物部神社(大田市) [島根県]
2015/10/19
島根県大田市にある物部神社(もののべじんじゃ)です。
主祭神に古代の軍事氏族である物部氏(もののべし)の氏神・宇摩志麻遅命(ウマシマジ)を祀る神社であり、毎年11月下旬には特殊神事である「鎮魂祭(みたましずめのみまつり)」を行うことで知られています。
なお、この儀式は物部氏の祖神である饒速日命(ニギハヤヒ)が天祖より下された「十種神宝(とくさのかんだから)」を以って行う呪法に由来するとされ、奈良県の石上神宮および新潟県の彌彦神社と並んで有名であるとされています。
また、祭神の宇摩志麻遅命が鶴に乗って石見国に降臨したとも伝えることから、境内には多くの鶴のオブジェが配されており、神社の神紋も「日負鶴(ひおいづる)」という赤い太陽を背負った鶴の紋となっています。
そのほか、境内には数多くの社殿があり、数多くの神々を祀っています。そして、本殿の背後に聳える神体山の八百山(やおやま)には、宇摩志麻遅命を葬ったとされる「御神墓」もあり、なかなか見どころが多い神社となっています。
島根と言えば出雲に鎮座する「出雲大社」で有名ですが、「物部神社」は石見を代表すると言っても過言ではない神社であるため、石見銀山などの観光の折にはぜひ立ち寄って欲しいオススメの神社です。
鎮魂祭について詳しくはこちらの記事を参照:【鎮魂祭と十種神宝】
神社概要
由緒
社伝によれば、大和を治めていた饒速日命(ニギハヤヒ)の御子の宇摩志麻遅命(ウマシマジ)は、神武東征の際に天皇に帰順し、一族を率いて美濃国・越国を平定した後に石見国に留まったとされます。以来、八百山(やおやま)を神体山として崇め奉ったとされ、宇摩志麻遅命が亡くなると八百山の山頂に葬られたと伝えられています。
そして、継体天皇8年(514)に天皇の勅命により、祈祷を専門とする神社として八百山南麓に社殿が創建されましたが、石見銀山争奪などの度重なる兵火によって三度消失したとされています。その後、宝暦三年(1753)に社殿の再建が行われ、文政元年(1818)の修理を経て、安政三年(185年)に宝暦時の規模での改修が行われ、現在に至っているそうです。
なお、現在は県指定文化財に指定され、春日造では全国一の規模であると云われています。
詳しい創建神話についてはこちらの記事を参照:【物部神社の創建神話】
祭神
物部神社の本殿に祀られる祭神は以下の通りです(摂末社祭神については末尾に記載)。
主祭神
・宇摩志麻遅命(ウマシマジ):(石見)物部氏初代とされる
→ 本殿裏の八百山に葬られたとされる
→ 文武両道の神・鎮魂の神・勝運の神として祀られる
相殿神(右座)
・饒速日命(ニギハヤヒ):物部氏の祖神であり、宇摩志麻遅命の父神
・布都霊神(フツノミタマ):所有していた剣の霊神
相殿神(左座)
・天御中主大神(アメノミナカヌシ):天地の祖神
→ 尊称が「大神」とされる
・天照皇大神(アマテラス):皇室の祖神
→ 明治5年に摂社に奉斎され、現在は本社に合祀される
客座(詳しくは不詳とされる)
・別天津神(不詳なれど、便宜上割り当てられている神)
→ 天之御中主神(アメノミナカヌシ)
→ 高御産巣日神(タカミムスビ)
→ 神産巣日神(カミムスビ)
→ 宇麻志阿新訶備比古遅神(ウマシアシカビヒコジ)
→ 天之常立神(アメノトコタチ)
・鎮魂八神
→ 高皇産霊神(タカミムスビ)
→ 神皇産霊神(カミムスビ)
→ 魂留産霊神(タマツメムスビ)
→ 生産霊神(イクムスビ)
→ 足産霊神(タルムスビ)
→ 大宮売神(オオミヤメ)
→ 事代主神(コトシロヌシ)
