人文研究見聞録:『旧事紀』による日本神話(地祇本紀)

このページでは、『旧事紀』の「地祇本紀」の現代語訳を紹介しています。

史書の概要などについては「『旧事紀』による日本神話」のページを参照してください


前書

目的・留意点

はじめに、この記事に関する目的と留意点をまとめておきます。

・この記事は、『旧事紀』に記される「日本神話」の内容の理解を目的としています
・原文を現代語で理解できるようにするために、原文を現代語に訳して箇条書きで表記しています
・他書との比較のため、神名はカタカナで表記しており、また「~のみこと」「~のかみ」などの尊称を省略しています
・非常に長い神名の場合、読みやすくするために半角スペースを開けている場合があります
・原文に沿った翻訳を心がけていますが、他の訳文と異なる場合があります(現代語訳の一つと思ってください)
・()で囲んだ神名は、その神の別名とされるものです(複数ある場合は「、」で区切っています)
・()で囲んだ文章は原文には無いものですが、内容を理解しやすいように敢えて書き加えています
・サブタイトルについては独自に名付けたものであり、原文にはありません
・旧事紀はテーマ別に記されており、他書と違って時系列順になっていない部分があります
・当サイトで扱う現代語訳は「日本神話」の部分のみであり、天皇の御代は扱っておりません


地祇本紀

スサノオの新羅降臨

スサノオアマテラスと共に誓約をして三柱の女神を儲けた
 ・その三女神は、オキツヒマヒメ、タギツシマヒメ、イチキシマヒメという
・その後、スサノオは天上で酷い行いをした
 ・その結果、八十万の諸神は千座の置戸の罰を科して、スサノオを追放した
スサノオは、子のイタケルを率いて新羅のソシモリに天降った
 ・しかし、スサノオは不満に思って「この地には居たくない」と言った


ヤマタノオロチ

・そこで、土の船を造り、それに乗って東に渡った
 ・そして、出雲国のヒノカワの河上、また安芸国のエノカワの河上にある鳥上の峰に到った
 ・スサノオが、出雲国のヒノカワの河上の鳥髪というところまでやってくると、川の上流から箸が流れてきた
 ・そのため、川の上流には人が住んでいると思って訪ねて行くと、やがて泣き声が聞こえてきた
 ・そこで、泣き声の主を探して行くと、翁(おきな)と媼(おうな)が間に一人の少女を置いて泣いているのを見つけた
スサノオは、その者たちに素性と泣いている理由を尋ねた
 ・すると、翁が このように答えた
  ・「私は国津神のアシナヅチといい、妻はテナヅチといいます」
  ・「また、この童女は私の子でクシナダヒメといいます」
  ・「以前、私たちには八人の娘が居ましたが、コシのヤマタノオロチが毎年 襲って来て、娘を食ってしまいました」
  ・「この残った娘は今から呑まれてしまうでしょう、それで悲しんで泣いているのです」
 ・スサノオが大蛇の姿について尋ねると、アシナヅチが このように答えた
  ・「オロチには一つの胴体に八つの頭と尾があり、それが分かれて付いています」
  ・「また、その目は アカホオズキのようです」
  ・「また、その体は 蔓、松、柏、杉、檜が背中に生え、その長さは八つの谷と八つの山に亘っております」
  ・「また、その腹は いつも一面に血が滲んでただれています」
 ・それを聞いたスサノオは、このように問うた
  ・「お前は、その娘を私に献じる気はあるか?」
 ・すると、アシナヅチは畏れて このように申し上げた
  ・「恐れ入りますが、私は貴方の名前を存じておりません」
 ・スサノオは このように答えた
  ・「私はアマテラスの弟であり、今 天から降りてきたところである」
 ・それを聞いたアシナヅチは このように答えた
  ・「仰せのままに致しましょう」
  ・「ですが、まずは あの大蛇を倒してから召されるのが良いでしょう」
・(こうして、スサノオヤマタノオロチを退治することになった)
 ・スサノオは忽ちクシナダヒメをユツツマクシへと変えて、ミズラに挿した
 ・また、アシナヅチテナヅチに よく醸した酒と八つの甕を用意させた
 ・また、さらに垣を造り廻らせて、その垣に八つの門と八つの桟敷を造らせた
・こうして準備をして待っていると、やがてヤマタノオロチが八つの丘と八つの谷の間を這って姿を現した
 ・そこで、スサノオヤマタノオロチに こう言った
  ・「あなたは恐れ多い神である」
  ・「そこで この酒を以って持て成して差し上げよう」
 ・ヤマタノオロチは、八つの頭のそれぞれで八つの甕の酒を飲み、酔って眠り伏せてしまった
 ・そこで、スサノオは腰の帯びていたトツカノツルギを抜いて、ヤマタノオロチをずたずたに斬り裂いた
 ・すると、八つに斬られた大蛇は、それぞれが雷となって天に昇って行った
  ・これは神威の甚だしいものである
 ・こうして大蛇を倒すと、ヒノカワの水は赤い血となって流れた
 ・また、大蛇の緒を斬った時に剣の先が少し欠けたので、その尾を裂いてみると中に一つの剣があった
  ・その剣の名をアマノムラクモノツルギという
  ・これは大蛇の上に常に雲が沸き立っていたことから名付けられた
 ・スサノオアマノムラクモノツルギを取ると このように言った
  ・「これは不思議な剣であるため、私の私物にすることにはできまい」
 ・そして、後に五世孫のアマノフキネを遣わして天上に献上した
  ・なお、後にヤマトタケルが東征した時に扱われ、そのときにクサナギノツルギと名付けられた
  ・今は、尾張国のアユチノムラにあり、熱田神社で神として祀られている
  ・また、ヤマタノオロチを斬った剣は吉備の神部のところにあるという
  ・また、一説には大蛇を斬った剣の名をオロチノアラマサといい、今は石上神宮にあるという


