人文研究見聞録:伏見稲荷大社 [京都府]

京都市伏見区にある伏見稲荷大社(ふしみいなりたいしゃ)です。

奈良時代初頭に創建された稲荷神社であり、全国に3万社あるといわれる稲荷神社の総本社となっています。

また、日本三大稲荷の筆頭であり、京都の代表的な観光スポットとしても非常に有名な神社です。

そのため、最近では外国人観光客も数多く見られます。


神社概要

由緒

人文研究見聞録:伏見稲荷大社 [京都府]

社記によれば、元明天皇の御代である和銅4年(711年)2月初午の日、深草の長者・秦伊呂具(はたのいろぐ、伊侶巨秦公)が勅命によって三柱の神(宇迦之御魂大神・佐田彦大神・大宮能売大神)を伊奈利山の三ヶ峰に祀ったのに始まり、その年は五穀が大いに実り、蚕織なって天下の百姓は豊かな福を得たと伝えられているそうです。

また、『山城国風土記』逸文には、伊奈利社(伏見稲荷)の創建について以下の様に記されています。

秦中家忌寸(はたのなかつへのいみき)達の遠い先祖である伊侶巨秦公(いろこのはたのきみ)は、稲を多く積む富裕な一族であり、餅を的にして遊んでいると、その餅が白鳥に化成して山の峯に飛び去り、そこにはたくさんの稲が実った。

伊侶巨秦公は先の過ちを悔いて社の木を抜き、家に植えて祀った。今、その木を植えて咲けば福を得て、その木を植えて枯れれば福は無いと云われる。

上記のことから、渡来系氏族である秦氏ゆかりの神社であると考えられており、また『稲荷社神主家大西(秦)氏系図」』には秦伊呂具が賀茂建角身命24世賀茂県主の末子(天神系の賀茂氏の子孫)とされることから、賀茂氏とも関係していると云われています。

また、「稲荷」の由来については『山城国風土記』にある「餅を用ちて的と為ししかば、白き鳥と化成りて飛び翔りて山の峯に居り、伊禰奈利(いねなり)生ひき」に端を発するとされ、この「稲生り(いねなり)」が転じて「イナリ」となり、「稲荷」の字があてられたと云われています(ただし、この他にも諸説ある)。

祭神

伏見稲荷の祭神は以下の通りです。

主祭神

・宇迦之御魂大神(ウカノミタマ):スサノオとカムヤオオイチヒメの間に生まれた神とされる
 → 全国の大半の稲荷神社の主祭神として祀られている神
 → 倉稲魂命、宇賀御霊神、天倉稲魂命、若倉稲姫魂命などと表記される場合もある

配神

・佐田彦大神(サタヒコ):通説では猿田彦命と同神とされている
・大宮能売大神(オオミヤノメ):大宮女命とも書かれ、天宇受女命の別名とする説がある
・田中大神(たなかのおおかみ):大己貴神と同神とする説がある
・四大神(しのおおかみ):五十猛命・大家姫・柧津姫・事八十神とする説がある(一柱とする説もある)

※「稲荷大神(稲荷五社大明神)」という神名は、これらの神々の総称であるとされる

秦氏とは?

人文研究見聞録:伏見稲荷大社 [京都府]

『記紀』によれば、秦氏(はたうじ)は第15代応神天皇の時代に127県を率いて百済から渡来してきた弓月君(融通王)を始祖とする氏族であり、そのまま帰化して多くの技術や産業をもたらしたとされています。なお、『新撰姓氏録』よれば、弓月君は秦の始皇帝3世孫、孝武王の後裔であるとされています。

また、『日本書紀』によれば、第21代雄略天皇の時代に秦氏を統率した秦酒公(さけのきみ)は、朝廷に「うず高く積んだ絹」を献上し、その功によって「禹豆麻佐(うつまさ)」の姓を与えられたとされ、秦氏の本拠とされる「太秦(うずまさ)」という地名はこれに由来していると云われています(ちなみに「太秦」は京都の他、大阪の寝屋川市にも存在しています)。

さらに、第29代欽明天皇は夢の中で「秦大津父(はたのおほつち)を大事にすれば、成人して天下を治められるでしょう」という神託を受け、すぐに使者を派遣して探させたところ、山城国紀郡深草里(現・伏見区)で秦大津父を見つけ出し、その素性を尋ねると「伊勢での商いの帰り、山で争う二頭の狼を見つけたため、その争いを諌め、傷を洗って山へ帰した」と答えたことから、その人格を認めて傍に仕えさせ、即位した後に大蔵省に任命したとされます。

この秦大津父と伏見稲荷を創建した秦伊呂具との直接的な関係は不明とされますが、同じ秦姓であり、深草里(伏見区)を本拠としているところなどから、伏見稲荷では秦大津父の説話を創祀の前史として捉えているようです。

詳しくはこちらの記事を参照:【秦氏とは?】

稲荷神社について

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祐徳稲荷神社(日本三大稲荷)
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玉造稲荷神社(元稲荷の一)
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稲荷命婦元宮

伏見稲荷は全国に約3万社あるといわれている稲荷神社の総本社であるとされ、大半の稲荷神社は伏見稲荷から勧請された稲荷大神(または稲荷三神の主神であるウカノミタマ)を祀っています。

ただし、全国には伏見稲荷(711年)よりも古い起源を持つ稲荷神社(元稲荷と称する神社など)も存在し、その多くが豊宇気毘売神(トヨウケビメ)保食神(ウケモチ)を主祭神としている傾向が高いようです(個人研究)。

また、余談ですが、伏見稲荷の前身として京都の船岡山にある稲荷命婦元宮(義照稲荷神社)が伏見稲荷の創建前に秦氏によって信仰されてきた稲荷神社であるという説があります。