→ 御食津神(ミケツカミ)
関連社
境内摂社
・後神社(うしろじんじゃ)
→ 祭神:師長姫命(シナガヒメ)
境内末社
・神代七代社(かみよななよのやしろ)
→ 祭神:神世七代の各神を祀る
⇒ 国常立尊(クニノトコタチ)
⇒ 国狭槌尊(クニサヅチ)
⇒ 豊斟渟尊(トヨクンヌ)
⇒ 泥土煮尊(ウイジニ)・砂土煮尊(スイジニ)
⇒ 角杙尊(ツノグイ)・活杙尊(イクグイ)
⇒ 大戸道尊(オオトジ)・大戸辺尊(オオトノベ)
⇒ 面足尊(オモダル)・惶根尊(カシコネ)
⇒ 伊弉諾尊(イザナギ)・伊弉冉尊(イザナミ)
・荒経霊社(あらふつみたましゃ)
→ 祭神:須佐之男尊(スサノオ)
・皇祖四代社(こうそよんだいしゃ)
→ 祭神:皇室の氏神四柱を祀る
⇒ 天忍穂耳尊(アメノオシホミミ)
⇒ 瓊々杵尊(ニニギ)
⇒ 彦火々出見尊(ヒコホホデミ)
⇒ 鵜草葺不合尊(ウガヤフキアエズ)
・須賀見神社(すがみじんじゃ)
→ 祭神:六見宿禰命(むつみのすくねのみこと)
⇒ ウマシマジの3代目の子孫で三見宿禰命(乙見神社祭神)の兄に当たる
・乙見神社(おとみじんじゃ)
→ 祭神:三見宿禰命(みつみのすくねのみこと)
⇒ ウマシマジの3代目の子孫で六見宿禰命(須賀見神社祭神)の弟に当たる
・一瓶社(いっぺいしゃ)
→ 祭神:佐比売山三瓶大明神(さひめやまさんべだいみょうじん)
・柿本神社(かきのもとじんじゃ)
→ 祭神:柿本人麿朝臣(かきのもとひとまろ)
・菅原神社(すがわらじんじゃ)
→ 祭神:菅原道真公(すがわらのみちざね)
・稲荷神社(いなりじんじゃ)
→ 祭神:稲倉魂命(ウカノミタマ)を祀り、他三柱の神を合祀する
⇒ 大穴牟遅命(オオナムヂ):大国主神
⇒ 大年神(オオトシノカミ):宇迦之御魂神(稲荷神)の兄神
⇒ 大地主神(オオトコヌシ)
・粟島神社(あわしまじんじゃ)
→ 祭神:少彦名命(スクナヒコナ)
・八重山神社(やえやまじんじゃ)
→ 祭神:伊邪那美命(イザナミ)、大山祇神(オオヤマヅミ)、若布都主神(ワカフツヌシ)
境外摂社
・漢女神社(からめじんじゃ):物部神社の西方100mに鎮座
→ 祭神:栲幡千々姫命(タクハタチヂヒメ)、市杵島姫命(イチキシマヒメ)、抓津姫命(ツマツヒメ)
・伊夜彦神社(いやひこじんじゃ):物部神社の西方100mに鎮座
→ 祭神:天香具山命(アメノカゴヤマ)
⇒ ウマシマジの異母兄であり、新潟県の彌彦神社に鎮座する(神武東征における高倉下)
境外末社
・郷原若宮神社(ごうばらわかみやじんじゃ):大田市の福寿園手前を静間川沿いに遡った場所
→ 祭神:味饒田命(ウマシニギタ)
⇒ ウマシマジの長子
・中原若宮神社(なかはらわかみやじんじゃ)
→ 祭神:彦湯支命(ヒコユキ)
⇒ 味饒田命の弟に当たる
⇒ 元摂社
・新屋若宮神社(にいやわかみやじんじゃ)
→ 祭神:武諸隅命(物部武諸隅)を祀る。
・川合神社(かわいじんじゃ)
→ 祭神:竹子命(物部竹子連)
⇒ 石見国造であり、子孫は物部神社社家となった
・石上布留神社(いそのかみふるじんじゃ):物部神社の東方600mに鎮座
→ 祭神:十種神宝
・熊野神社(くまのじんじゃ)
→ 祭神:高倉下命(タカクラジ)、少彦名命(スクナヒコナ)
・一宮祖霊社(いわみいっくうそれいしゃ)
→ 祭神:幽冥主宰大神(かくりよしらすおおかみ)、社家累代の祖霊など
⇒ 幽冥主宰大神は国譲り後の大国主の名
境内の見どころ
鳥居
物部神社の鳥居です。
黒みがかった木造の明神鳥居であり、なかなか巨大なものとなっています。
表参道
物部神社の表参道です。