スサノオの妻子

スサノオは結婚するのに良い土地を探して廻り、遂に出雲の清(すが)の地に辿り着いた
 ・また、須賀須賀斯(すがすがしい)ともいう
 ・そして、スサノオは「私の心は清々しい」と言って、その土地に御殿を建てた
 ・このとき、その地から盛んに雲が立ち昇ったので、スサノオは このような御歌を作った
  ・「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣は
 ・そして、クシナダヒメと結婚して后とし、そこで子を儲けた
 ・その子の名はオオナムチといい、他にも様々な別名がある
  ・またの名を、ヤシマシヌミという
  ・またの名を、オオクニヌシという
  ・またの名を、スガノユヤマヌシミナサロヒコヤシマシノという
  ・またの名を、スガノカケナサカカルヒコヤシマデという
  ・またの名を、スガノユヤマヌシミナサロヒコヤシマヌという
 ・その後、スサノオは宮の首長をアシナヅチテナヅチに定め、この二神にイナダノミヤヌシという名を与えた
  ・出雲国に居る神が これである
 ・また、スサノオはオオヤマツミの娘のカムオオイチヒメを娶って二柱の神を生んだ
  ・まず、オオトシを生んだ
  ・次に、ウカノミタマを生んだ
 ・また、スサノオは このように言った
  ・「韓国の島には金銀がある」
  ・「もし、我が子が治める国に船が無かったら良くないだろう」
 ・(そして、自らの身体の毛を抜いて、様々な木を生みだした)
  ・まず、髭を抜いて放つと、松の木になった
  ・次に、胸毛を抜いて放つと、檜の木になった
  ・次に、眉毛を抜いて放つと、樟の木になった
  ・次に、尻毛を抜いて放つと、槙の木になった
 ・すると、スサノオは この木々の用途について このように言った
  ・「まず、杉と樟を使って木船を造ると良いだろう」
  ・「また、檜は宮殿を造るための木にするが良い」
  ・「また、槙は現世の人民の寝棺を造るのに使うと良い」
  ・「そのために沢山の木の種子を皆で蒔くのだ」
 ・この後、スサノオクマナリノミネに到り、遂に根の国に入って行った
・また、イタケルスサノオと共に天降る際、沢山の樹の種や、子らの食糧となるの種を、韓国に植えずに全て持ち帰った
 ・そして、筑紫から始めて大八州の国中に蒔いて増やしたので、この国に青山にならない所は無かった
  ・このため、イタケルの神は有功の神とされた
  ・なお、紀伊国に鎮座している大神がこれである
  ・一説によれば、スサノオの子の名はイソタケルといい、妹にオオヤヒメツマツヒメが居るという
  ・この三神は沢山の種を蒔いて紀伊国に渡ったため、この国に神として祀られているという


