して溝を埋めた件については「きっと地面を惜しんで、このようなことをしたのだろう」と解釈した
・しかし、スサノオの乱暴な仕業は止むことはなかった
・アマテラスが機織場に居て神の御衣裳を織らせているとき、スサノオは機織場の屋根に穴を開けて皮を剥いだ斑駒を落した
・すると、機織女が驚いて梭で女陰を突いて死んでしまった
・これより、アマテラスはスサノオを恐れて天岩戸(アマノイワヤ)に籠ってしまった
・すると、高天原は暗くなり、葦原中国も暗闇に覆われて、朝が来ない永遠の夜となった
・そのため、世界には邪悪な声が夏の蠅のように響き、災いで溢れかえった
・この事態を収拾しようと、八百万の神が天安河に集まり、タカミムスビの子のオモイカネに方策を考えさせた
・そこで、オモイカネの考えだした策は"祭を開く"というものだった
・(先に祭の準備に取り掛かった)
・まず、常世の長鳴鳥を集めて鳴かせた
・次に、鍛冶屋のアマツマラとイシコリドメに八咫鏡を作らせた
・次に、タマノオヤに勾玉を連ねた玉の緒を作らせた
・次に、アメノコヤネとフトダマを呼び、天香具山の鹿の骨を抜き取らせ、天香具山のハハカの木で焼かせて占わせた
・(そして、祭が開催された)
・まず、天香具山の榊を一本抜いて来て、上段に玉の緒、中段に八咫鏡、外段に白と青の布を垂らした
・次に、その飾った榊をフトダマが持ち、アメノコヤネが祝詞を唱えた
・次に、アメノタヂカラオが岩戸の傍に隠れた
・次に、アメノウズメがヒカゲカズラを襷掛けにし、マサキカズラを髪に飾り、手に笹の葉を束ねて持ち、伏せた桶の上に立って踏み鳴らした
・アメノウズメが神懸かりを得れば、胸をはだけて女陰を露わにしたため、それを見ていた八百万の神が共々に笑った
・岩戸の中のアマテラスは外の様子がおかしいと思い、岩戸を少しだけ開けて中から覗いてみた
・そして、「私が岩戸に隠れて天地が暗黒になったのに、どうしてアメノウズメが踊って神々が湧いているのだ」と言った
・すると、アメノウズメが「貴方よりも優れた神が現れたので嬉しくて踊っているのです」と答えた
・このとき、アメノコヤネとフトダマが八咫鏡をアマテラスに見せると、余計に不思議がったアマテラスが岩戸から出てきた
・その際に、岩戸の傍に隠れていたアメノタヂカラオがアマテラスの手を引っ張って岩戸から出した
・そして、フトダマがすぐさま岩戸の入口に注連縄を掛けて「これより中に入ることはできません」と言った
・アマテラスが岩戸から出てくると、高天原も葦原中国にも日の光が戻ってきた
・その後、八百万の神々はアマテラスを隠れさせたスサノオの罪について話し合った
・その結果、スサノオに沢山の品物を献上させ、鬚(ヒゲ)と手足の爪を抜いて高天原から追放した
オオゲツヒメ
・地上に追放されたスサノオは、食物をオオゲツヒメという神に求めた
・すると、オオゲツヒメは鼻・口・尻から食物を出し、それを調理してスサノオに差し出した
・その様子を見ていたスサノオは「穢れた食物を出すとは無礼である」と怒ってオオゲツヒメを殺してしまった
・この後、オオゲツヒメの身体から生まれる物があった
・まず、頭から蚕が生まれた
・次に、両目から稲が生まれた
・次に、両耳から粟(アワ)が生まれた
・次に、鼻から小豆が生まれた
・次に、女陰から麦が生まれた
・次に、尻から大豆が生まれた
・これらはカミムスビが回収して種とした
ヤマタノオロチ
・スサノオが出雲のヒノカワの河上のトリカミという地に到った時、河に箸が流れてきた
・これを見て人が住んでいることを知ったスサノオは、それを追って探しに行くと やがて家を見つけた
・スサノオがその家を訪ねると、中には老夫婦と一人の少女が住んでいて、その少女を間に置いて泣いていた
・そこで、スサノオは老夫婦の素性を問うた
・すると、老翁が「私は国津神のオオヤマヅミの子でアシナヅチといい、妻はテナヅチといいます」と答えた
・また、「この少女は娘のクシナダヒメです」と答えた
・次に、スサノオは老夫婦が泣いている理由について問うた
・すると、老翁が「私たちの娘は八人いましたが、コシから来たヤマタノオロチに毎年食べられてしまいました」と言った
・また、「今夜がヤマタノオロチが来てクシナダヒメを食べてしまうので泣いているのです」と答えた
・次に、スサノオはヤマタノオロチの姿形について問うた
・すると、老翁が「その目はホオズキのように赤く、身体が一つで、頭が八つ、尻尾が八つあります」と言った
・また、「その身体にはヒカゲカズラや檜や杉も生えており、その大きさは八つの谷と八つの峰に及んでいます」とも言った
・また、「その腹を見れば、常に血が滲んでいます」と答えた
・一連の話を聞いたスサノオは、老夫婦の娘が欲しいと申し出た
・すると、老翁が「畏れ多いことに私は貴方の名前も存じておりません」と答えた
・そこで、スサノオが「私はアマテラスのイロセ(弟)であり、今 高天原から降り立ったところだ」と答えた
・それを聞いた老夫婦は「ならば、私たちの娘を差し上げましょう」と言った
・スサノオは、クシナダヒメをユツツマクシに変えて自分の髪に挿した
・そして、老夫婦にヤマタノオロチを倒す作戦を伝えた
・まず、何度も醸した酒を造るように命じた
・次に、垣根と八つの門を造り、門には浅敷を造って酒桶を置くように命じた
・そして、酒桶に濃い酒を盛って待つように命じた
・老夫婦はスサノオの言うとおりに準備をして待っていると、遂にヤマタノオロチが姿を現した
・すると、オロチは酒桶を見つけた途端に首を突っ込んで酒を飲み干してしまい、飲んだ後は酔って そこに寝てしまった
・そこで、スサノオは身に付けていた十拳剣を抜いてヤマタノオロチを斬り刻むと、ヒノカワがオロチの血で染まった
・スサノオがオロチの尾を斬ると十拳剣が欠けたので、怪しく思って剣の先で尾を裂いてみた
・すると、中からツムカリノタチが出てきたので、不思議なものだと思ってアマテラスに告げて奉った
・なお、この剣が草薙の太刀(草薙剣)である
・スサノオは、ヤマタノオロチを退治した後に宮殿を造るべき土地を出雲にしようと決めた
・そして、スガに到った時に「清々しい」と言って、スガに宮殿を造った
・このため、この土地を須賀という
・宮殿が出来あがると、この土地から雲が立ち昇ったのでスサノオは歌を詠んだ
・「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を」
