人文研究見聞録:高野山 [和歌山県]

和歌山県伊都郡高野町にある高野山(こうやさん)です。

平安初期に空海(弘法大師)が修行の場として開創した霊山であり、高野山真言宗(真言密教)の聖地として知られています。そのため、山上には壇場伽藍と呼ばれる根本道場を中心とした寺院の数々が軒を連ねています。

よって、現代における高野山とは「高野山真言宗によって形成された宗教都市」という風に捉えた方が分かりやすいかもしれません。なお、2004年に「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産にも登録されています。

空海(弘法大師)についてはこちらの記事を参照:【空海(弘法大師)とは?】


高野山の概要

高野山の地理・気候


人文研究見聞録:高野山 [和歌山県]

地名としての高野山は、八葉の峰と呼ばれる標高約1,000m前後の峰々(今来峰・宝珠峰・鉢伏山・弁天岳・姑射山・転軸山・楊柳山・摩尼山)に囲まれた地域を指し、その地形は八葉蓮華(8枚の花弁を持つ蓮の花)と形容されています。

また、山上に位置していることから年間の平均気温が地上よりも6~10℃程度低く夏は涼しいが、冬の寒さは厳しい」という気候であるため、寒いシーズンには服装に気を付ける必要があります。

高野山の都市形成


人文研究見聞録:高野山 [和歌山県]

都市としての高野山は、山内の全てを「一山境内地(金剛峯寺の境内)」とする巨大な宗教都市を形成しており、そのうち 大門地区、伽藍地区、本山地区、奥院地区、徳川家霊台地区、金剛三昧院地区の6地区が国の史跡に指定されています。

また、それらを世界遺産の構成要素としているため、現在ではそういった史跡を観光資源の中心とする観光地として栄えているといった様子が伺えます。

高野山の移動手段


人文研究見聞録:高野山 [和歌山県]

山内の移動手段として、バスが主要な交通機関とされています。各観光施設の付近にはバス停があり、移動に関してバスを利用すれば ほぼ事足ります。また、大門から奥之院まで歩いても知れているので、午前中から夕方にかけて各施設を廻る場合は、歩いて観光した方が時間を有効に使えるかも知れません(自分は歩いて観光しました)。

ただし、南海線を使って来た場合は高野山駅から続く道がバス専用道路となっているため、バスの利用をせざる負えません。よって、個人的には1,000円以下で買えるバスの「一日フリー乗車券」を利用して観光することをオススメします(各施設やお土産品などの割引券も付いているのでお得です)。

国道480号を経由して徒歩で大門方面へ行くこともできるが、かなり時間がかかる(約1時間)

高野山の観光について


人文研究見聞録:高野山 [和歌山県]

高野山の観光客は、おおよそバスツアーか南海線で訪れる客が多く、交通機関は平日でも割と混んでいることが多いと思われます。また、観光客の年齢層は高く、かつ、外国人観光客も多く見られます。

観光のルートは主に「奥之院 → 金剛峰寺 → 壇上伽藍 → 霊宝館」というルートの人気が高く、この流れで観光するのが一般的とされているようです。しかし、このコースは混むことが予想されることから、大門から歩いて奥之院を目指して史跡巡りをするという人混みを避けたルートもあります。

個人的に後者のルートを実践してみましたが、こだわりを捨てて効率的に廻れば日帰りでも十分巡ることができ、かつ、バス移動では発見しがたい史跡なども発見することができました。よって、観光前に目的の施設を定めて、それに沿ったルートを計画するのが最も効率よく観光できる方法であると思われます。

なお、山内の各施設は17:00に閉まる所が多いため、施設への入館は16:00を目安に考えて計画を立てておく必要があります。また、名物の「笹巻あんぷ」は早めに売り切れることが多いので、購入する場合は早めに訪れましょう。

観光時間は11:00~17:00までの約6時間であり、かつ、山内での食事は省いた(単独行動)

高野山の空海伝説

高野山にまつわる空海の伝説を紹介します(下記の説話は、いくつかあるバリエーションの一つです)。

高野山開創伝承


人文研究見聞録:高野山 [和歌山県]

空海が修行に適した土地を探して歩いていたところ、大和国宇智郡で黒と白の2匹の犬を連れた狩人に出会った。

狩人は犬を放ち、それについていくようにと空海に告げた。空海は言われるままに犬についていくと、今度は紀伊国天野という所で土地の神である丹生明神(にうみょうじん)が現れた。

空海は丹生明神から高野山を譲り受け、伽藍を建立することになった。

その後、犬を遣わした狩人が狩場明神(かりばみょうじん)の化身であることが分かり、空海は高野山の中心である壇上伽藍に社殿を建てて、狩場明神と丹生明神を鎮守の神として祀ったという。

三鈷の松


人文研究見聞録:高野山 [和歌山県]

弘法大師が唐より帰国される折、明州の浜より真言密教をひろめるにふさわしい場所を求めるため、日本へ向けて三鈷杵(さんこしょ)と呼ばれる法具を投げた。

すると、たちまち紫雲たなびき、雲に乗って日本へ向けて飛んで行った。後に空海が高野近辺に訪れたところ、狩人から夜な夜な光を放つ松があるとの噂を聞いた。

早速その松へ行ってみると、そこには唐より投げた三鈷杵が引っかかっており、空海はこの地こそ密教を広めるに相応しい土地であると決心したという。

高野山の主要な観光施設

壇場伽藍(壇上伽藍)


