人文研究見聞録:北野天満宮 [京都府]

京都市上京区にある北野天満宮(きたのてんまんぐう)です。

菅原道真公を祀る全国の天満宮・天神社の総本社とされており、「天神信仰の発祥の地」といわれています。

地元では「北野の天神さん」「北野さん」と呼ばれているそうです。

なお、太宰府天満宮(福岡県)と共に天神信仰の中心地であり、日本三大天神の一つに数えられています。


神社概要

由緒

人文研究見聞録:北野天満宮 [京都府]

ウィキペディアによれば、天慶5年(942年)、京都に住んでいた多治比文子(たじひのあやこ)という少女に神託が下り、その5年後にも近江国の神官の子・太郎丸に同様の神託が下ったため、天暦元年(947年)6月9日、朝廷が道真公を祀る社殿を建立させたことに始まるとされます。

なお、神社創建の背景には、昌泰4年(901年)、右大臣であった菅原道真は左大臣・藤原時平(ふじわらのときひら)の讒訴(ざんそ)によって無実の罪を被り、大宰府(福岡県)に左遷され、そのまま現地で没したという事件があります(昌泰の変)。

道真の死後、事件の原因となった時平をはじめ その親族らが相次いで病死し、都では落雷などの災害が多発したそうです。この一連の流れから「道真公の祟り」であるという噂が広まり、怨霊として恐れられたとされています。

そのため、怨霊を鎮め祀るという「御霊信仰」に基づいて、朝廷は道真公の没後20年目に左遷を取り消し、官位を復した後、正二位を追贈しています(怨霊を鎮めるために罪の帳消しを行い出世させた)。

また、天満宮建立の後、かつての政敵・藤原氏によって大規模な社殿の造営が行われており、永延元年(987年)に勅祭が行われ、その後に一条天皇から「北野天満宮天神」の神号が贈られています。これらの事から、北野天満宮は道真公の鎮魂を目的に建てられた神社であると考えられます。

なお、公式サイトによれば、当地は元々 天のエネルギーが満ちる聖地であったとされ、そこに建てられた天満宮であることから、天を司る天神と道真公が結びつけられた「天神信仰の発祥」とされています。また、

また、江戸時代に普及した寺子屋に「天神さま」として祀られることが多く、道真公の姿を描いた「御神影」が掲げられて学業成就や武芸上達が祈願されたことから「学問の神」や「芸能の神」として広く信仰されるようになったそうです。

祭神

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北野天満宮の祭神は以下の通りです。

【主祭神】

菅原道真公(すがわらのみちざね)平安中期の政治家(死後、天満天神として信仰される)

【相殿神】

・中将殿(菅原高視):道真公の長男
・吉祥女:道真公の正室

境内社

御后三柱

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北野天満宮の御后三柱(ごこうのみはしら)です。

一般的な神社では、拝殿から本殿を拝むのが普通とされていますが、北野天満宮においては本殿の背後にも道真公の三柱の先祖神を祀る「御后三柱」という社殿があり、かつては此処を含めて礼拝するのが習わしだったそうです。

そのため、現在でも北野天満宮の崇敬者らによって篤く尊崇されています。しかし、一般の参拝者や観光客にとっては、場所も意味合いも気付きにくいため、北野天満宮の七不思議のひとつに数えられています。

【祭神】

・天穂日命(アメノホヒ):道真公の先祖神(日本神話に登場する神)

・菅原清公卿(すがわらのきよきみ):道真公の祖父
・菅原是善卿(すがわらのこれよし):道真公の父

摂社

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地主神社

北野天満宮の摂社は以下の通りです。

・御后三柱:天穂日命・菅原清公卿・菅原是善卿を祀る(詳しくは上記参照)
・火之御子社:火雷神を祀る(雷除け・五穀豊穣の神)
・老松社:島田忠興翁(道真公の恩師)を祀る(植林・林業の神)
・白太夫社:度会晴彦翁(道真公の左遷の随従者)を祀る(子授け・安産の神)
・福部社:十川能福(道真公の舎人)を祀る(金運・開運招福の神)
・竈社:庭津彦神・庭津姫神・火産霊神を祀る(台所の守り神)
・文子天満宮:菅原大神(菅原道真公)を祀る(入試・学業成就)
・地主神社:(主祭神)天神地祇・(相殿神)敦実親王・斎世親王・源英明朝臣を祀る