・そして、老翁(アシナヅチ)を宮殿の宮主に定めて、稲田の宮主・スガノヤツミミと名付けた
スサノオの神裔
・(スサノオの系譜)
・スサノオがクシナダヒメと交わって生んだ神をヤシマジヌミという
・また、オオヤマヅミの娘のカムオオイチヒメを娶って生んだ子が、オオトシとウカノミタマである
・(ヤシマジヌミの系譜)
・ヤシマジヌミは、オオヤマヅミの娘のコノハナチルヒメを娶って、フハノモヂクヌスヌを儲けた
・フハノモヂクヌスヌは、オカミの娘のヒカワヒメを娶って、フカフチノミヅヤレハナを儲けた
・フカフチノミヅヤレハナは、アメノツドヘチネを娶って、オミヅヌを儲けた
・オミヅヌは、フノヅノの娘のフテミミを娶って、アメノフユキヌを儲けた
・アメノフヌキヌは、サシクニオオの娘のサシクニワカヒメを娶って、オオクニヌシを儲けた(スサノオの六世孫)
オオクニヌシ
因幡の白兎
・オオクニヌシには多くの別名がある
・ある名は、オオナムチという
・ある名は、アシハラシコオという
・ある名は、ヤチホコという
・ある名は、ウツシクニタマという
・このように、合せて五つの名がある
・また、オオクニヌシには沢山の兄弟神(ヤソカミ)がいた
・兄弟神は皆でオオクニヌシに国(国主の座)を譲ることにした
・その理由は、それぞれが因幡のヤガミヒメに求婚しようとする魂胆があったためである
・そこで、因幡に向かう時にオオナムチに袋を背負わせて従者のようにして連れて行った
・一行が因幡に向かう途中でケタに到ると、そこに裸のウサギが倒れていた
・そこで先に通りかかった兄弟神がウサギに「傷を治したければ、海水を浴びて風に当たり、高い山の頂上で寝よ」と教えた
・ウサギが兄弟神の言うとおりにすると、海水が乾いた後に皮膚がひび割れて傷がさらに痛んだ
・それでウサギが泣いているとオオナムチが通りかかって泣いている理由を問うた
・すると、ウサギは事の発端から丁寧に説明し始めた
・このウサギは最初は沖ノ島に居たが、ケタまで渡りたいと思って その方法を考えていたという
・そこで、海のワニを騙して「私と貴方とどっちの同族が多いか数えたい」と提案した
・そして、海のワニをケタの前まで並ばせて、その上を跳んで走りながら数えることにした
・ウサギがワニを踏み越えて数を数えながら地に降りようとしたとき、ウサギは「お前たちは私に騙されたのだよ」と言った
・すると、怒ったワニがウサギを捕らえて、その身包み(身体の皮)を剥いでしまった
・そして、ケタで泣いていると、兄弟神がやってきて「傷を治すには海水を浴びて風に当たれ」と教えてくれた
・その通りにしていると全身傷だらけになってしまったで泣いているのだと説明した
・それを聞いたオオナムチは、ウサギに「今すぐ河口に行って真水で身を洗い、河口に生えた蒲の花粉の上で寝よ」と教えた
・ウサギがオオナムチの言うとおりにすると、たちまち元通りになった
・これが稲羽の素菟(因幡の白兎)であり、今も このウサギのことを兎神という
・兎神はオオナムチに「兄弟神はヤガミヒメを得られないでしょう、たとえ袋を背負っていたの娶るのは貴方です」と言った
・すると、兄弟神の求婚を受けたヤガミヒメはそれを断り、オオナムチと結婚すると宣言した
ヤソカミの迫害
・ヤガミヒメの宣言に怒った兄弟神は、オオナムチを殺してしまおうと相談した
・そこで、伯耆国の手間の山麓にオオナムチを呼びだした
・そして、「この山には赤い猪が居る、我々が追い立てるのでお前が待ち伏せて捕らえろ」と命じた
・また、「もし、捕らえることができなければ、必ずお前を殺してやろう」とも言った
・オオナムチが言われたとおりに待っていると、兄弟神はイノシシに似た大石に火を付けて、オオナムチに向けて転がした
・そのため、オオナムチは転がってきた焼石に巻き込まれて死んでしまった
・このことを知った母神は泣き悲しみ、高天原に昇ってカミムスビに救いを求めた
・すると、カミムスビはサキガイヒメとウムギヒメを遣わして、オオナムチの身体を治して蘇生させた
・その方法は、キサガイヒメは貝殻を削って粉を集め、ウムギヒメは粉を溶いて母乳として塗るというものであった
・その後、兄弟神はオオナムチを再び騙して山に連れ込み、伐った大木に楔を打った仕掛けを以って待ち伏せた
・そして、オオナムチが仕掛けの嵌る場所に入ったところで兄弟神が楔を抜き、オオナムチを打ち殺してしまった
・母神は泣き悲しみ、オオナムチを探して見つけ出すと再び蘇生させた
・そのとき、母神は「お前は此処に居る限り、兄弟神に殺されてしまうでしょう」と心配して、紀国のオオヤビコの元に送った
・すると、オオナムチを探した兄弟神がオオヤビコの元にやってきた
・そして、弓に矢を添えて構えて待ち、匿っているオオナムチを引き渡すように言った
・そこで、オオヤビコはオオナムチを木の股から逃げるように言い、根之堅州国でスサノオに会うように助言した
根の国訪問
・オオナムチは、オオヤビコの助言に従って根之堅州国に到ると、早速 スサノオの御殿を目指した
・すると、スサノオの娘のスセリヒメが現れて、出会ったときから互いに惹かれあって そのまま結婚してしまった
・スセリヒメが御殿に帰って父のスサノオに外に素敵な神が居たと告げた
・すると、スサノオはオオナムチを見るなり、あれはアシハラシコオという神だと言った
・スサノオはオオナムチを御殿に招き入れると、蛇の部屋に入れて寝かせた
・その際、スセリヒメはオオナムチに"ヘビのヒレ"を渡して、蛇が襲ってきたらヒレを三回振って祓うように助言した
・オオナムチが言われたとおりにすると蛇は大人しくなったので、平穏に寝て無事に蛇の部屋から出た
・次の日に、スサノオはオオナムチを蚣と蜂の部屋に入れた
・その際、スセリヒメはオオナムチに"ムカデとハチを祓うヒレ"を渡して同様に使い方を教えた
・そのため、オオナムチは何事も無く無事に部屋を出ることができた
・スサノオは"ナリカブラ(鏑矢)"を野原に向けて撃ち、オオナムチに それを拾ってくるように命じた
・オオナムチが矢を追って野原に入ると、スサノオは火を放って野原を焼いてしまった
・オオナムチは逃げ場所が無く困っていると、ネズミがやってきて「中はホラホラ、外はスブスブ」と言った
・これを聞いたオオナムチが地面を踏みしめると、地面が割れた空洞になった地中に落ちてしまった
