人文研究見聞録:龗神神社(翠生苑本部) [奈良県]

奈良県桜井市三輪にある龗神神社です。

岩壺池と呼ばれる湖畔の中に鎮座する神社であり、読み方は不明の社名は、恐らく「おかみのかみじんじゃ」もしくは「りゅうじんじんじゃ」と読むものと思われます。


神社概要

由緒について

当社の由緒は不明であり、一説によれば丹生川上神社下社より勧請を受けた神社であるとされています。

なお、祭神については看板に「日本最古の大神・八大龗王辨財天大神」と書かれています。

このことから、「八大竜王」および「弁財天」を祀っているものと思われます。

また、地元民などの尊崇が篤いとされ、三輪周辺に関する信仰に関連した神社であると思われます。

このように、詳しいことは全く不明です。Googleマップや大神神社の公式サイトにも情報はありません。

そのため、現在は概ね風景を楽しむ観光地として知られているようです。

境内社について

人文研究見聞録:龗神神社(翠生苑本部) [奈良県]
入口手前の社殿
人文研究見聞録:龗神神社(翠生苑本部) [奈良県]
入口付近の社殿

龗神神社の参道には2社ほど境内社らしき社殿が鎮座しています。

なお、これらの社殿と龗神神社および大神神社との関係性は不明です。

生殖器崇拝

人文研究見聞録:龗神神社(翠生苑本部) [奈良県]

龗神神社周辺には多くの仏像が安置されており、その中に男女の性器を模った石も安置されています。

なお、石像の前には供物が供えられていることから、生殖器崇拝として今でも信仰されているものと思われます。

生殖器崇拝は縄文時代から続く古神道との関連性も指摘されている信仰です。

このことから「日本最古の大神」と謳われているように、古代から地域に密着した信仰があったことが窺い知れます。

生殖器崇拝、古神道について詳しくはこちらの記事を参照:【生殖器崇拝とは?】【古神道とは?】

考察

※以下は古い情報ですので、最新記事と見解が異なる可能性があります。小説として読んでいただければ幸いです。

龗神神社の信仰について

人文研究見聞録:龗神神社(翠生苑本部) [奈良県]

龗神神社に関する情報が少なすぎるため、ここからは勝手に推測したいと思います。

まず、鳥居と仏像がセットで安置されており、祭神名も「八大龗王辨財天大神」とされていることから、神仏習合の信仰があることが分かります。

日本における神仏習合は、飛鳥時代末期から奈良時代にかけて始まったものと推察できることから、それぐらいに時期にもともとあった信仰が仏教と習合したと思われます。これは恐らく修験道によるものでしょう。

なお、もともとあった信仰とは、生殖器崇拝の片鱗が見えることから、縄文時代より三輪周辺に存在した原始信仰に由来するものと考えられます。

このことから現在でも古神道の形式を守っている大神神社との関連性が窺えます。

よって、生殖器崇拝が存在していた古代から信仰が存在しており、後に仏教と習合して「八大龗王辨財天大神」を尊崇する信仰となった、と推察できます。

※ 蛇は性器崇拝のトーテムとされることもあるため、八大竜王と性器崇拝には関連性があると考えられます。

龗神神社の祭神について

人文研究見聞録:龗神神社(翠生苑本部) [奈良県]

龗神神社に関する情報が少なすぎるため、ここからは勝手に推測したいと思います。

龗神神社の祭神についてですが、「八大龗王辨財天大神」とあることから「八大竜王」および「弁財天」との関連性が指摘できます。

まず「八大竜王(はちだいりゅうおう)」とは、仏教の天竜八部衆に所属する「竜族の八王」を指し、『法華経』に登場する仏法の守護神であるとされています。

しかし、これはインドにおける蛇神の諸王が仏教に取り込まれたものであり、その源流はインド神話に登場するナーガラージャ(ナーガの王)にあります。

人文研究見聞録:龗神神社(翠生苑本部) [奈良県]
ナーガラージャ
人文研究見聞録:龗神神社(翠生苑本部) [奈良県]
ナーガ族

よって、「」および「」の「」という神格を持つ神が祀られていることが分かります(蛇と龍は同義であり、「龍蛇神」とされることもある)。

次に「弁財天(べんざいてん)」とは七福神の一柱として有名ですが、この神もインド神話に登場する水の女神・サラスヴァティーを源流にするとされています。
人文研究見聞録:龗神神社(翠生苑本部) [奈良県]
弁財天
人文研究見聞録:龗神神社(翠生苑本部) [奈良県]
サラスヴァティー

また、神道においてはスサノオの娘である水の女神・市杵嶋姫命(イチキシマヒメ)と同一として祀られているのが一般的です。しかし、瀬織津姫(セオリツヒメ)という神として祀られることもあります(この神も水神という神格を持つ)。

よって、「水の女神」という神格を持つ神が祀られていることが分かります。

そして、上記の情報を併せると「龍王」の神格と「弁財天」の名を持つ「水の女神」であると考えられ、神道において その性質を持つ神が「市杵嶋姫命(イチキシマヒメ)」もしくは「瀬織津姫(セオリツヒメ)」であることから、この2神のいずれかであると結論付けることができると思います。

