人文研究見聞録:生島 [兵庫県]

兵庫県赤穂市坂越にある生島(いきしま、いくしま)です。

坂越湾に浮かぶ小島で、聖徳太子の側近であった秦河勝の墓所があることで知られています。


概要


人文研究見聞録:生島 [兵庫県]
地上から望む生島
人文研究見聞録:生島 [兵庫県]
生島御旅所

生島は坂越浦沖に浮かぶ周囲1630メートルの小島であり、伝承によれば皇極3年(644年)に聖徳太子の側近であった秦河勝が漂着したとされ「河勝が生きて漂着した島」であることから「いきしま」と名付けられたとされます。

また、島の正面にある大避神社の祭神である秦河勝(大避大神)が島内の古墳に葬られていることから、古くから神域として立ち入りが禁止されてきたそうです。

そのため、人の手の加えられていない自然な森林の姿が保たれており、学術的価値の高さから生島樹林(いきしまじゅりん)として大正13年(1924年)12月9日に国の天然記念物に指定されています。

なお、島の西側には河勝の墓所と神水井戸があり、東側には大避神社の御旅所と船倉があります。また、毎年10月の第2日曜日に行われる「坂越の船祭り」では、和船12隻による海上渡御が行われるほか、御旅所にて神事も行われます。

秦河勝とは?


人文研究見聞録:生島 [兵庫県]

秦河勝(はたのかわかつ)とは渡来氏族の秦氏出身で、飛鳥時代に聖徳太子の側近として活躍した人物です。なお、秦氏は古代に朝鮮半島の百済を経由して渡来したとされる氏族であり、一説に秦の始皇帝の後裔であるといわれています。

当時、河勝は秦氏の族長的な立場であり、『日本書紀』や『聖徳太子伝暦』には 丁未の乱に参戦して物部守屋を討ち取ったことや、京都の太秦に広隆寺を創建したことなどが記されています。また、秦氏は商業に長けていたことから、河勝は朝廷の財政にも関わっていたとされ、その財力によって四天王寺の造成が成し遂げられたともいわれています。また、河勝は猿楽・能楽の始祖であるとされ、大避神社にも蘭陵王の面が宝物として伝えられているそうです。

そのほかにも多くの伝説があり、例えば「聖徳太子が志能便(しのび)という諜報組織を作った」という話においては「河勝自身も志能便であり、その後裔が伊賀忍者として有名な服部氏になった」などといわれています。また「河勝は陰陽道に長けていた」という話においては「河勝の邸宅が四神相応に優れていたために跡地に平安京が造営された」とか「播磨の民間陰陽師である蘆屋道満の先祖である」などといわれているようです。他にも「香具師(やし、今でいうテキ屋)の祖である」ともいわれている謎の多い人物であり、どこまでが真実かは分かりませんが調べれば調べるほど興味をそそられます。

河勝の最期は歴史書には記されていませんが、大避神社の縁起によれば 皇極3年(644年)に蘇我入鹿の乱(上宮王家討伐のこと?)に伴う迫害を避けて海路より坂越に渡り、千種川の開拓を進めた後、大化3年(647年)に坂越の地で没したと伝えられており、死後に生島に設けられた古墳に葬られたとされています。

秦河勝についてはこちらの記事も参照:【秦河勝とは?】

坂越の船祭りとは?


人文研究見聞録:生島 [兵庫県]

坂越の船祭り(さこしのふなまつり)は、毎年10月の第2土日に行われる船祭です。

大避神社の縁起にある「皇極3年(644年)9月12日、秦河勝は蘇我入鹿の乱を避けて海路で坂越に漂着し、大化3年(647年)に坂越の地で没した」という伝承に基づいて、これを再現するべく江戸初期ころから始められた祭礼です。

この船祭の進行は2日間にわたって宵宮と本宮という形式で行われ、1日目の宵宮は、河勝が葬られたとされる生島の古墳前で墓前祭が行われ、この後 歌船が御船歌を奏しながら浦々を巡り、獅子舞が町内を巡るというものになっています。

2日目の本宮は、櫂伝馬船が坂越湾を巡った後、大避神の分霊を神輿に遷す御霊祭が行われ、猿田彦・神楽獅子を先頭にした神輿行列が神社を出て浜に向かいます。神輿が浜辺に到着すると櫂伝馬船も着船し、橋板バタ掛けが行われて御神体が神輿船に乗船します。この後、和船12隻が船行列を組んで巡航し、生島にある御旅所にて神事が行われます。神事が終わると浜に篝火が焚かれる中 船行列による還幸巡航が行われ、神輿行列も神社に戻ってきます。そして、拝殿にて宮入鎮座祭が行なわれると一連の祭事の終了となります(本宮は12:30~19:00まで行われる)。

この坂越の船祭りには、今でも伝統的な造船技法で和船が用いられることや、御歌・雅楽・演芸などに古来からの伝承を踏襲した伝統芸能的要素が数多く含まれていることから国内でも他に類例のない船祭として全国的に有名で、瀬戸内海三大船祭りの1つに数えられるほか、国の重要無形民俗文化財にも指定されています。

料金: 無料
住所: 兵庫県赤穂市坂越(マップ
営業: 終日開放
交通: 坂越駅(徒歩24分)

公式サイト: http://ako-kankou.jp/sightseeing/ikushima.html
matapon
著者: matapon Twitter
「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。