・すると、ネズミが鏑矢を咥えて出てきてオオナムチに渡した
・なお、矢の羽はネズミの子供が食いちぎってしまっていた
・一方、オオナムチが死んでしまったと思ったスセリヒメは葬儀の準備をしながら泣いていた
・スサノオは死んだオオナムチを探すために焼けた野原に入ると、オオナムチが現れて鏑矢をスサノオに差し出した
・そこで、スサノオはオオナムチを家に引き入れて、御殿の大広間で頭の湧いたシラミを取らせた
・オオナムチがスサノオの頭を見ると、ムカデが沢山這い回っていた
・その際、スセリヒメはムクの木の実と赤土をオオナムチに渡すと、オオナムチはそれを口に含んで吐き出した
・スサノオは、オオナムチはムカデを噛み砕いているのだと思いこみ、関心して寝てしまった
・オオナムチはスサノオが寝たのを見計らうと、スサノオの髪を部屋の各柱に結び付けた
・また、大岩を部屋に入口にまで持って来て、それで入口を塞いだ
・そして、スセリヒメを背負い、スサノオの神宝であるイクタチ(太刀)・イクユミヤ(弓矢)・アメノノリゴト(琴)を持って逃げ出した
・その際、アメノノリゴトが木に触れて、大地が揺れるような大きな音が鳴った
・琴の音に目を覚ましたスサノオは、驚いて起き上がろうとすると髪が引っ掛かってそのまま建物を引き倒してしまった
・そして、スサノオが柱に結びつけられた髪をほどいている間に、オオナムチは遠くへと逃げてしまった
・スサノオは黄泉比良坂まで追ってきて、遥か遠くに居るオオナムチに向って叫んで言った
・「お前が持っているイクタチとイクユミヤで兄弟神を坂の裾まで追いつめて、川の瀬に追い払え」
・「また、オオクニヌシ、ウツクシクニタマとなり、娘のスセリヒメを正妻とせよ」
・「そして、宇迦の山麓に太い柱を立て、高い宮殿に住むがよい、この奴め」
・その後、オオナムチはイクタチとイクユミヤを使って兄弟神を退け、坂の下や河の瀬に追いやって国を作った
・また、ヤガミヒメは、当時の約束通りにオオナムチと結婚して夫婦となった
・そして、因幡から出雲に連れてきたが、正妻のスセリヒメは嫉妬深かったため、上手くはいかなかった
・そのため、ヤガミヒメはスセリヒメを恐れるようになり、生まれた子供を木の股に挟んで因幡に帰ってしまった
・その子供はキマタの神、もしくはミイの神という
ヤチホコカミの妻問い
・ヤチホコが越国のヌナカワヒメと結婚しようとして、その家に行った時に歌を詠んだ(以下内容)
・ヤチホコは八島で好ましい妻を娶ることができなかったが、そんな時に遠い越国に賢くて美しい女性が居ると聞いた
・そこで結婚しようと出発し、何度も通って求婚したのである
・その際には、太刀の緒も解かず、襲も脱がずに少女が寝ている家の戸を揺さぶった
・すると、山のヌエ、野のキジ、庭のニワトリが鳴いた
・そこで、私は天の使いに、鳴いて私を苛立たせる鳥どもを打って静かにさせて欲しいと願った
・ヤチホコが歌を詠んだが、ヌナカワヒメは戸を開けずに中から返歌した(以下内容)
・ヤチホコよ、私は萎れた草のような女ですから、私の心は漂う水鳥のようなものです
・今は私鳥でも、やがては貴方の鳥になりましょう
・なので、天の使いに鳥を命を奪うように願うのはやめてください
・(また、ヌナカワヒメはこのようにも返歌した)(以下内容)
・山に日が沈んだら、夜には出迎えましょう
・朝日のような笑顔で貴方が来たならば、私の白い腕や沫雪のような若い胸を抱いて絡み合いましょう
・そして、玉のように美しい私の手を枕にして、足を伸ばして寝るのです
・だから、そんなに恋い焦がれないでください、ヤチホコの神よ
・ヤチホコは、ヌナカワヒメの返歌から その心を知り、その日の夜は会わずに、その翌日の夜に会った
・ヤチホコの正妻のスセリヒメは、とても嫉妬深い女神であった
・そのため、ヤチホコは鬱陶しく思って、出雲国から倭国に上がろうとと旅支度をしていた
・そして、出発する際に片方の手を馬の鞍に掛け、片方の足を鐙に入れて歌を詠んだ(以下内容)
・黒い御衣を十分に着こなしてみたつもりだったが、沖の水鳥が胸元を見るように袖を振るってみると、どうも似合わない
・波が引くように衣裳を後ろに脱ぎ捨てて、カワセミのように青い御衣を着こなして袖を振るってみても、似合わないようだ
・波が引くように衣裳を後ろに脱ぎ捨てて、山に蒔いた染木で染めた御衣を着こなして袖を振るってみれば、これは似合う
・愛しい妻よ、私が諸共に立ち去れば、汝は泣くまいと言えども、きっと山の一本薄のように項垂れて泣いてしまうだろう
・そして、その悲しみは朝の雨の霧のように立つだろう、若草のような我が妻よ
・ヤチホコが歌を読むと、スセリヒメは大きな盃を持ってヤチホコの傍に寄って返歌した(以下内容)
・ヤチホコの神よ、我がオオクニヌシよ、汝は男である故に島々の各港にはそれぞれの妻が待っているのでしょう
・私は女であるが故に貴方以外に男は無く、汝を除いて夫は居ません
・だから、ふわりと垂れた織物の下で、暖かい衾の柔らかい下で、白い衾がさやさやと鳴る下で
・沫雪のような若々しい胸を、楮の綱のような白い腕で抱いて絡み合い、私の腕を枕にして足を伸ばして休んでください
・そして、美味しい酒を飲みながら遊んで行ってください
・ヤチホコは、スセリヒメの返歌を聞いて足を止めた
・そして、すぐに盃を交わして夫婦の契りを行い、互いの腕を首に掛けて睦まじく過ごした
・これを神語りという
オオクニヌシの神裔
・オオクニヌシが宗像の奥津宮の神であるタキリヒメを娶って生んだ子はアヂスキタカヒコネといい、今は迦毛大御神という
・次に生まれたのが妹のタカヒメであり、別名をシタテルヒメという
・オオクニヌシがカムヤタテヒメを娶って生んだ子は、コトシロヌシという
・オオクニヌシがヤシマムジの娘のトトリを娶って生んだ子は、トリナルミである
・トリナルミがヒナテルヌカタビチオイコチニを娶って生んだ子は、クニオシトミである
・クニオシトミがアシナダカ(ヤガハエヒメ)を娶って生んだ子は、ハヤミカノタケサハヤジヌミである
・ハヤミカノタケサハヤジヌミがアメノミカヌシの娘のサキタマヒメを娶って生んだ子は、ミカヌシヒコである
・ミカヌシヒコがオカミの娘のヒラナシヒメを娶って生んだ子が、タヒリキシマルミである
・タヒリキシマルミがヒヒラギソノハナマヅミの娘のイクタマサキタマヒメを娶って生んだ子が、ミロナミである