ここで終っても良いのですが、さらに入り組んだ推察をすると以下のことが考えられます。

まず、この日本には大神神社にまつわる神話が記される『秀真伝(ホツマツタヱ)』という文献が存在します。この文献は神代文字である「ヲシテ」によって和歌形式(五七調の長歌体)で記されており、『記紀神話』に登場しない神や神話が載せられていることで密かに注目を集めています。

この文献によれば天照大神は「アマテル」という男神であり、その妻として上記の「セオリツヒメ」が登場します。

しかし、『記紀神話』によれば天照大神女神とされており、一般認識とは設定が端から大きく異なります。これについて『ホツマツタヱ』では そうした神名は概ね「世襲名※1」であると記されています。つまり天照大神は称号である可能性があるということです。

では男神の「アマテル」とは誰を指すのでしょうか?これについては檜原神社より元伊勢の歴史を追って行くと分かります。元伊勢は大和国の檜原神社から始まります。これは崇神天皇の時代の歴史を見ても明らかです。

その後、元伊勢は丹後国(京都府北部の丹後半島)に移り、そこには元伊勢・籠神社が存在しています。その神社の祭神名は「彦火明命(ホアカリ)」とされていますが、正式名称は「天照国照彦天火明櫛玉饒速日尊(アマテル クニテル ヒコ アメノホアカリ クシタマ ニギハヤヒ ノ ミコト)※2」とされ、神名に「アマテル」が含まれる男神とされています。

よって、元伊勢で祀られてきた天照大神は『ホツマツタヱ』に登場する男神の「アマテル」であると言えます。なお、『ホツマツタヱ』によれば、「ニギハヤヒ」は「アマテル」から続く君主号を引き継いだ神として記されています。

また、別説ではありますが、古代より大臣職を担ってきた氏族の末裔である73世武内宿禰こと竹内睦泰氏によれば、「ニギハヤヒ」とはスサノオの子である「大年神(オオドシ)」であり、出雲から大和へ遷って三輪山に鎮座したとされ、それが大神神社で祀られている神である、ということなんだそうです。

なお、竹内氏によれば「ニギハヤヒ」の神名である「アマテル」は「海照(あまてる)」であるとされています。

このことから『古事記』における国造りで三輪山に祀られた神が「彼方から海を照らしてやってきた神」とされる謎が解けます。また、その記述の後にすぐ「大年神の系譜」が記される謎も同時に解けます。さらに「大物主」という神名が記されない理由まで解けます。

要するに、『古事記』に記される三輪山に鎮座した国造りの神は「海照(アマテル)」の名を持つ「天照国照彦天火明櫛玉饒速日尊(アマテル クニテル ヒコ アメノホアカリ クシタマ ニギハヤヒ ノ ミコト)」であったというワケです。

そして、大神神社の主祭神といえば「大物主」というのが相場ですが、三輪山山頂に鎮座する高宮社の祭神は「日向御子神(日向王子)」とされています。これは神名から太陽神の神格を持つ神であると推察できます。よって「ニギハヤヒ」の別名であるとも考えられます。

つまり、三輪山に祀られる神は、男神の「アマテル」こと「ニギハヤヒ」であるということです。

また、竹内氏によれば「三輪山の神は蛇体で現れるとされるが、実は龍体である」ということであり、そのことはジブリ映画の「千と千尋の神隠し」に登場する「ハク」に表現されているそうです。

「千と千尋の神隠し」のストーリー上、「ハク」は「白龍」に変身します。そして、最後に名を返してもらった時に「ニギハヤミコハクヌシ」という本名を名乗っています。

人文研究見聞録:龗神神社(翠生苑本部) [奈良県]
ハク(ニギハヤミコハクヌシ)

上記の発言と映画の内容を併せると「ニギハヤヒ」は「白龍」の化身として現れるということになります。また、日本では「龍蛇神」という考え方があり、蛇と龍は同義として捉えられます。

これらのことから、三輪山では「蛇(龍)の殺生が禁止」され、周辺では「白蛇(白龍)が神として祀られている」ということにも合点が行きます。

そして、「アマテル」の妻が「セオリツヒメ※3」とされることから、「八大龗王辨財天大神」こと「龍王」の神格と「水の女神」という性質を併せ持つ「日本最古の大神」とは、「ニギハヤヒ※4(アマテル)」と「セオリツヒメ※5」を指していると結論付けることができるでしょう。

大変長い考察になりましたが、ここまで読んでくれた方に感謝します。ありがとうございました。

【参考資料】

73世武内宿禰インタビュー(Youtube)
ホツマツタエ/ほつまつたゑ/秀真伝 解読ガイド

【注釈】

※1 『ホツマツタヱ』における神々は別名として様々な称号が付与されることが多く、世襲制度もあると記される。また、真名(いみな)も持っている
※2 『旧事紀』におけるニギハヤヒの正式名称で、京都府の籠神社では祭神のホアカリの正式名とされている
※3 『ホツマツタヱ』において、セオリツヒメはアマテルの正妻の意とされる(『記紀』には登場しない)
※4 京都府の籠神社によれば、ホアカリ(ニギハヤヒ)とイチキシマヒメ(俗に弁天さん)は結婚している
※5 兵庫県の井関三神社の祭神に両神が並んで祀られていることが、夫婦神であることの根拠とされる

料金: 無料
住所: 奈良県桜井市茅原342(マップ
営業: 終日開放
交通: 三輪駅(徒歩19分)
matapon
著者: matapon Twitter
「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。