スクナヒコナ

オオナムチが国を平定した後のこと
 ・オオナムチが出雲国のミホノミサキに行って食事をしようとすると、海上から俄かに人の声がした
 ・そこで驚いて辺りを探したが、見当たる者が全く無かった
・すると、波の上からカガミノフネに乗った一人の小人がやって来た
 ・その小人はガガイモの皮で船を造り、ミソサザイの羽を衣とし、またガの皮を剥いで衣服としていた
 ・そして、やがて潮水に揺られながら漂い、やがてオオナムチの元まで辿り着いた
・そこで、オオナムチ小人を拾って手のひらに乗せて弄んでいると、跳ねて頬に噛みついてきた
 ・すると、オオナムチは小人の姿形を怪しんで名を尋ねたが、小人は答えようとしなかった
 ・また、周りの伴神に尋ねても誰も知っている者が居なかった
 ・そのとき、ヒキガエルのタニググが このように申し上げた
  ・「きっと、クエビコなら知っているでしょう」
 ・そこで、オオナムチクエビコを呼んで尋ねると、このように答えた
  ・「これはカミムスヒの御子のスクナヒコナです」
 ・それを聞いたオオナムチは これを天神に伝えると、カミムスヒが このように答えた
  ・「私が生んだ子は併せて千五百ほど居る」
  ・「その中の一人に最も悪く教えに従わない子が居たが、その子は指の間から漏れ落ちてしまった」
  ・「汝の言う者はきっとその子であろう」
  ・「よって、アシハラシコオ(オオナムチ)の兄弟として可愛がってくれ」
 ・これがスクナヒコナである
  ・なお、スクナヒコナを名を申し上げたクエビコは、今では山田のソホドという神となっている
  ・また、クエビコは自ら赴くことはないが、天下のことを悉く知っている神であった
・これ以来、オオナムチスクナヒコナは、力と心を一つにして天下を造っていった
 ・また、現世の人民と家畜のために、病気治療の方法を定めた
 ・また、鳥獣や昆虫による災いを除くために、マジナイの方法を定めた
 ・このため、人民は今に到るまで その恩恵を受けている
 ・ある時、オオナムチスクナヒコナに このように問うた
  ・「我々が造った国は完成したと言えるだろうか?」
 ・すると、スクナヒコナが このように答えた
  ・「よく出来ている所もあれば、未だに不出来な所もある」
  ・思うに、この会話の内容には深い理由があるのだろう
 ・その後、スクナヒコナは熊野の御崎に行って、遂に常世の国に去った
  ・また、淡島に行って粟茎によじのぼり、弾かれて常世の郷に行ったとも云われる