・ミロナミがシキヤマヌシの娘のアオヌウマヌオシヒメを娶って生んだ子が、ヌノオシトミトリナルミである
・ヌノオシトミトリナルミがワカツクシヒメを娶って生んだ子が、アメノヒバラオオシナドミである
・アメノヒバラオオシナドミがアマノサギリの娘を娶って生んだ子が、トオツヤマサキタラシである
・先のヤシマジヌミからトオツヤマサキタラシまでの神々を十七世の神と呼ぶ
スクナヒコナと御諸山の神
・オオクニヌシが出雲の美保岬に居た時に、蛾の皮を剥いで作った服を着て、波の上をアメノカガミフネに乗ってやってくる神がいた
・オオクニヌシは、その神に名前を問うたが答えず、オオクニヌシが部下に尋ねても知る者は見つからなかった
・そこで、オオクニヌシがヒキガエル(タニググ)に聞くと、クエビコが知っているだろうと答えた
・そして、クエビコに聞くと「これはカミムスビの子のスクナヒコナです」と答えた
・なお、クエビコは山田のソホドに居る案山子の神で、歩くことはできないが世界のことを何でも知っている神である
・オオクニヌシは、スクナヒコナがやってきたことをカミムスビに報告した
・すると、カミムスビは「正に私の子だが、子供の中でも私の指からこぼれてしまったのだろう」と言った
・そして、スクナヒコナにアシハラシコオ(オオクニヌシ)の兄弟となって国を作り固めるように命じた
・これ以来、オオクニヌシとスクナヒコナの二神は協力して国を作り固めた
・その後、スクナヒコナは常世の国へと渡ってしまった
・一人になってしまったオオクニヌシは、この先一人でどのように国造りをしていこうか、どの神と協力しようかと悩んでいた
・すると、"海を照らしてやってくる神"が現れて「私を丁寧に祀るのならば供に国を造ろう、だが祀らなければ上手くいかないだろう」と言った
・これを聞いたオオクニヌシはどこに祀れば良いか尋ねると、その神は"倭の青垣の東の山"に祀るように指示した
・故に、この神は御諸山に座している
オオトシノカミの神裔
・オオトシノカミがカミイクスビの娘のイノヒメを娶って生んだ子は、オオクニミタマである
・次に、カラノカミを生んだ
・次に、ソホリノカミを生んだ
・次に、シラヒノカミを生んだ
・次に、ヒジリノカミを生んだ
・オオトシノカミがカヨヒメを娶って生んだ子は、オオカグヤマトトミノカミである
・次に、ミトシノカミを生んだ
・オオトシノカミがアメチカルミズヒメを娶って生んだ子は、オキツヒコである
・次に、オキツヒメ(オオヘヒメ)を生んだ
・この二柱の神は、人々が祀るカマドノカミ(竈神)である
・次に、オオヤマクイノカミ(ヤマスエノオオヌシカミ)を生んだ
・この神は近江の比叡山に鎮座し、葛の松尾では鳴鏑を神体として鎮座する神である
・次に、ニワツヒコノカミを生んだ
・次に、アスハノカミを生んだ
・次に、ハヒキノカミを生んだ
・次に、カグヤマトミノカミを生んだ
・次に、ハヤマトノカミを生んだ
・次に、ニワタカツヒコノカミを生んだ
・次に、オオツチノカミ(ツチノミオヤカミ)を生んだ
・ハヤマトノカミがオオゲツヒメを娶って生んだ子は、ワカヤマクイノカミである
・次に、ワカトシノカミを生んだ
・次に、妹のワカサナメノカミを生んだ
・次に、ミズマキノカミを生んだ
・次に、ナツタカツヒカミ(ナツノメノカミ)を生んだ
・次に、アキヒメノカミを生んだ
・次に、ククトシノカミを生んだ
・次に、ククキワカムロツネノカミを生んだ
葦原中国平定
アメノホヒとアメノワカヒコ
・アマテラスは「この豊かな葦原中国は我が子のオシホミミが統治するべきだ」と言って、オシホミミに統治を命じた
・オシホミミはアメノウキハシから天降ろうとしたが、葦原中国が酷く騒がしかったため、引き返してアマテラスに相談した
・アマテラスはタカミムスビと共に天安河に諸神を集めた
・そこで、オモイカネに中心に葦原中国の乱暴な国津神を鎮める方策を考えさせた
・神議の結果、オモイカネらは「アメノホヒを派遣するのが良いだろう」という結論を出した
・そして、アメノホヒが葦原中国に天降ったが、直ぐにオオクニヌシに媚び諂って三年経っても高天原に報告しなかった
・アマテラスとタカミムスビは再び諸神を集めて神議を開き、葦原中国を鎮める神を決めることにした
・その際、オモイカネが「アマツクニタマの子のアメノワカヒコを派遣するのが良いだろう」と提案した
・そこで、アメノワカヒコにアマノマカコユミ(弓)とアマノハハヤ(矢)を授けて、葦原中国に派遣した
・しかし、アメノワカヒコは直ぐにオオクニヌシの娘のシタテルヒメを娶った
・また、出雲を我が物にしようと企んで、八年経っても高天原に報告しなかった
・アマテラスとタカミムスビ(高木神)は、アメノワカヒコが出雲から帰ってこないため、その理由を聞く方法を諸神に問うた
・神議の結果、オモイカネらは「キジのナキメを派遣して聞いて来させよう」という結論を出した
・アマテラスはナキメを召して「国津神の説得の命じたアメノワカヒコが八年経っても報告しない理由」を問うように命じた
・キジのナキメが高天原から天降ると、アメノワカヒコの宮の門前のカツラの木に留まった
・そして、天津神らから預かった言葉を事細かに伝えると、それを聞いていたアメノサグメがアメノワカヒコに伝えた
・すると、アメノワカヒコは「この鳥の鳴声は不吉であるから、射殺してしまおう」と言い、天津神から賜った弓矢を放った
・その矢はナキメの胸を射抜いても更に飛び続け、やがては天安河の高木神(タカミムスビ)の元まで飛んで行った
・高木神とは、タカミムスビの別名である
・高木神(タカミムスビ)が飛んで来た矢を見ると、その羽に血が付いているのを見つけた
・また、その矢がアメノワカヒコを派遣する際に預けた矢と同じ物であることに気付き、諸神にも見せてまわった
・そこで、高木神(タカミムスビ)はその矢を取って誓約(こうであれば、こうなるというマジナイ)をした
・「もし、アメノワカヒコが背いておらず、この矢を射ったのが他の悪神であれば、アメノワカヒコには当たらないだろう」
・「だが、アメノワカヒコが邪な心を持っているのならば、アメノワカヒコは この矢に当たって死ぬであろう」
・そして、矢が飛んで来た穴から矢を突き返すと、寝ているアメノワカヒコの胸に当たって絶命させた
・また、葦原中国に派遣したキジのナキメも帰ってこなかった
・これ故、今の諺にいう「雉の頓使い(キギシノヒタヅカイ)」とは、この故事が起源になっている