詳しくはこちらの記事を参照:【稲荷神とは?】【稲荷信仰とは?】

周辺の見どころ

大鳥居

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伏見稲荷の大鳥居です。

狐像

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人文研究見聞録:伏見稲荷大社 [京都府]
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伏見稲荷の狐像です。

境内の至る所に多種多様の狐像が奉納されており、まさに「きつねづくし」といった光景になっています。

本社付近をはじめ、稲荷山全域に点在しているため、コレクションしてみると面白いかもしれません。

狐がくわえているものについてはこちらの記事を参照:【狐がくわえている物とは?】

楼門

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伏見稲荷の楼門です。

天正17年(1589年)に豊臣秀吉によって造営されたものであり、重要文化財に指定されています。

外拝殿(舞殿)

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伏見稲荷の外拝殿です。

内拝殿

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伏見稲荷の内拝殿です。

本殿

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伏見稲荷の本殿です。

応仁の乱で焼失した後、明応8年(1499年)に再建されたものであり、重要文化財に指定されています。

千本鳥居

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伏見稲荷の一番の見どころとされている千本鳥居です。

江戸時代より、願事が「通」という願掛け、また「通った」というお礼の意味から、鳥居を奉納する習慣が始まったとされており、現在までに一万本以上の鳥居が奉納されているんだそうです。

また、「千本鳥居」と呼ばれているものの、奉納された鳥居の約半数が通れるサイズの鳥居であると云われており、通れる鳥居は確実に千本以上存在しています。

奥社奉拝所(奥の院)

人文研究見聞録:伏見稲荷大社 [京都府]

伏見稲荷の奥社奉拝所です。

千本鳥居を抜けた命婦谷にあり、通称「奥の院」と呼ばれています。

きつね絵馬

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伏見稲荷のきつね絵馬です。

狐の顔を模した形になっているため、様々なマンガ・アニメキャラクターの顔が描かれており、伏見稲荷の新たな見どころの一つとして注目を集めています。

なお、先細った絵馬独特の形から、福本漫画(カイジ・アカギなど)のキャラクターとの相性が良いようです。

鳥居形の絵馬

人文研究見聞録:伏見稲荷大社 [京都府]

伏見稲荷の鳥居形の絵馬です。

おもかる石

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伏見稲荷のおもかる石です。

願い事をして持ち上げた時、石が予想していたより軽ければ願いが叶い、重ければその願いは叶わないと云われています。

稲荷山

人文研究見聞録:伏見稲荷大社 [京都府]

伏見稲荷の稲荷山です。

山上には多数の鳥居が奉納されており、多くの塚や境内社も鎮座しています。

また、頂上から望む京都の風景にも人気があり、伏見稲荷の見どころの一つとなっています。

ただし、時間と体力をかなり消耗するため、予め下準備をしてから登ることをお薦めします。

境内社

人文研究見聞録:伏見稲荷大社 [京都府]
玉山稲荷社

伏見稲荷には、麓の本社付近から山上に至るまで、多数の境内社があります。

詳しくはこちらの記事を参照:【伏見稲荷の境内社】

七神蹟地

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二ノ峰(中之社神蹟)

稲荷山には、神蹟(しんせき)と呼ばれる場所があります。

神蹟とは、かつて神を祀る祠があった場所とされ、廃絶後、神蹟と称したとされています。

七神蹟地は、明治期に定められた以下の7つの神蹟地を指すとされているようです。

・一ノ峰(上之社神蹟):末広大神を祀る
・二ノ峰(中之社神蹟):青木大神を祀る
・三ノ峰(下之社神蹟):白菊大神を祀る
・荒神峰(田中社神蹟):権太夫大神を祀る
・間ノ峰(荷田社神蹟):伊勢大神を祀る
・御膳谷遙拝所:往古に三ヶ峰に神供をした所と伝えられている
・釼石(長者社神蹟):社殿の後ろに御神体の磐座・剱石があり、長者社には加茂玉依姫(かもたまよりひめ)を祀る

関連情報

伏見名物

人文研究見聞録:伏見稲荷大社 [京都府]

伏見名物には「雀(スズメ)の丸焼き」「鶉(ウズラ)の丸焼き」があり、伏見稲荷の周辺で販売されています。

なお、スズメは1本500円で、ウズラは1本800円です。

ぬらりひょんの孫

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伏見稲荷は少年ジャンプで連載されていた「ぬらりひょんの孫」にも登場しており、作中では陰陽師が京都妖怪を封印した場所の一つである「伏目稲荷神社」として描かれています(「千本鳥居」や「おもかる石」なども登場する)。

いなり、こんこん、恋いろは。

人文研究見聞録:いなり、こんこん、恋いろは。

2014年に放送されたアニメに「いなり、こんこん、恋いろは。」という作品があります。

これは京都の伏見を舞台にしたラブコメディなのですが、作中に登場する「伊奈里神社」は伏見稲荷そのままであり、主要な登場人物として描かれる神々は、伏見稲荷で祀られる神々をモチーフにしているため、その系譜や関係性が非常に分かりやすく描かれている作品となっています(ただし、オリジナルの設定もあります)。

そのため、伏見稲荷の概要を知るのに非常に適している作品としてオススメします。

公式サイト:http://inarikonkon.jp/

関連記事:伏見稲荷大社京都の神社仏閣

料金: 参拝無料
住所: 京都府京都市伏見区深草藪之内町68
営業: 終日開放(社務所 7:00~18:00)、無休
交通: JR稲荷駅(駅前)、伏見稲荷駅(徒歩5分)

公式サイト: http://inari.jp/
matapon
著者: matapon Twitter
「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。