人文研究見聞録:坂社・藤社・上座蛭子神社 [三重県]

三重県伊勢市八日市場町にある坂社(さかしゃ)です。

古くから当地に鎮座する古社とされ、当地の産土神を祀っていたとされています。

そのため、毎年2月に古来の伝統を伝える特殊神事「御頭神事」が行われているそうです。

なお、中世には定期的に市場が開かれていたとされ、その市場の守り神を祀る上座蛭子社も鎮座しています。


神社概要

由緒

由緒書によれば、創建年代は不詳とされるものの、古来より当地方は山田ヶ原と称されており、宮川の分流が幾筋も流れ、堰(せき)や原野があったことから、水止野・清野・前野・美野・坂野などと呼ばれる土地があり、それぞれの土地には、土地の名を付けた産土神を祀っていたとされます(古記録より、およそ8世紀の奈良朝末期に創祀された古祠であると推察されるとも)。

これらは産土神八社と称され、当社もその八社の一つとして古くから当地に鎮座し、かつては坂野村社、坂村社、坂村殿、坂殿社などと呼ばれていたとされますが、後に坂社と改称し、明治4年11月に村社に列せられて現在に至るとされています(昭和20年7月に藤社を合祀したとも)。

なお、明治12年(1879年)の『神社明細帳』には「この社、地名をもって称す、(中略)中古山田を坂、須原、岩淵の三方に分かつ、その坂方地方の人民崇敬せし産土神と申し伝え候也」とあるそうです。また、毎年2月には特殊神事である「御頭神事」を行っており、山田地方の八頭の一つとしての由来と伝統を現在に引き継いでいるとされています。

祭神

坂社の祭神は以下の通りです。

主祭神

・正勝吾勝勝速日天之忍穂耳尊(オシホミミ)
・天之菩卑能命(アメノホヒ)
・天津日子根命(アマツヒコネ)
・活津日子根命(イクツヒコネ)
・熊野久須比命(クマノクスビ)
・多紀理比賣命(タギリヒメ)
・市寸島比賣命(イチキシマヒメ)
・多紀津比賣命(タギツヒメ)

※上記はスサノオとアマテラスの誓約で生まれた神々(五男三女神とも)

合祀神

・譽田別尊(ホムダワケ):第15代天皇であり、八幡神として信仰される
菅原道真公平安中期の政治家であり、死後に学問の神として祀られるようになった

藤社合祀神

・彦國見賀岐建與束命(ひこくにみがきたけよつかのみこと):渡会国の守護神で、渡会氏の祖される
・柿本人麻呂公(かきのもとひとまろ):飛鳥時代の歌人であり、死後に人丸神として信仰される

境内社

伊勢上座蛭子社

人文研究見聞録:坂社・藤社・上座蛭子神社 [三重県]

坂社の境内社である伊勢上座蛭子社(いせかみざえびすしゃ)です。

中世、当地は毎月8の付く日に市場が立って賑わっていたとされ、その市場の護り神を祀る社であるとされています。

そのため、現在でも1月、5月、8月8日には蛭子祭が行われているそうです。

なお、市場の開かれた年代や、当社の御縁起画等の資料から、鎌倉中期の創祀であると推定されています。

祭神

・蛭子大神(ヒルコ):恐らくイザナギ・イザナミの子の蛭子であり、えびす神と習合したものと思われる

坂之森稲荷社

人文研究見聞録:坂社・藤社・上座蛭子神社 [三重県]

坂社の境内社である坂之森稲荷社です。

創建由緒は不明ですが、稲荷神・宇賀御霊神(ウカノミタマ)を祀る稲荷社となっています。

なお、社殿には祭神として多くの稲荷神の名前が挙げられています。

祭神

・宇賀御霊神(ウカノミタマ):稲荷神であり、多くの稲荷社で祀られている
 ・運動稲荷大神(大和稲荷大神)
 ・振袖稲荷大神
 ・福壽稲荷大神
 ・藤陰稲荷大神
 ・火除稲荷大神
 ・重成稲荷大神
 ・小杉稲荷大神
 ・金吉稲荷大神

境内の見どころ

鳥居

人文研究見聞録:坂社・藤社・上座蛭子神社 [三重県]

坂社の鳥居です。

曽祢の石

人文研究見聞録:坂社・藤社・上座蛭子神社 [三重県]

坂社の曽祢の石(そねのいし)です。

昭和2年の拡張工事中に、旧石垣の中から発見されたものとされています。

なお、曽祢■と刻まれていることから、かつて「曽祢口」と称された場所に建てられていたと推測されているようです。

霊石

人文研究見聞録:坂社・藤社・上座蛭子神社 [三重県]

上座蛭子社の前にある霊石です。

石碑に「福招く云々」とされていることから、拝むと福を招くとされているものと思われます。

遥拝所

人文研究見聞録:坂社・藤社・上座蛭子神社 [三重県]

坂社の遥拝所です。

おそらく伊勢神宮の遥拝所となっていると思われます。

なお、遥拝所の石碑の下には小さな磐座が祀られています。

坂銀杏

人文研究見聞録:坂社・藤社・上座蛭子神社 [三重県]

坂社の坂銀杏(さかぎんなん)です。

明治20年頃の祭礼の時に杭として逆さまに打ち込まれたものが、根付いて生長した銀杏とされています。

なお、木の枝が一度下がり、そこから上を向いて伸びているのが特徴となっているそうです。

そのため、坂社と坂さまの「さか」に引っかけて「坂銀杏」と名付けられたとされています。

料金: 無料
住所: 三重県伊勢市八日市場町12-10
営業: 終日開放
交通: 伊勢市駅(徒歩14分)

公式サイト: http://kyoka.mie-jinjacho.or.jp/shrine/%E5%9D%82%E7%A4%BE/
matapon
著者: matapon Twitter
「日本神話」を研究しながら日本全国を旅しています。旅先で発見した文化や歴史にまつわる情報をブログ記事まとめて紹介していきたいと思っています。少しでも読者の方々の参考になれば幸いです。