末社

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北野天満宮の末社は以下の通りです。

・寛算社:寛算入寺を祀る(歯痛平癒の神)
・大門社:大門内供奉を祀る(災難除け・難問解決の神)
・橘逸勢社:橘逸勢を祀る(病気平癒の神)
・藤太夫社:藤太夫吉子を祀る(大願成就の神)
・文太夫社:文屋宮田麿を祀る(延命長寿の神)
・淳仁天皇社:淳仁天皇を祀る(心願成就の神)
・太宰少貳社:藤原広嗣(ぶじわらのひろつぐ)を祀る(武道上達・恵雨の神)
・櫻葉社:伊予親王を祀る(喉の病気平癒、音楽・声楽・謡曲上達の守護神)
・吉備大臣社:吉備真備公(きびのまきび)を祀る(家内安全の神)
・崇道天皇社:崇道天皇を祀る(五穀豊穣の神)
・高千穂社:瓊瓊杵命、天児屋根命を祀る(五穀豊穣の守り神)
・安麻神社:菅原道真公の息女を祀る(悩み事・憂い事の救済の神)
・御霊社:菅公の眷属神の御霊を祀る(開運招福の神)
・早取社:日本武尊を祀る(災難厄除けの神)
・今雄社:小槻宿祢今雄(こづきのすくねいまお)を祀る(仕事の守り神)
・貴布禰社:高?神祀る(水の守り神 運気発祥の神)
・荒神社:火産神、興津彦神、興津媛神を祀る(火と台所の守り神)
・神明社:天照大御神・豊受大御神を祀る(家内安全・家業発展)
・文子社:(主祭神)多治比文子・(相殿)神良種・太郎丸・最鎮を祀る
・夷社:事代主命を祀る(漁業・商業繁盛の守護神)
・松童社:神太郎丸を祀る(厄除)
・八幡社:誉田別尊(応仁天皇)を祀る(厄除)
・若松社:若松章基を祀る
・那伊鎌社:建御名方命を祀る(農業の守護神)
・一拳社:一言主神を祀る(一願成就の神)
・周枳社:天稲倉宇気持命(アメイナノウケモチ)、豊宇気能媛を祀る(縁結・夫婦円満)
・宰相殿社:菅原輔正卿を祀る(学業成就の神)
・和泉殿社:菅原定義卿を祀る(学業成就の神)
・三位殿社:菅原在良卿を祀る(学業成就の神)
・大判事社:秋篠安人卿を祀る(立身出世の守り神)
・豊国神社:豊臣秀吉公を祀る(開運・立身出世の神)
・一夜松神社:一夜千松の霊を祀る(延命長寿の神)
・野見宿祢神社:野見宿祢命(道真公の先祖)を祀る(スポーツ上達)
・一之保神社:菅原大神(菅原道真公)を祀る(学業成就)
・奇御魂神社:道真公の奇御魂を祀る(文芸・歌道上達の神)
・稲荷神社:倉稲魂神・猿田彦神・大宮能売神を祀る(五穀豊穣・商売繁盛・火難除)
・猿田彦社:(主祭神)猿田彦神・(相殿)大宮能売神を祀る(芸能・舞踊上達)
・宗像社:田心媛神・湍津媛神・市杵島媛神を祀る(交通・海上運輸安全)
・伴氏社:菅原道真公の母を祀る(子供の成長と学業成就を守護)
・牛社
・大杉社

関連知識

菅原道真公の御神徳

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公式サイトによれば、祭神の菅原道真公には以下のような御神徳があるとされています。

・学問・和歌・連歌の神:道真公が、幼少の頃から和歌や文才に秀でていたことから
・正直・至誠の神:道真公が、誠実な人生を貫かれたとされることから
・冤罪を晴らす神:道真公の死後、冤罪が晴れた事から
・農耕の神:道真公(天神様)と結びついた雷神が農業に必要な雨を降らせることから
・渡唐天神(中国の天神):室町期に広まった「道真公が唐で禅を学んだ」という内容の説話から
・芸能の神:出雲阿国が初めて歌舞伎踊を演じたという記録などから
・厄除の神:毎年2月25日の梅花祭の紙立に、男女の大厄を祓うという意味が込められていることから