アヂスキタカヒコネ
・アメノワカヒコの妻のシタテルヒメが夫の死を泣き悲しめば、その泣き声が風に乗って高天原まで届いた
・そこで、高天原に居たアメノワカヒコの父のアマツクニタマと その妻子が葦原中国にに降りて嘆き悲しんだ
・そして、そこに喪屋を造り、アメノワカヒコの葬儀を行うことにした
・まず、川雁(カワカリ)に食物を運ぶ役とした
・次に、鷺(サギ)に掃除をする役とした
・次に、翡翠(カワセミ)に神の供物を用意する役とした
・次に、雀(スズメ)に碓(ウス)を舂(つ)く役とした
・そして、雉(キジ)を泣き女とした
・このように葬儀の準備を為せば、八日八夜の間 食べて踊り、死者を弔った
・アメノワカヒコの葬儀には、オオクニヌシの子であるアヂスキタカヒコネもやってきた
・すると、アメノワカヒコの父のアマツクニタマは泣きながら「私の子は死んでいなかった」と言った
・また、アメノワカヒコの妻のシタテルヒメも泣きながら「私の夫は死んでいなかった」と言った
・そして、二人がアヂスキタカヒコネの手足に縋って嘆き悲しんだ
・このようになったの理由は、アヂスキタカヒコネがアメノワカヒコとよく似ていたからである
・これに対し、アヂスキタカヒコネは激怒して「親友の弔問に来た私を、どうして穢れた死者と間違えるのか」と言った
・そして、帯びていた十拳剣を抜いて、喪屋を叩き壊して、さらに足で蹴飛ばした
・この蹴飛ばされた喪屋は、美濃国の藍見河の河上にある"喪山"になった
・また、喪屋を叩き壊した剣をオオハカリノツルギ、またカムドノツルギという
・そして、アヂスキタカヒコネが飛び去ると、妹のタカヒメ(シタテルヒメ)が名を明かす歌を歌った
・「天の機織姫が首に懸けている玉飾りの大きい玉のような御方、谷二つを一度に渡るのがアヂスキタカヒコネの神です」
・なお、この歌は夷振(ひなぶり)である
タケミカヅチとコトシロヌシ
・アマテラスは神議を開き、次に派遣すべき神について問うた
・すると、オモイカネと諸神はこのように提案した
・「天安河の河上の天岩戸に居るイツノオハバリ(アメノオハバリ)を派遣するべきでしょう」
・「もし、イツノオハバリが行かないのであれば、その子のタケミカヅチを派遣するのが良いでしょう」
・「なお、アメノオハバリは天安河の水を堰き止めて道を塞いでいますので、アメノカクを派遣して頼んでみましょう」
・こうした経緯からアメノカクがアメノオハバリの元に向って、天降るように頼んだ
・アメノオハバリはアマテラスに従うことが承諾したが、この任に就くべきはタケミカヅチが向いていると答えた
・こうしてタケミカヅチが天降ることに決まると、アマテラスはアメノトリフネを副えて天降らせた
・アメノトリフネとタケミカヅチは、出雲のイザサノハマに降り立った
・タケミカヅチは十拳剣を抜いて逆さに海に立て、その切っ先に胡坐(あぐら)をかいてオオクニヌシに問いかけた
・「私はアマテラスと高木神(タカミムスビ)の命によって天降った」
・「我々は、お前が神領とする葦原中国はアマテラスの子のオシホミミが統治すべき国であると考えている」
・「お前はどう考えているのだ?」
・オオクニヌシは このように答えた
・「この件について、私は返答することはできない」
・「よって、我が子のコトシロヌシ(ヤエコトシロヌシ)が答えるであろう」
・「コトシロヌシは鳥狩りか魚釣りをしてまだ帰ってきていないが、きっとミホノミサキに行っているのだろう」
・オオクニヌシの答えを聞いたタケミカヅチは、アメノトリフネを遣わしてコトシロヌシを探しだした
・そして、呼びだして国譲りを迫ると、コトシロヌシは父のオオクニヌシにこのように言った
・「ああ恐ろしい、この葦原中国は天津神の御子に譲りましょう」
・すると、コトシロヌシは船を踏んで傾け、アマノサカテを打って船を青柴垣に変えると、その中に籠ってしまった
・タケミカヅチがオオクニヌシに他に意見を言う者が居るか問うと、オオクニヌシはタケミナカタが居ると答えた
・すると、話し合っている場にチビキノイワを担いだタケミナカタが現れて、このように言った
・「私の国で、密かに話し合って国を奪おうとする者は誰だ?」
・「話し合いより、力比べをして決めれば良いではないか、私が先にその手を掴んでやろう」
・このように言った後、タケミナカタはタケミカヅチの手を取った
・すると、直ちにタケミカヅチの手がツララのようになり、また剣の刃のように鋭くなった
・これに驚いたタケミナカタが退くと、タケミカヅチが今度は自分の番だと言ってタケミナカタの手を取った
・そして、若い葦を取るが如く掴み取って投げてしまったので、タケミナカタは恐れを為して逃げ去った
・逃げるタケミタカタをタケミカヅチが追っていくと、遂に信濃の諏訪の海にまで到り、そこで追い詰められた
・タケミカヅチがタケミナカタを殺そうとすると、タケミナカタは降参し、このように命乞いをした
・「恐れいった、私を殺さないでくれ、そうすれば此地から他所に出ないと約束しよう」
・「また、父のオオクニヌシや、兄弟のコトシロヌシの言うとおり、葦原中国を天津神の御子に献上しよう」
オオクニヌシの国譲り
・タケミナカタを従わせたタケミカヅチは、出雲に帰って来た
・そして、オオクニヌシに このように問うた
・「お前の子のコトシロヌシとタケミナカタは天津神の御子に従うと言った」
・「お前はどう考えているのだ?」
・すると、オオクニヌシはこのように答えた
・「我が子らの決定に背くつもりはない、よって、この葦原中国は天津神の御子に譲ろう」
・「ただし、我が住所も天津神の御子の座す御殿の如く、地底に太い柱を立て、大空に届くほどの御殿を立てて頂こう」
・「そうすれば、私はモモタラズヤソクマデに隠居することにしよう」
・「なお、我が子らの百八十神(オオクニヌシの子ら)はコトシロヌシに従うため、背く者は居ないであろう」
・オオクニヌシの条件を飲んだ天津神は、出雲のタギシの浜にアメノミアラカ(オオクニヌシの宮殿)を建てた
・その際、ミナトノカミの孫のクシヤタマが膳夫となり、御饗のために鵜(ウ)となって、海底に潜って波邇(ハニ)を咥えて出てきた
・まず、その波邇でアメノヤソビラカ(平たい土器)を作った
・次に、海藻の茎を刈ってヒキリウスを作った
・次に、海蓴(コモ)の茎を刈ってヒキリキネを作った
・そして、火を熾して このように言った