大三輪の大神

オオナムチは最初はスクナヒコナと二柱で葦原中国に居た
 ・そのとき、国はクラゲのように浮き漂っていたが、遂に二柱で国を造って名付け終えた
スクナヒコナが常世に行った後、オオナムチは国中の出来あがっていない所を一人で巡って造り上げた
 ・そして、それを成し遂げたオオナムチは出雲国のイタササの小浜に到って このようにコトアゲをした
  ・「そもそも葦原中国は広大であったが、荒れたところであった」
  ・「また、そこの岩石から草木に至るまで全てが強かった」
  ・「だが、私が それらを悉く砕き伏せたため、今は従わない者は居ない」
  ・「今、この国を治める者は、ただ 私一人である」
  ・「そんな私と共に天下を治める者が他に居ようものか」
 ・すると、不思議な光が海を照らして忽然と波の上に躍り出て、白装束にアマノズイヤリという姿で現れた
 ・そして、その光る者オオナムチに対して このように言った
  ・「もし、私が居なければ、お前はどうやって国を平定することができただろうか」
  ・「もし、私が居なければ、お前はどうやって国を造り固めることができ、大きな国を造る功績を立てられただろうか」
 ・そこで、オオナムチは その光る者の素性を尋ねると、その者は このように答えた
  ・「私はお前のサキミタマ・クシミタマ・ジュツミタマの神である」
 ・それを聞いたオオナムチは、このように尋ねた
  ・「そうですか、貴方は私のサキミタマ・クシミタマの神なのですね」
  ・「では、貴方は何処に住みたいと思っていますか?」
 ・すると、その神は このように答えた
  ・「私は日本国の青垣の三諸山に住みたいと思う」
  ・この神が、大倭国の城上郡に鎮座する神である
 ・オオナムチは神の願うままに青垣の三諸山に祀り、そこに宮を造って住まわせた
 ・これがオオミワノカミである
  ・なお、この神の子孫は、カモノキミ、オオミワノキミらである
・その後、オオナムチはアマノハグルマである大鷲に乗って妻となる人を探し求めた
 ・そこで、チヌノアガタに降って、オオスエツミの娘のイクタマヨリヒメを妻にして通うようになった
 ・人知れず通っていると、やがてイクタマヨリヒメは身籠った
 ・そのとき、イクタマヨリヒメの父母は怪しんで、誰が通っているのだと問うた
 ・すると、イクタマヨリヒメは このように答えた
  ・「不思議な姿の人が家の上から降りて来るので、床を一緒にするだけです」
 ・それを聞いた父母は、神人の正体を明かそうと思った
 ・そこで、麻を紡いで糸を作り、それを針に付け、その針を神人の衣の裾に付けた
 ・その翌朝、延びた糸を辿って先へ進んで行くと、鍵穴を越え、茅渟山を経て、吉野山に入り、遂に三諸山にて止まった
 ・故に、その神人三輪山の大神であることが分かった
 ・なお、その糸の残りを見ると、ただ三つの輪だけが残っていた
  ・そこで、三諸山を三輪山と名付けて、そこの神社を大三輪神社という


稲羽の素菟

オオナムチには、兄のコトヤソガミが居た
 ・兄のヤソガミが、弟のオオナムチに国を譲った理由は、この兄弟二神が稲羽のヤガミヒメに求婚しようと思ったことに始まる
 ・そこで共に稲羽に出かけた時、ヤソガミオオナムチに袋を背負わせて従者のように連れて行った
・その道すがら、気多の岬を通りかかった時に丸裸になった兎が横たわっていた
 ・すると、それを兄のヤソガミが見つけ、兎に対して このように教えた
  ・「その身体の傷を治したければ、海水を浴びて、風に当たり、高い山の上で寝ると良い」
 ・はヤソガミの教え通りにして、山の上で横になっていた
 ・すると、浴びた海水が乾くにつれて皮膚が裂けていき、ますます痛みが酷くなった
 ・そのため、が苦しんで泣いていると、後からやってきたオオナムチが兎に泣いている理由を尋ねた
 ・(そこで、兎は事の次第を悉く話し始めた)
  ・「私は沖ノ島に居た兎で、予てより この地に渡りたいと思っていましたが、渡る方法がありませんでした」
  ・「そこで海のワニを騙して、このように提案しました」
  ・「"お前と私、どちらの同族が多いか数え比べてみようと思う"」
  ・「"そのため、お前はすべての同族を集めて、この島から気多の岬まで一列に並ばせてくれ"」
  ・「"そうすれば、私はお前たちを踏み越えて数を数えて行くことにしよう"」
  ・「すると、ワニは提案を受け入れて、私の言うとおりに並んだので、私は その上を踏み越えて渡りました」
  ・「ですが、私が地上に降り立とうとした時に口が滑って"お前たちは私に騙されたのだよ"と言ってしまいました」
  ・「そこで一番端に伏せていたワニが私を捕らえて、私の着物をすっかり剥ぎ取ってしまったのです」
  ・「そのために泣き悲しんでいたところ、先に到着したヤソガミは"海水を浴びて風に当たって寝よ"と教えてくれました」
  ・「故に、その教えの通りすると、このように全身が傷だらけになってしまったのです」
 ・これを聞いたオオナムチは、に このように教えた
  ・「今すぐ河口に行って真水で身体を洗い、その河口の蒲の穂を取って敷き散らし、その上で寝ていなさい」
  ・「そうすれば、お前の身体は元の皮膚のように治るだろう」
 ・がその教えの通りにすると、身体は元通りに治った
  ・このを今、稲羽の素菟(しろうさぎ)といい、今の兎神がこれである
 ・このとき、オオナムチに このように言った
  ・「ヤソガミは きっとヤガミヒメを娶ることはできないでしょう」
  ・「例え袋を背負っていても、ヤガミヒメを娶るのは貴方様です」
 ・この後、ヤソガミに求婚されたヤガミヒメは このように答えた
  ・「私は貴方ではなく、オオナムチと結婚します」