天満宮と牛

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菅原道真公は遺言として「遺骸を牛舎に乗せて人に引かせず、牛の赴くところに留めよ」と言ったとされ、その通りに牛が止まった場所に葬られたとされています。この他にも道真公には牛にまつわる逸話が多数あり、具体的には以下の様なものがあります。

・承和12年(845年)乙牛6月25日(丑年)に道真公は生誕した
・貞観元年(859年)己卯月2月乙、元服の夜に白牛が角を挫いて死ぬ夢を見た道真公はを画き、酒を供えて尊拝した
・寛平5年(893年)癸丑9月、茸狩りの宴の際に道真公の前に敬う様子の小牛が現れたので、喜んで館に連れ帰った
・道真公が太宰府に向かう途中で時平の刺客に襲われた際、都で育てたが飛び出て刺客の腹を突き刺して助けたという
・道真公の神号「天満大自在天神」における「大自在天神」は、仏教において白牛に乗るとされている
・道真公の神号「日本太政威徳天」は密教の大威徳明王に由来し、に騎乗する姿で表現されている
・天満宮でおなじみの臥牛像に諸病平癒の力があると考えられたのは、道真公が牛車を引く牛を可愛がったことに由来する

星梅鉢紋

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北野天満宮の神紋は星梅鉢紋(ほしうめばちもん)となっています。

道真公は生前「」をこよなく愛したとされており、大宰府左遷の際に庭の梅に和歌を詠んだことや、その梅が菅原道真を慕って一晩のうちに大宰府に飛来したという「飛梅伝説」ができたことから、梅が神紋となったとされています。

北野天満宮の七不思議

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公式サイトによれば、北野天満宮には以下のような七不思議があるとされています。

1.影向松:初雪が降ると天神様が降臨し、雪見を愛でながら詩を詠むという伝説がある
2.筋違いの本殿:北野天満宮の参道の正面に建つのは本殿ではなく、摂社の地主社である
3.星欠けの三光門:門の名は日・月・星の彫刻に由来するとされるが、「星」は北極星を指すため刻まれていない
4.大黒天の燈籠:大黒様の口に小石を乗せて落ちなければ、その小石を財布に入れておくと金に困らないと云われる
5.唯一の立ち牛:境内の牛は皆伏せた姿をしているが、拝殿に刻まれた牛は唯一立っている
6.裏の社:通常では本殿は拝殿から拝むものだが、北野天満宮には本殿の裏にも「御后三柱」という社がある
7.天狗山:境内の北西には天狗山と呼ばれる小山があり、かつて天狗が出没したという謂れがある

天神信仰の発祥の地

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公式サイトによれば、北野の地は都の守護を司る四方の北西(「乾」の地)に位置する重要な場所とされ、天満宮の建てられる前に天神地祇(天地全ての神々)を祀った「地主社」が建てられていたとされます。

かつて、天皇が大極殿から地主社に向けて祈りを捧げると北野の空に北極星が輝いたといわれており、日・月・星の運行と天皇・国家・国民の平和・安寧に結びつけた「三辰信仰」において、北野は「天のエネルギーが満ちる聖地」として信仰されていたそうです。