・「今、私が熾した火は、高天原のカミムスビのトダルアメノニヒス(新宮)にススが垂れ下がるまで炊き上げましょう」
・「また、ソコツイワネ(地下の岩石)に届くまで焼き凝らしましょう」
・「そして、海女が長い縄を延ばして釣った大きなスズキをサラサラと引きあげ、机が撓(たわ)むまで魚を献じましょう」
・その後、タケミカヅチは高天原に帰り、葦原中国をコトムケヤワス(説得した)旨を報告した
ニニギの命
ニニギの誕生
・葦原中国の平定を以って、アマテラスと高木神(タカミムスビ)はオシホミミに統治するように命じた
・このとき、オシホミミは天降る身支度をしている間に子が生まれたことを報告した
・その子の名は、アメニキシクニニキシアマツヒコヒコホノニニギ(ニニギ)という
・そして、この子こそ葦原中国を統治するのに相応しいと勧めた
・なお、オシホミミは高木神(タカミムスビ)の娘のヨロズハタトヨアキツシヒメ(タクハタチヂヒメ)と結婚した
・その間に生まれたのが、アメノホアカリであり、次にヒコホノニニギ(ニニギ)である
・アマテラスとタカミムスビはオシホミミの提案を受け入れて、ニニギに葦原中国を統治させることに決めた
・そして、ニニギに葦原中国を統治するように言い渡し、葦原中国に天降るように命じた
サルタヒコ
・ニニギが葦原中国に降臨する際、アメノヤチマタ(道の辻)に"上は高天原を照らし、下は葦原中国を照らす神"が居た
・そこで、アマテラスと高木神(タカミムスビ)はアメノウズメを召して、このように命じた
・「お前は か弱い女人であるが、イムカフカミ(サルタヒコ)と向かい合っても気後れしないであろう」
・「故に、お前が行って"我が御子(ニニギ)が天降る道に居るのは誰だ?"と問うのだ」
・アメノウズメが言うとおりにすると、その神は このように答えた
・「僕(やつかれ)は国津神で、名はサルタヒコと言う」
・「ここに居る理由は、天津神の御子が天降ると聞いた故、その先導をしようと待っていたのだ」
天孫降臨
・ニニギが降臨する際、アメノコヤネ、フトダマ、アメノウズメ、イシコリドメ、タマノオヤの五伴緒を副えて降臨させた
・また、これにヤサカニノマガタマ、鏡(ヤタノカガミ)、クサナギノツルギも添えた
・また、常世のオモイカネ、タヂカラオ、アメノイワトワケも副えた
・そして、アマテラスは このように言って聞かせた
・「この鏡は私の御魂であるが故、私を拝むが如く斎(いつ)き奉(たてまつ)りなさい」
・「次に、オモイカネは祭祀を司り、政(まつりごと)を為しなさい」
・このため、二柱の神が サククシロ、イスズノミヤ(伊勢内宮)に丁寧に祀られている
・次にトヨウケノカミ、この神は外宮(伊勢外宮)のワタライに鎮座する神である
・次にアメノイワトワケ(クシイワマド・トヨイワマド)、この神は御門の神である
・次にタヂカラオ、この神はサナナガタ(佐那神社)に鎮座する
・(ニニギの五伴緒は、これらの氏の祖である)
・アメノコヤネは、中臣連(ナカトミノムラジ)らの祖である
・フトダマは、忌部首(インベノオビト)らの祖である
・アメノウズメは、猿女君(サルメノキミ)らの祖である
・イシコリドメは、作鏡連(カガミツクリノムラジ)らの祖である
・タマノオヤは、玉祖連(タマノオヤノムラジ)らの祖である
・こうしてアマツヒコホノニニギ(ニニギ)は詔を受けて、アメノイワクラ(天石位)を離れることになったのである
・その際、アメノヤエタナクモ(雲)をイツノチワキチワキテ(かき分け)、アメノウキハシからウキシマを望んだ
・そして、筑紫の日向の高千穂のクシフルダケに降臨した
・また、御伴のアメノオシヒとアマツクメの二人は、アメノイハユキ(天石靫)を背負い、カブツチノタチ(太刀)を帯びていた
・そして、アメノハジユミ(弓)とアメノマカゴヤ(矢)を持って、御前に立って仕え奉った
・なお、アメノオシヒは大伴連(オオトモノムラジ)らの祖である
・また、アマツクメは久米直(クメノアタイ)らの祖である
・高千穂に天降ったニニギは、このように詔(みことのり)した
・「この地は韓国(からくに)と向かい合っており、カササノミサキ(笠沙の御崎)にも真直ぐ通っている」
・「また、朝日が真直ぐ刺す国であり、夕日が照らす国でもある故に、この地はとても良い土地である」
・これ故に地底に太い柱を立て、大空に聳えるほど壮大な御殿を立てて鎮座した
サルタヒコとアメノウズメ
・(天孫降臨の後)
・ニニギはアメノウズメに このように言った
・「私の前に立って先導したサルタヒコは、その名を明かした汝(アメノウズメ)が送ってやりなさい」
・「また、汝はサルタヒコの名を名乗って仕え奉るがよい」
・これを以って猿女君(アメノウズメ)らは男神のサルタヒコの名を名乗るようになった
・これが女でも猿女君(サルメノキミ)と呼ぶ由縁である
・サルタヒコはアザカに居るときに漁をしていた
・すると、ヒラブガイに手を挟まれ、海に沈んで溺れてしまった
・なお、海の底に居た時の名を、ソコドクミタマという
・また、海の水が泡立った時の名を、ツブタツミタマという
・また、その泡が弾けた時の名を、アワサクミタマという
・アメノウズメはサルタヒコを送った後に帰って来た
・そのとき、尾の広い魚や狭い魚などの諸魚を集めて このように問うた
・「お前たちは、天津神の御子(ニニギ)に仕えるか?」
・すると、ほとんどの魚が仕えると答えたが、ナマコだけが答えなかった
・そのため、アメノウズメはナマコに対して「この口が答えぬ口か」と言い、小刀で口を裂いてしまった
・これ故にナマコの口は今でも裂けているのである
・また、これを以って御世ごとに志摩国から魚類が宮に献上される際は、猿女君に命令が下されるようになった
コノハナサクヤビメ
・ニニギは笠沙の御崎にて美女と出会った
・ニニギは その美女に素性を尋ねると、オオヤマヅミの娘のカムアタツヒメ(コノハナサクヤビメ)と答えた
・ニニギは その兄弟について尋ねると、姉にイワナガヒメが居ると答えた
・ニニギは 詔を以って求婚したが、コノハナサクヤビメは自分では決めらないため、父のオオヤマヅミが答えると言った
・これ故、ニニギはオオヤマヅミに使者を派遣し、コノハナサクヤビメを乞う旨を伝えた
・すると、オオヤマヅミは大変喜んで、コノハナサクヤビメに姉のイワナガヒメを副え、沢山の品を持たせて献上した