ヤソガミの迫害

ヤガミヒメの答えを聞いたコトヤソガミは、オオナムチを殺してやろうと思った
 ・そこで、皆で相談して伯耆国のタムキヤマの麓にオオナムチを呼びだし、このように言った
  ・「この山には赤い猪がいるという」
  ・「そこで、我らが一斉に負い降ろすので、お前は下で待ち受けて捕らえよ」
  ・「もし、そうしなければ、きっとお前を殺してやる」
 ・この後、ヤソガミは猪に似た大石に火を点けて焼き、それを麓に落した
 ・オオナムチは それを捕らえようとして抱き付くと、その火に焼かれて死んでしまった
オオナムチの死を知った御親神は、泣き憂いて天上のカミムスヒに救いを乞うた
 ・すると、カミムスヒクロガイヒメウムガイヒメを遣わして、オオナムチを蘇生させた
  ・この際、クロガイヒメは貝殻を削って集め、ウムガイヒメは それを乳汁として塗ると、オオナムチは立派に蘇ったのである
・その後、コトヤソガミは再びオオナムチを欺いて山へ連れ込んだ
 ・そこで、大木を伐って楔を打ち込み、その割れ目にオオナムチを入らせた
 ・そして、楔を引き抜いてオオナムチを打ち殺してしまった
・それを知った御親神は、泣きながらオオナムチを探した
 ・そしてオオナムチを見つけ出した時に、直ちに その木を折って遺骸を取り出し、後に復活させた
 ・そこで、御親神オオナムチに このように言った
  ・「お前は此処にいたら、やがてヤソガミに滅ぼされてしまうだろう」
 ・すると、すぐに紀国のオオヤヒコの元にオオナムチを送った
 ・ところが、ヤソガミオオナムチを追ってオオヤヒコの元に到り、オオナムチを矢で射殺そうとした
 ・そこで、オオヤヒコオオナムチを木の股から逃がして、このように教えた
  ・「お前は、ハヤスサノオが居る根之堅州国に行きなさい」
  ・「そうすれば、その大神が良く図ってくれるであろう」