左右に狛犬が配されていますが、その奥には鶴のオブジェも配置されています。
手水舎
物部神社の手水舎です。
変わった形の龍の石像があしらわれ、手前には曲玉形の5つの手水石が埋め込まれています(下記参照)。
また、手水舎の水は境内の神井から湧き出た神水とされています。
この神水は平安期に文徳天皇に献上され、、それを吉兆として元号が「仁寿」と改められたそうです。
なお、古文書には「石見国安濃郡河合郷に甘露降る」とも記されているとされています。
ちなみに、「甘露(かんろ)」とは旧約聖書に登場する「マナ」と同じものであるとも云われています。
手水石(富金石)
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手水鉢に埋め込まれた5つの曲玉形の石は、富金石(ふきんせき)と呼ばれる砂金を含んだ珍しい石とされています。
この5つの珍石に触れると、石が持つ特殊な霊気によって勝運や財運などの御利益が得られるとされています。
なお、5つ曲玉の種類は以下の通りです。
1.浄の曲玉
2.勝の曲玉
3.財の曲玉
4.建の曲玉
5.徳の曲玉
拝殿
物部神社の拝殿です。
細い注連縄で飾られており、幔幕には神紋「日負鶴」があしらわれています。
また、内部には「烏天狗(カラステング)」と「鼻高天狗(ハナタカテング)」の巨大な面が飾られています。
しかし鼻高天狗の顔は白く、いわゆる赤い顔の天狗とは異なるようです。
これはいったい何を表し、何のために飾られているのでしょうか?
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日負鶴
物部神社の神紋は「日負鶴(ひおいづる)」と呼ばれ、ウマシマジが鶴に乗って山に降臨したことに因むとされます。
その山を「鶴降山(つるぶやま)」といい、山頂には今でも国見をしたとされる遺跡が保存されているそうです。
また、この紋は、鶴に乗って勝運を運んできた神に因んで、真っ赤な太陽を背負った鶴を描いていると云われています。
本殿
物部神社の本殿です。
創建より3度焼失して その度に再建され、江戸後期(1856年)に改修されて現在に至るとされています。
なお、春日造では全国一の規模であり、島根県の有形文化財に指定されているそうです。
また、社殿には皇室の紋である菊花紋章があしらわれ、中央には「亀」の木造彫刻が設置されています。
亀の彫刻
物部神社では、この亀についての詳しい説明はされていません。
しかし、畿内を中心とする物部系の神社では、亀の偶像はワリと高確率で見られます。
また、亀甲の象徴とされる「亀甲紋」は出雲大社をはじめ、島根県内および山陰道に属する神社でもよく見られます。
これについての定説はありませんが、個人的には地祇系(国津神)の象徴であると考えています。
ちなみに、物部神社では鶴と亀が併せて配置されています。
これは何だか「かごめかごめ」の童謡を象徴しているようにも思えますね。
これと同様に、大阪府の石切劔箭神社でも鶴と亀が併せて配置されています(亀は御守ですが)。
この2社の共通点として、主祭神にウマシマジ(ウマシマデ)を祀っているという点が挙げられます。
そのため、ウマシマジという神には、何か重要な秘密があるような気がしますね。
鶴のオブジェと磐座
物部神社の鶴のオブジェです。表参道の他にも祓戸付近に2体ほど安置されています。
また、その先には注連縄の張られた磐座が祀られており、鶴はまるで狛犬の様な形に配置されています。
この磐座に関しては具体的に説明が無いのですが、いったい何の神を祀っているのでしょうか?