・しかし、姉のイワナガヒメはひどく醜かったため、その姿を恐れてすぐに返してしまった
・そのため、妹のコノハナサクヤビメのみを留めて、一夜の契りを結んだ
・ニニギがイワナガヒメを返したことで大変恥じて、このように言った
・「私が娘を二人並べて送ったことには理由がある」
・「もし、イワナガヒメが仕えれば、天津神の御子(ニニギ)は雪が降ろうと風が吹こうと石の如く動かずに鎮座できるだろう」
・「また、コノハナサクヤビメが仕えれば、木の花が栄える如く繁栄するように誓約をして進上したのである」
・「しかし、このようにイワナガヒメを返して、コノハナサクヤヒメだけを留めてしまった」
・「そのため、天津神の御子の寿命は木の花のように儚いものになってしまうだろう」
・故に、これを以って天皇の寿命は長くなくなってしまったのである
・この後、コノハナサクヤビメはニニギの元に訪れて このように言った
・「妻(コノハナサクヤビメ)は妊娠し、既に出産する時期を迎えました」
・「ですが、天津神の御子(ニニギの子)は私的に産んではならないと思い、こうしてやってきました」
・すると、ニニギは このように言った
・「コノハナサクヤビメよ、一夜にして妊ずる(臨月に至る)とはどういうことだ」
・「これは私の子では無く、国津神の子ではないのか」
・これに対し、コノハナサクヤビメは このように言った
・「私が身籠った子が国津神の子であるならば、きっと無事に産むことはできないでしょう」
・「ですが、天津神の御子ならば、きっと無事に産むことができるでしょう」
・このように誓約をした後、すぐに戸の無い八尋殿を造って その中に籠り、戸を土で塗り固めてしまった
・そして、産気づいた時に屋内に火を放って、その中で出産に臨んだ
・火が燃え盛るときに産まれた子はホデリと言い、これは隼人阿多君(ハヤト)の祖である
・次に産まれた子は、ホスセリと言う
・次に産まれた子は、ホオリ(アマツヒコヒコホホデミ)と言う
ホオリの命
海幸彦と山幸彦
・ホデリはウミサチビコとなって魚を捕り、ホオリはヤマサチビコとなって獣を獲っていた
・弟のホオリは兄のホデリに各々のサチ(道具)を交換しようと持ちかけたが、兄は承諾しなかった
・そこで、三度も頼み込んだが なお許されず、やっとのことで交換が成立した
・弟は海のサチを以って釣りをしてみたが全く釣れなかった
・その上、兄から借りた鉤(釣り針)をも無くしてしまった
・兄は釣り針を要求して このように言った
・「山の幸を得るにはヤマサチビコが山のサチを、海の幸を得るには私が海のサチを使う方が良い」
・「故に交換したサチを元に戻そう」
・すると、弟が このように言った
・「汝の釣り針で釣りをしたのですが一匹も釣れず、その上 海中に失ってしまいました」
・それを聞いた兄は返せと激しく要求した
・そこで、弟は十拳剣を壊して500個の鉤を造って償ったが、兄は受け取らなかった
・今度は、1000個の鉤を造って償ったが これも受け取らず、元の釣り針を返せと譲らなかった
海神宮訪問
・弟は浜辺で泣いていた
・すると、シオツチがやってきて このように言った
・「どうして、ソラツヒコ(天津神)が泣いているのでしょうか?」
・これに、弟は答えて言った
・「私は兄と鉤(サチ)を交換したときに、兄の鉤を無くしてしまったのだ」
・「そこで兄が鉤を返せと要求するため、多くの鉤を造って償った」
・「しかし、それを受け取らず、なお元の鉤を返せと言うので、困って泣いているのだ」
・それを聞いたシオツチは弟のために妙案を考えだした
・まず、マナシカツマ(隙間の無い)の小船を造った
・そして、それに弟を乗せて このように教えた
・「今から私が この船を押し流しますので、しばらくそのままで居てください」
・「良い海流に乗れば、魚麟のような造りをした宮殿が見えてきます、それはワダツミ(海神)の宮です」
・「その神の御門に到れば、傍の井戸の上にユツカツラの木が見えるので、そこに登って座っていて下さい」
・「そうすれば、きっと海神の娘が取り計らってくれるでしょう」
・ヤマサチビコ(弟)がシオツチに教えられた通りに進むと、やがて言葉通りの光景が見えてきた
・それ故、そこにあったユツカツラの木に登って座った
・すると、海神の娘のトヨタマビメの侍女が、玉器を以って井戸水を汲もうとやってきた
・そして、井戸水を掬おうとした時に井戸に光が見えたので、見上げてみると美しい男が居るのが見えた
・そのため、侍女が不思議に思って見ていると、ヤマサチビコは水が欲しいと要求した
・侍女は直ちに玉器で水を汲んでヤマサチビコに差し出した
・ヤマサチビコは飲まずに自らが身に付けていた首飾りの珠を解いて口に含み、玉器に吐き入れた
・すると、その珠が玉器にくっ付いてしまい、侍女が取り離そうとしても離れなくなった
・そのため、珠が付いたままでトヨタマビメに進上した
・トヨタマビメは その珠を見て、侍女に外に誰か居るのか問うた
・すると、侍女はこのように答えた
・「井戸の傍のユツカツラの木の上に人が居ります」
・「とても麗しい男性で、我が王にも益して貴く見える御方です」
・「その御方が水を欲したので、玉器に入れて差し出したところ、飲まずに この珠を吐き入れました」
・「この珠は取り離そうとしても離れないので、このようにそのまま差し出したのです」
・その話を聞いたトヨタマビメは、興味を抱いて宮から出て見に行った
・すると、ヤマサチビコを見ると一目惚れしてしまい、早速 父の元へ行き、宮の門に麗しい人が居ると告げた
・それを聞いた海神は自ら外に出て確認すると、「あれは、アマツヒコの御子のソラツヒコである」と言った
・そこで、すぐに宮に招き入れ、美智(アシカ)の皮を八重に敷き、さらに八重に敷いて その上にヤマサチビコを座らせた
・そして、沢山の品物を差し出して御饗(酒宴)を開き、すぐに娘のトヨタマビメと婚姻を結ばせた
・そのため、ヤマサチビコは以後、三年に至るまで海神の国で暮らした
・その後、ヤマサチビコは当初の目的を思い出し、大きな溜息をついた
・すると、それを見ていた妻のトヨタマビメが心配し、父(海神)に このように相談した
・「夫のヤマサチビコは三年ここに住んでいますが、今まで溜息をつくことはありませんでした」
・「しかし、今夜 大きな溜息をついているのを見てしまいました、何か理由があるのでしょうか?」
・それを聞いた父は、ヤマサチビコに直接問うた