オオナムチの根の国訪問

オオナムチオオヤヒコの教えの通りに、スサノオの元を尋ねた
 ・すると、その娘のスセリヒメが現れて、オオナムチと目を見交わすと すぐに結婚した
 ・そして、スセリヒメは御殿に戻って、スサノオに このように告げた
  ・「とても素敵な神が居ります」
 ・それを聞いたスサノオは、外に出てオオナムチを見て こういった
  ・「あれはアシハラシコオという神だ」
・そして、オオナムチを御殿に招くと、蛇のいる部屋に寝させた
 ・このとき、妻のスセリヒメは、"蛇の比礼"を夫のオオナムチに授けて このように教えた
  ・「もし、蛇が噛みつこうとしたら、この比礼を三度降って打ち祓ってください」
 ・そこで、その教えの通りにすると蛇は自然に鎮まったので、安らかに眠って部屋を出た
・その翌日の夜、オオナムチは今度はムカデとハチの居る部屋に寝かせられることになった
 ・すると、スセリヒメ"ムカデとハチの比礼"を授けて、昨日と同様に教えた
 ・そのため、オオナムチは無事に部屋から出ることが出来た
・今度は、オオナムチスサノオに野に呼び出され、広い野の中に撃ちこまれた鏑矢を取ってくるように命じられた
 ・そこで、オオナムチが野に入って探し始めると、スサノオは直ちに火を放って野を焼き始めた
 ・オオナムチが火から逃れられずに困っていると、そこにネズミが現れて こう言った
  ・「内は ほろほろ、外は すふすふ」
 ・そこで、オオナムチが地面を踏むと、穴が空いて その下に落ち込んだ
 ・そのため、その間に火をやり過ごして難を逃れた
 ・すると、そのは鏑矢を咥えて来てオオナムチに献上した
  ・なお、その矢の羽はネズミの子供が皆 食いちぎっていた
 ・一方、スセリヒメオオナムチは死んだと思い、泣きながら葬儀の道具を持って野に出て行った
 ・そこで、生還したオオナムチが出てきて鏑矢をスサノオに献上した
・その後、スサノオオオナムチを御殿の大広間に呼び入れて、頭の虱を取らせた
 ・オオナムチスサノオの頭を見ると、沢山のムカデが這っているのが見えた
 ・このとき、スセリヒメは椋の実と赤土を取り、オオナムチに渡した
 ・そこで、オオナムチは木の実を噛み割り、赤土を口に含んで吐き出した
 ・すると、スサノオは頭のムカデを噛み殺してくれていると思い、心の中で可愛い奴だと思って眠ってしまった
スサノオが眠ると、オオナムチスサノオの髪を部屋の垂木に結び付け、イホビキイワを部屋の戸口に据えて塞いだ
 ・そして、スセリヒメを背負って、スサノオの神宝である イクタチ(太刀)、イクユミヤ(弓矢)、アメノオリゴト(琴)を持って逃げ出した
 ・そのとき、アメノオリゴトが樹に触れて、大地が鳴り響く様な音が轟いた
 ・そのため、その轟音を聞いてスサノオが目を覚ますと、その髪が引っ張られて部屋を引き倒してしまった
 ・そこで、スサノオが垂木に結び付けた髪を解いている間に、オオナムチは遠くへと逃げて行った
スサノオオオナムチを追いかけて黄泉比良坂に到ると、そこから遥か遠くにオオナムチスセリヒメが見えた
 ・そこで、それを見たスサノオは大声でオオナムチに呼びかけた
  ・「お前が持っているイクタチイクユミヤで、お前の兄を坂の裾に追い伏せ、また川の瀬に追い払うがよい」
  ・「そこで、お前はオオクニヌシの神となり、またウツクシクニの神となり、我が娘のスセリヒメを正妻とせよ」
  ・「そして、宇迦の山の麓の地中に太い宮柱を立て、空高く千木の聳える宮殿を築いて住むがよい、こやつめ」
オオナムチスサノオの言った通りにヤソガミを追い払って国造りを始めた
 ・また、ヤガミヒメオオナムチの元に連れて来られたが、本妻のスセリヒメを恐れて生んだ子を木の股に挟んで帰った
  ・そのため、そのヤガミヒメの産んだ子をキマタノカミといい、またの名をミイノカミという
 ・また、オオナムチは越国のヌナカワヒメに求婚しようと出掛け、ヌナカワヒメの家の前で歌って求婚した云々
  ・そこで盃を交わし、互いの首に手を掛けあって今は鎮まっている
  ・これを神語(かむがたり)という