後神社
物部神社の摂社・後神社(うしろじんじゃ)です。
祭神にウマシマジの妃である師長姫命(シナガヒメ)を祀っています。
一瓶社
物部神社の末社・一瓶社(いっぺいしゃ)です。
祭神に佐比売山三瓶大明神(さひめやまさんべだいみょうじん)を祀っています。
なお、付近には小さな石祠と神井があります。
乙見社・須賀見社
物部神社の末社である乙見社(おとみしゃ)と須賀見社(すがみしゃ)です。
一つの社殿に二社が合祀されており、それぞれにウマシマジの子孫を祀っています(末尾に記載)。
神代七代社(東五社)・荒経霊社
物部神社の末社・神代七代社(かみよななよのやしろ)です。
東五社とも呼ばれ、祭神に神代七代の神々を祀っています(末尾に記載)。
神札所
物部神社の神札所です。
御守や御札の授与が行われており、石見神楽の面形の開運御守があることが珍しいです。
また、アニメ『秘密結社鷹の爪』ともコラボしており、それに因んだグッズなども販売されています。
勝石(折居田のお腰掛岩)
物部神社の勝石(かちいし)です。
祭神のウマシマジが腰を掛けたとも伝えられることから「お腰掛岩」とも呼ばれています。
この勝石は、撫でると全ての願いに通じる勝運を授かることができるそうです。
折居田のお腰掛岩
その昔、祭神のウマシマジが白い鶴に乗って この河合に天降り、そこを鶴降山(つるぶやま)と名付けました。
そして、鶴降山から国見すると、八百山が大和の天香具山に大変似ていたため、その麓に宮居を構えることにしました。
鶴降山から鶴に乗って降りたところを「折居田(おりいでん)」といいます。
その折居田には祭神が腰を掛けたという大きな岩があり、また、昔から全く姿の変わらない1本の桜の樹もありました。
現在は境内に遷されましたが、当初の折居田は神社から東の方角にあり、そこには石碑が建ててあります。
菅原社
物部神社の末社・菅原社(すがわらしゃ)です。
祭神に菅原道真公(すがわらのみちざね)を祀っており、受験合格や雷除などに神徳があるとされます。
柿本社
物部神社の末社・柿本社(かきのもとしゃ)です。
祭神に柿本人麿朝臣(かきのもとひとまろ)を祀っており、学業成就や安産、防火などに神徳があるとされます。
なお、案内板によれば、物部氏の流れであるという説があるそうです。
粟島社
物部神社の末社・粟島社(あわしましゃ)です。
祭神に少彦名命(スクナヒコナ)を祀っています。
八重山社
物部神社の末社・八重山社(やえやましゃ)です。
祭神に伊邪那美命(イザナギ)、大山祇神(オオヤマヅミ)、若布都主神(ワカフツヌシ)を祀っています。
皇祖四代社(西五社)・荒経霊社(西五社の一)
物部神社の末社・皇祖四代社(こうそよんだいしゃ)と荒経霊社(あらふつみたましゃ)です。
皇祖四代社は西五社とも呼ばれ、荒経霊社は西五社の一とも呼ばれています(祭神は末尾に記載)。
稲荷社
物部神社の末社・稲荷神社(いなりしゃ)です。
主祭神に稲倉魂命(ウカノミタマ)を祀り、大穴牟遅命、大年神、大地主神を合祀しています。
御神墓
物部神社の御神墓です。
本殿裏の八百山の頂上にあり、祭神であるウマシマジの墓とされています。
詳しくはこちらの記事を参照:【物部神社の御神墓】
社務所
物部神社の社務所には祭神のウマシマジの銅像が安置されています。
そのほか神社にまつわる各種資料も置かれています。
料金: 無料
住所: 島根県大田市川合町川合1545
営業: 6:00~18:00頃
交通: 大田市駅(徒歩65分)、石見交通バス「川合バス停」下車(徒歩1分) ※自動車推奨
公式サイト: http://www.mononobe-jinja.jp/
住所: 島根県大田市川合町川合1545
営業: 6:00~18:00頃
交通: 大田市駅(徒歩65分)、石見交通バス「川合バス停」下車(徒歩1分) ※自動車推奨
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「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。
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