・「我が娘の話によれば、"この三年の間 溜息をつくこともなかったのに、今夜は大きな溜息をついていた"と聞きました」
・「これには理由があるのではないですか、そもそもここに来た理由は何だったのですか?」
・すると、ヤマサチビコは"兄の釣り針を無くしたことから責められている"という事の次第を説明した
・ヤマサチビコの話を聞いた海神は海の大小無数の魚を悉く集めて、"無くした鉤"の在処について問うた
・すると、魚たちは このように言った
・「近頃、赤鯛が喉に骨が刺さって物が食べられないと悩んでいるようです」
・「そのため、この赤鯛が取ったのではないでしょうか?」
・そこで、赤鯛を召して喉を探ると、"無くした鉤"が有ったので、すぐに洗い清めてホオリ(ヤマサチビコ)に献上した
・また、鉤を返す際にワダツミオオカミが このように教えた
・「この鉤を兄に返す際、"この鉤は、オボチ・ススチ・マヂチ・ウルチ"と唱えて、後手に渡しなさい」
・「また、兄が高い所に田を作れば、貴方は低い所に田を作りなさい」
・「また、兄が低い所に田を作れば、貴方は高い所に田を作りなさい」
・「そうすれば私が水を操って、三年の間に必ず兄に貧窮を味わわせてやりましょう」
・「そのとき、兄が貧窮を理由に貴方を恨んだならば、このシオミツタマを使って溺れさせてやりなさい」
・「そして、助けを求めたならば、このシオフルタマを使って助けてやりなさい」
・「このようにして、兄を苦しめてやるのです」
・ワダツミオオカミは、このように教えた後にシオミツタマとシオフルタマの両方をヤマサチビコに授けた
・そして、すぐにワニ(和爾魚)らを召し集めて このように命じた
・「今からアマツヒコの御子のソラツヒコが上の国に帰ろうとしている」
・「各々が何日で行って帰って来られるか答えよ」
・すると、その中のヒトヒロワニが「僕(やつかれ)なら、一日で行って帰って来られます」と言った
・それを聞いたワダツミは、ヒトヒロワニに このように言った
・「ならば お前が送り届けてやるがよい」
・「ただし、海中を渡るときに恐ろしい思いをさせてはならないぞ」
・ワダツミはヒトヒロワニに命じると、ヤマサチビコをワニの首に乗せて送りだした
・そして、ヒトヒロワニは宣言通りに一日の内に戻ってきた
・なお、ヤマサチビコは そのワニを帰らせる時に帯びていた紐小刀を解き、そのワニの首に掛けて返した
・故に、そのワニを今はサヒモチノカミと呼んでいる
ホデリの服従
・地上に帰ったヤマサチビコは、海神に教わった通りにして鉤を返した
・そのため、それ以後は段々と兄は貧しくなっていき、以前に増して荒々しい態度で迫るようになった
・故に、攻めてくるときはシオミツタマを以って溺れさせ、救いを求めればシオフルタマで救ってやった
・悩み苦しんだ兄のウミサチビコは、このように言って服従を誓った
・「僕(やつかれ)はこれより以後、ヤマサチビコの昼夜の守護人となって仕えましょう」
・故にウミサチビコ(ホデリ)の子孫(隼人)は、今でも溺れた様を演じて仕えているのである
ウガヤフキアエズの誕生
・海神の娘のトヨタマビメは、自ら地上に上がって来て このように言った
・「私は身籠っており、今 出産する時期を迎えました」
・「天津神の御子は海原で産むわけにはいきません、ですから こうしてやって来たのです」
・すると、すぐに海辺の渚に鵜(ウ)の羽を葺草の如く屋根に葺いた産屋を建て始めた
・しかし、トヨタマビメは産屋が出来あがる前に産気づいてしまい、そのまま産屋に入ってしまった
・トヨタマビメはホオリ(ヤマサチビコ)に対し、このように言った
・「すべての他国の者は、出産のときに本国の姿形になって産みます」
・「故に、私も本来の姿となって産もうと思いますが、決して覗こうとはしないでください」
・それを聞いたホオリは怪しく思い、その出産時の姿をそっと覗いてみた
・すると、トヨタマビメはヤヒロワニに化けて蛇のように身をくねらせていた
・ホオリは驚いて、恐れて その場から逃げだすと、姿を見られたことに気付いたトヨタマビメは大変恥じた
・そのため、トヨタマビメは御子を生んだ後に このように言った
・「私は最初は、海の道を通って往来しようと思っていました」
・「しかし、本当の姿を見られてしまっては恥ずかしくて顔向けできません」
・そして、すぐに海坂を塞いで海神の国へ帰ってしまった
・なお、その御子の名はアマツヒコヒコナギサタケウガヤフキアエズ(ウガヤフキアエズ※)という
・(※産屋に鵜の羽を葺き終える前に産まれたことに由来する)
・その後、トヨタマビメはホオリを恨む気持ちがあったものの、恋しい心も抱いていた
・故にウガヤフキアエズを養育するという理由で、妹のタマヨリヒメに歌を添えて地上に送った
・その歌は このような内容である
・「赤い玉は緒までも光りますが、白玉のような君の姿は貴いことです」
・すると、ホオリも答えて歌った
・「水鳥の鴨が降り着く島で、契りを結んだ妻のことは忘れられない、世の終わりまでも」
・このヒコホホデミ(ホオリ)は高千穂宮に580年座していた
・その御陵は高千穂の山の西にある
・アマツヒコヒコナギサタケウガヤフキアエズ(ウガヤフキアエズ)は叔母のタマヨリヒメを娶って御子を儲けた
・最初に生んだ御子は、イツセという
・次に生んだ御子は、イナヒという
・この御子は、母の国の海原に入って行った
・次に生んだ御子は、ミケヌという
・この御子は、海を越えて常世国に座している
・最後に生んだ御子は、ワカミケヌ(トヨミケヌ・カムヤマトイワレビコ)という
※この後は「神武東征」に続く
後書
参考文献
・古事記(ウィキペディア)
・古事記(ウィキソース)
・古事記(青空文庫)
・日本神話・神社まとめ
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・『日本書紀』による日本神話
・『古語拾遺』による日本神話
・『旧事紀』による日本神話
・神武東征
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「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。
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