スサノオの子孫

スサノオアマテラスとの誓約で三柱の女神を儲けた
 ・まず、タゴリヒメ(オキツシマヒメ)を生んだ
  ・この神は、宗像社の奥津宮に鎮座している
  ・また、遠い沖の島にいる神である
 ・次に、イチキシマヒメ(サヨリヒメ、ナカツシマヒメ)を生んだ
  ・この神は、宗像社の中津宮に鎮座している
  ・また、中間の島にいる神である
 ・次に、タギツシマヒメ(タギツヒメ、ヘツシマヒメ)を生んだ
  ・この神は、宗像社の辺津宮に鎮座している
  ・また、浜辺にいる神である
 ・以上の三柱の女神アマテラスが生んだが、スサノオの子して授けられて葦原中国に天降らされた
 ・筑紫国の宇佐嶋に天降り、北の海の道中にあることから、その名をミチナカムチともいう
 ・この三女神は、天孫を助け、天孫のために祀られるように教えられ、宗像君が祭祀を司っている
  ・また、水沼君も この三神を祀っているという
 ・これが、宗像君が斎祀る三前(みさき)の大神である
スサノオの他の子は、次のとおりである
 ・まず、イタケル(オオヤヒコ)である
 ・次に、オオヤヒメである
 ・次に、ツマツヒメである
  ・上記の三柱の神は紀伊国に鎮座しており、紀伊国造が斎祀る神である
 ・次に、コトヤソカミである
 ・次に、オオナムチである
  ・この神は、倭国城上郡の大三輪神社に鎮座している
 ・次に、スセリヒメである
  ・大三輪大神の嫡后である
 ・次に、オオドシである
 ・次に、イネクラノミタマ(ウガノミタマ)である
 ・次に、カツラギヒトコトヌシである
  ・この神は、倭国葛木上郡に鎮座している


オオナムチの子孫

スサノオの子のオオナムチには八つの名がある
 ・まず、オオクニヌシという
 ・次に、オオモノヌシという
 ・次に、クニツクリシオオナムヂという
 ・次に、オオクニタマという
 ・次に、ウツシミクニタマという
 ・次に、アシハラシコオという
 ・次に、ヤチホコという
・このオオナムチには併せて百八十一柱の子神がいる
・まず、宗像の奥津島に鎮座するタゴリヒメを娶り、一男一女を儲けた
 ・まず、アヂスキタカヒコネが生まれた
  ・この神は、倭国葛木郡の高鴨社(捨篠社)に鎮座している
 ・次に、シタテルヒメが生まれた
  ・この神は、倭国葛木郡の雲櫛社に鎮座している
・次に、宗像社の辺津宮に鎮座するタカツヒメ(タギツヒメ)を娶り、一男一女を儲けた
 ・まず、ツミハヤエコトシロヌシを生んだ
  ・この神は、倭国高市郡の高市社(甘南備飛鳥社)に鎮座している
 ・次に、タカテルヒメノオオカミを生んだ
  ・この神は、倭国葛木郡の御歳社に鎮座している
・次に、稲羽のヤガミヒメを娶り、一人の子を儲けた
 ・その神を、ミイノカミ(コマタノカミ)という
・次に、越国のヌナカワヒメを娶り、一男を儲けた
 ・その神を、タケミナカタという
  ・この神は、信濃国諏訪郡の諏訪社に鎮座している