人文研究見聞録:高野山 [和歌山県]

高野山の壇場伽藍(だんじょうがらん)は、空海(弘法大師)が曼荼羅の思想に基づいて創建した密教伽藍の総称であり、奥之院と共に高野山の二大聖地の一つとされています。

主に金堂・根本大塔・御影堂・不動堂が見どころとされており、根本大塔の付近には飛行三鈷杵が掛かっていたとされる「三鈷の松」があります。この松の葉は三葉であることが珍しく、金運や子授けの御利益があるという俗説から、この葉を探すことも高野山観光の醍醐味の一つとされているようです。

詳しくはこちらの記事を参照:【高野山・壇場伽藍】

総本山金剛峯寺


人文研究見聞録:高野山 [和歌山県]

高野山の金剛峯寺(こんごうぶじ)は高野山真言宗の総本山とされる施設であり、かつては高野山全体を指す呼称であったとされています。ただし、現在は青巌寺と興山寺の2つの寺院が合併した施設を指す呼称となっています。

なお、寺内には数々の仏像や屏風絵が安置されており、「蟠龍庭」という日本最大の石庭もあります。また、別殿では湯茶の施しが行われ、僧侶による法話も披露されています。

詳しくはこちらの記事を参照:【高野山・金剛峯寺】

奥之院


人文研究見聞録:高野山 [和歌山県]

高野山の奥之院は高野山の信仰の中心地とされ、弘法大師御廟(弘法大師が入定している場所)があるため、壇場伽藍と共に高野山の二大聖地の一つとされています。そのため、御廟橋の先は聖域とされ、不敬な行いは御法度とされています。

なお、奥之院の参道には、皇室、公家、大名などの墓が多数並んでおり、その中には歴史教科書に名を連ねるような有名な戦国武将の墓も数多く見られます。また、企業の慰霊碑なども多数建立されており、その企業に因む珍妙なオブジェが設置されているものも数多く見られます。

詳しくはこちらの記事を参照:【高野山・奥之院】

高野山霊宝館


人文研究見聞録:高野山 [和歌山県]

高野山の霊宝館では、高野山上にある国宝・重要文化財等の保存・展示が行われており、定期的にテーマを絞った展示会が開催されています。

仏像・仏具・仏画などが主な展示物となっています。

大門


人文研究見聞録:高野山 [和歌山県]

高野山の大門(だいもん)は、高野山全体の総門とされており、高さ25.1mを誇る巨大な門となっています。そのため、左右に祀られる金剛力士像も一際大きいものとなっています。

詳しくはこちらの記事を参照:【高野山・大門】

苅萱堂


人文研究見聞録:高野山 [和歌山県]

高野山の苅萱堂(かるかやどう)は、金剛峯寺子院の密厳院が管理している地蔵堂であり、苅萱道心と石童丸の哀話の舞台としても知られているそうです。

詳しくはこちらの記事を参照:【高野山・苅萱堂】

高野七弁天


人文研究見聞録:高野山 [和歌山県]

高野山の弁天岳から流れる御殿川の支流には弁財天を祀る7つの祠があり、それを総称して「高野七弁天」と呼ばれています。

なお、この高野七弁天とは、嶽弁財天社、祓川弁財天社、湯屋谷弁財天社、首途弁財天社、尾先弁財天社、綱引弁財天社、丸山弁財天社を指し、その御神体のほとんどは、宇賀神もしくは宇賀弁財天であると云われているそうです。

宇賀神とは?


人文研究見聞録:宇賀神とは?

宇賀神(うがしん)とは中世以降に信仰された蛇神であり、その姿は主に人頭蛇身で蜷局(とぐろ)を巻く形で表され、頭部も老翁や女性であったりと一様ではないとされます。しかし、詳しいことは分かっておらず、宇賀神については諸説唱えられています。

主な説では、宇迦之御魂神などと同様に、穀霊神・福徳神として民間で信仰されていた神と推測され、これが比叡山の延暦寺(天台宗)の教学に取り入れられて仏教の神(天部)である弁才天と習合あるいは合体し、この合一神は宇賀弁才天とも呼ばれるようになったと云われています。そのため、小さな宇賀神がしばしば弁才天の頭頂部に乗った姿で表わされるとされます。

また、一説には、平安期以降に起こった神仏習合の折、宇賀神は性質の似通った弁財天と習合して宇賀弁財天となったとされ、その説における宇賀神は倉稲魂命(ウカノミタマ)または保食神(ウケモチ)であるとされます。なお、神名にある「う」もしくは「け」は穀物を意味し、五穀を司る神でしたが、蛇のことを「宇加(うか)」といったことから、宇賀神が蛇に転じ、財富の神になったとも云われています(偽教とされる『弁才天五部経(宇賀神王陀羅尼経)』に基づく説)。

ちなみに、水を司る龍神とされる龗神(オカミ)も民間伝承などでは人頭蛇身の神とされ、宇賀神の特徴と一致します。また、中国神話に登場する伏羲(フッキ)と女媧(ジョカ)も類似した特徴を持ち、男女一対の形で表わされることが多いことから、宇賀神との関連性を指摘する意見もあるようです。

料金: 入山無料(施設によって異なる)
住所: 和歌山県伊都郡高野町高野山
営業: 8:30~17:30(主な施設)
交通: 高野山駅ほか

公式サイト: http://www.koyasan.or.jp/
matapon
著者: matapon Twitter
「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。