その後、当地に天満宮が建てられると霊験が増し、北野天満宮は天空を司る「天神」の社となって「天神信仰の発祥の地」と呼ばれるようになったとされています。

渡邊綱の燈籠

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北野天満宮の拝殿前には渡邊綱の燈籠があります。

渡邊綱(わたなべのつな)とは、頼光四天王の一人であり、大江山の鬼退治伝説で有名な平安時代の豪傑です。また、この燈籠の由来について以下の説話が残されています。

【渡邊綱の燈籠の由緒】

渡邊綱が所用で済ませようと夜中に一条戻橋の近くを通った際、そこで若く美しい女性に出会い、深夜なので家まで送って欲しいと頼まれた。

そこで、綱はその女性を連れてしばらく歩いていると、女性は急に恐ろしい鬼の姿となって綱の腕を捕らえて空中に舞い上がり、愛宕山へ連れ去ろうとした。

北野天満宮の上空に差し掛かったところで綱は太刀を抜き放ち、綱を掴んでいる鬼の片腕を切り落として難を逃れた。

後日、綱は天満宮の大神のおかげであると神恩に感謝し、この石燈籠を寄贈したという。

境内の見どころ

鳥居

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北野天満宮の鳥居です。

狛犬

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北野天満宮の鳥居前の狛犬です。

犬というより獅子のような形になっています。

影向松

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北野天満宮にある影向松(ようごうのまつ)です(北野天満宮の七不思議の一つ)。

表参道にあり、毎年三冬(初冬から晩冬)の間に初雪が降ると、「道真公が降臨して雪見の歌を詠む」という伝説があるそうです。


臥牛像

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北野天満宮の「臥牛像(がぎゅうぞう)」です。

」は天満宮の神使とされていることから、境内には多様なデザインの牛像が奉納されています。

楼門

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北野天満宮の楼門です。

屋根は檜皮葺きとなっており、両側には随神(ずいしん)が祀られています。

星欠けの三光門(中門)

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北野天満宮の三光門(さんこうもん)です(北野天満宮の七不思議の一つ)。

三光門日・月・星の彫刻があることから この名で呼ばれていますが、星の彫刻が見られないために、頭に「星欠け」と付いています。

なお、この「星欠け」については諸説あり、「"星"は 三光門の真上に輝く"北極星"を指すために敢えて彫られなかった」「"日・月・三日月の彫刻"であり、星は彫られていなかったため」などの説があるそうです。

回廊

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北野天満宮の回廊です。

国の重要文化財に指定されています。

拝殿

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北野天満宮の拝殿です。

現在の社殿は桃山時代(1607年)に豊臣秀吉の遺命によって豊臣秀頼が造営したものであり、国宝に指定されています。

軒下に刻まれた数々の木造彫刻が見どころとなっています。

唯一の立ち牛

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北野天満宮の「唯一の立ち牛」です(北野天満宮の七不思議の一つ)。

拝殿の屋根の中央に刻まれた牛の彫像であり、境内には「臥牛像(伏せた姿の牛)」が奉納される中、唯一立った姿で描かれていることから この名で呼ばれています。

何故立った姿で描かれたのかについては謎とされています。

拝殿の大鏡

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北野天満宮の拝殿には大鏡が設置されています。

これは参拝時に「自らの姿を映し出すことで、自分自身に誓う」という意味が込められていると云われています。

なお、神社にある鏡は一般的には円形をしていますが、当社の大鏡は角が八方向に伸びた特異な形をしています。

ちなみに、この大鏡は明治13年(1880年)に信者が奉納したものであり、倉から見つかった拓本によれば、裏に「世界地図」が刻まれていることが分かったそうです。

参考資料:京都新聞:大鏡裏面に世界地図

本殿

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北野天満宮の本殿です。

本殿は国の重要文化財、周囲の透塀は重要文化財に指定されています。

絵馬所

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北野天満宮の絵馬所です。

数多くの絵馬を所蔵している施設であり、外側には和歌の記された人物画が額に入れられて展示されています。

休憩所を兼ねているため、休憩しながら見物することができます。

神楽殿

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北野天満宮の神楽殿です。

狂言や日本舞踊が行われるほか、毎月25日に神楽舞が奉納されるそうです。

宝物館

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北野天満宮の宝物館です(有料)。

国宝「北野天神縁起絵巻 承久本」をはじめとする絵画や太刀などの文化財が保管されています。

なお、瑞饋祭の前には閉館され、代わりに祭で使用される鳳輦(ほうれん)という神輿が奉納されます。

料金: 無料(宝物館:一般300円、中学生250円、小学生以下150円)
住所: 京都府京都市上京区御前通今出川上る馬喰町
営業: 5:00~18:00(4~9月)、5:30~17:30(10~3月)
交通: 北野白梅町駅(徒歩9分)、京都市バス「北野天満宮前下車

公式サイト: http://kitanotenmangu.or.jp/
matapon
著者: matapon Twitter
「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。