コトシロヌシの子孫

ツミハヤエコトシロヌシは、スサノオの孫に当たる
ツミハヤエコトシロヌシヤヒロクマワニとなってミシマノミゾクイの娘のイクタマヨリヒメを娶り、一男一女を儲けた
 ・まず、アマヒカタクシヒカタを儲けた
  ・この命は、神武朝の御代に詔を受け、政を行う大夫となって仕えた
 ・次に、ヒメタタライスズヒメを儲けた
  ・この命は、神武朝に皇后となって二人の皇子を生んだ
  ・すなわち、カムヌナカワミミ(綏靖天皇)と、ヒコヤイミミのことである
・三世孫は、アメノヒカタクシヒカタ(アタツクシネ)である
 ・この命は、日向のカムトミラヒメを娶り、一男一女を儲けた
  ・まず、タケイイカチを生んだ
  ・次に、ヌナソコヒメを生んだ
 ・ヌナソコヒメ安寧天皇の皇后となり、四人の皇子を生んだ
  ・まず、オオヤマトネコヒコスキトモノスメラミコト(懿徳天皇)を生んだ
  ・次に、トコツヒコを生んだ
  ・次に、シキツヒコを生んだ
  ・次に、タキシヒコトモセを生んだ
・四世孫は、タケイイカツである
 ・この命は、出雲臣の娘のサマナヒメを娶り、一男を儲けた
・五世孫は、タケミカジリ(タケミカツチ、タケミカノオ)である
 ・この命は、伊勢の幡主の娘のガカイロヒメを娶り、一男を儲けた
・六世孫は、トヨミケヌシ(タケミカヨリ)である
 ・この命は、紀伊国のナクサヒメを娶り、一男を儲けた
・七世孫は、オオミケヌシである
 ・この命は、大和国のタミイソヒメを娶り、二男を儲けた
・八世孫は、アタガタス、タケイイガタスである
 ・アタガタスは、ワニノキミらの祖である
 ・タケイイガタスは、鴨部のミラヒメを娶り、一男を儲けた
・九世孫は、オオタタネコ(オオタダネコ)である
 ・この命は、出雲の神門臣の娘のミケヒメを娶り、一男を儲けた
・十世孫は、オオミケモチである
 ・この命は、出雲国のクラヤマツミヒメを娶り、三男を儲けた
・十一世孫は、オオカモツミ、オオトモヌシ、タタヒコである
 ・オオカモツミは、崇神朝の御代に賀茂君の姓を賜った
 ・オオトモヌシは、崇神朝の御代に大神君の姓を賜った
 ・タタヒコは、崇神朝の御代に神部直・大神部直の姓を賜った


オオドシの子孫

スサノオの子のオオドシには、併せて十六柱の子神が居る
・まず、スヌマヒの娘のイヌヒメを娶り、五柱の子を儲けた
 ・まず、オオクニミタマを生んだ
  ・この神は、オオヤマトノカミである
 ・次に、カラカミを生んだ
 ・次に、ソホリノカミを生んだ
 ・次に、シラヒノカミを生んだ
 ・次に、ヒジリノカミを生んだ
・次に、ガヨヒメを娶り、二児を儲けた
 ・まず、オオカヤマトノカミを生んだ
 ・次に、ミトシノカミを生んだ
・次に、アマノチカルミヅヒメを娶り、九児を儲けた
 ・まず、オキツヒコを生んだ
 ・次に、オキツヒメを生んだ
  ・上記の二神は、皆が祀る竈の神である
 ・次に、オオヤマクイノカミを生んだ
  ・この神は、近江の比叡山に鎮座している
  ・また、葛野郡の松尾に鎮座して、鏑矢を持っている神である
 ・次に、ニワツヒノカミを生んだ
 ・次に、アスハノカミを生んだ
 ・次に、ハヒキノカミを生んだ
 ・次に、カヤマトノカミを生んだ
 ・次に、ハヤマトノカミを生んだ
  ・この神には、併せて八柱の御子がいる
 ・次に、ニワタカツヒノカミを生んだ
 ・次に、オオツチノカミ(ツチノミオヤノカミ)を生んだ
・次に、オオゲツヒメを娶り、八柱を儲けた
 ・まず、ワカヤマクイノカミを生んだ
 ・次に、ワタトシノカミを生んだ
 ・次に、妹のワカサナメを生んだ
 ・次に、ミヅマキノカミを生んだ
 ・次に、ナツタカツヒノカミ(ナツノメカミ)を生んだ
 ・次に、アキヒメノカミを生んだ
 ・次に、フユトシノカミを生んだ
 ・次に、ククキワカムロカヅラネノカミを生んだ


後書

参考文献

先代旧事本紀(ウィキペディア)
天璽瑞宝(現代語訳「先代旧事本紀」)
『先代旧事本紀』の現代語訳(HISASHI)


関連項目

日本神話のススメ(記紀神話の解説とまとめ)
『古事記』による日本神話
『日本書紀』による日本神話
『古語拾遺』による日本神話
神武東征